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サンテミリオンは小さな町だが、世界中にその名が知られている
ツール・ド・フランス2021でプロトンが訪れる、サイクルロードレースファンならずとも一度は訪れてみたい各土地の歴史と伝統に彩られた魅力をお届けします。
サンテミリオン / Saint-Emilion
フランスの重要な港湾・商業都市であるボルドーにツール・ド・フランスがゴールするときのプレスセンターは、茶色ににごったガロンヌ川沿いにあるワインの旧集積場だった。最近はあまりボルドーを訪れなくなったとはいえ、「スプリンターにとってボルドーで勝つことはとても名誉なことだ」と、過去にここで優勝したスーパースプリンターから聞いたことがある。
サンテミリオン中心地のレストラン
このあたりは大平原で、ボルドーがゴールとなったステージの歴代優勝者にはスプリンターの名前がずらりと並ぶ。ボルドーにゴールした直近のステージ、2010年の第18ステージも平たんな198kmで争われたが、平たん区間の多くがそうであるようにこのときも大集団によるゴール勝負となり、英国のマーク・カヴェンディッシュが得意のスプリントで優勝した。この大会4勝目、大会通算14勝目という力強さだった。
ボルドーが首府となるヌーヴェルアキテーヌ地域圏は、ツール・ド・フランスが右回りのルートを取るときに、最終日前日のステージの舞台となることが多い。2012年はブリブラガヤルドにゴールした。2014年はベルジュラック〜ペリグー間で第20ステージが行われた。
第19ステージのスタート地、ムーラン
そして最終日前日が個人タイムトライアルとなるときは、この地で個人総合成績がほぼ確定する。2010年は最終日前日の第19ステージとして、ボルドーからポーリャックまで走る距離52kmの個人タイムトライアルが行われたのだが、コースはボルドー中心地からジロンド河口の西岸を52km北上して、ポーリャックにゴールした。
海のように広大なジロンド河口にかかる橋はないので、パリに戻るためには再びボルドーまで南下して戻り、改めてパリを目指さなければならない。ということは往復104kmとパリまでの550km。この日の原稿を書き終えてからの移動距離である。
初日から大会に随行しているスタッフは疲労を一気に覚える時期だった。ピレネーの山岳区間が終了して一段落した感もあった。レースが終わってボルドーまでのひたすら一直線の道を戻る。いわゆるメドック地区なので、赤ワインの原料となるブドウ畑が地平線まで続く。眠気も誘われるだろうが、そこは必死で前を向いてハンドルを握った。そんな矢先、「パリまで550km」という標識を見たときは気絶しそうになった…。
サンテミリオンのブドウ畑
フランスの田舎町を転戦してきた選手や関係者にとって、ボルドーは久々に出会う大都会だ。「あー、もうすぐ終わりか」と感慨にふけってたそがれているスタッフもいる。そんなボルドーのプレスセンターでは当然のようにボルドー産の赤ワインがふるまわれるので、運転をしない記者やカメラマンなら好きなだけ味わうことができる。この地域の歴史や文化が作り上げてきたボルドーワインは最高においしく感じる。
2021ツール・ド・フランスの最終日前日、個人タイムトライアルの行われるリブルヌからサンテミリオンにかけても、ボルドー銘柄が名乗れるボルドー近郊のワイン産地のひとつだ。
サンテミリオンの集落を一望する
ボルドー左岸がメドック、右岸がサンテミリオンで、どちらも世界中のワイン通をうならせるものばかり。とりわけサンテミリオン歴史地区は周辺の7つのコミューンの景観とともに、「サンテミリオン地域」の名でユネスコの世界遺産に登録されている。ワイン産地が世界遺産に登録されたのはサンテミリオンが初めてのことだ。
サンテミリオンの町は聖地サンティアゴデコンポステーラへの巡礼時の宿場町として古くから栄え、中世ヨーロッパそのままの町並みが残る。人口2000人弱という小さなエリアに、ワイン生産者がひしめき合っている。
タイムトライアルのコース脇にもワイン醸造の重厚なシャトーが点在するはずだ。心にゆとりがあれば美しい景観を楽しむドライブになるが、この日のホテルはひたすら遠い。
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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