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第21ステージの28.8km地点でベルサイユ宮殿前を通過する
ツール・ド・フランス2021でプロトンが訪れる、サイクルロードレースファンならずとも一度は訪れてみたい各土地の歴史と伝統に彩られた魅力をお届けします。
パリ / Paris
ツール・ド・フランスのフィナーレといえば首都パリのシャンゼリゼ大通り。ここを完全封鎖してサーキットとする一大スペクタクルなシーンだ。世界で最も美しいと言われるシャンゼリゼにツール・ド・フランスの選手たちが凱旋するようになったのは最近のことで、じつは1975年からだ。
第21ステージのスタート地点mシャトゥ
1903年の第1回大会はこのイベントに対する評価がまだ得られなかったことがあり、パリには入城できなかった。ポルトと呼ばれる城門の外に位置するヴィルルダブレーにゴールするのが精いっぱいだったようだ。
その翌年から1966年まではパリ16区のパルク・デ・プランスに。当初は自転車競技場だった施設だが、現在はサッカープロチームのPSGが拠点とするサッカースタジアムとなっている。そして1967年から1974年までは、ブローニュの森とはパリ中心地をはさんで反対にあるヴァンセンヌの森にゴールした。
1975年からようやくシャンゼリゼがゴールとなり、2013年の100回記念大会からは、それまでエトワール凱旋門前で折り返していたコースを変更し、凱旋門を大回りするコースに変更された。
2019年には、その年の4月に火災で大きな被害を受けたノートルダム大聖堂があるセーヌ川の中洲、シテ島を走った。パリの象徴であり、火災によって多くの市民が涙を流して悲しんだ大聖堂をツール・ド・フランスが見舞ったのである。
2021年も1周6.8kmのサーキットコースを8周回する。花の都パリが誇る世界有数の目抜き通りを走り、ナポレオンの勝利を記念して建造されたエトワール凱旋門を回って折り返し、フランス革命時代にはルイ16世やマリー・アントワネットが断頭台の露と消えたコンコルド広場を貫通。セーヌ川沿いを駆け抜け、チュイルリー公園をグルッと回るためにルモニエの地下道を通って反対側のリヴォリ通りへ。再びコンコルド広場を突き抜けて上り坂となったシャンゼリゼにゴールする。
2021年はリヴォリ通りが工事のため狭くなったことで、コンコルド広場の最終コーナーが難しくなり、そのためゴールラインを凱旋門側に300m移動させたという。
2013年の第100回大会
23日間の長丁場を共にした広告キャラバン隊には、最終日にごほうびが用意されている。選手到着の2時間近く前に彼らの車両がシャンゼリゼを1周だけ走ることが許されるのだ。キャラバン隊だけではない。大型カミオンの施工班、沿道の危険箇所に干し草の束を置いて選手の安全を確保してきた道路班も、大観衆が見守る世界で最も華やかな大通りを映画の主役になった気分で走るのだ。
残念ながら取材陣はシャンゼリゼを1周できない。厳密にはチュイルリー公園を回ってリヴォリ通りからコンコルド広場に入った瞬間に、「はい、アナタは地下駐車場ね」と、シャンゼリゼ大通りの直前で真っ暗な地下道に案内されるというオチだ。
表面的には華やかで、興奮の最高潮に感じられるようなパリ。ただし、そこには夏祭りが終わってしまうさみしさが随所に漂う。最終日前日のゴール地点で総合優勝者は記者会見を済ませてしまう。パリのゴール後は撮影をメインとした表彰式があるものの記者会見はもう行われない。
もちろん最も派手なステージ優勝や積極果敢な走りで敢闘賞を獲得するなど、それは特別な位置づけとして評価されるのだが、23日間を通してのツール・ド・フランスはすでに前日で終了したと言ってもいい。イタリアあるいはスペインのチームスタッフはパリに来ることなく帰宅して、次のレースに備えているなんてこともある。
パリに本社や自宅のあるフランス人記者も、最終日には久々の出社をしたりするので、もうその姿を見ることはない。最終日前日までの取材メモで原稿を書く。華やかなシャンゼリゼの現場はカメラマンに任せておく。過酷だけど思い出深いフランス一周の旅も選手とともにフィナーレを迎える。
シャンゼリゼの表彰式が終わるころには、さすがのフランスも日の短さを感じる。夏祭りが終わった
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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