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アンドラ・アルカリスにゴールした2016年はサッカー欧州選手権決勝が夜にあり、ポルトガルが初優勝。アンドラはポルトガルからの移住者が多いので盛り上がった
ツール・ド・フランス2021でプロトンが訪れる、サイクルロードレースファンならずとも一度は訪れてみたい各土地の歴史と伝統に彩られた魅力をお届けします。
アンドラ / Andorre
ピレネー山中にあってフランスとスペインにはさまれたアンドラ公国は、東京23区よりもひとまわり小さい国土面積だが、そのほとんどは急しゅんな山々や断崖絶壁。川沿いの一部に人口7万人が日々の営みを続けている。夏は乾燥して過ごしやすく、冬はいちめんの銀世界に。そのためMTB、トレッキング、スキーなどのアウトドアスポーツが盛んだ。
2009年第7ステージ、アルカリスの激坂で道端の日本人取材陣を見つけて笑顔を見せる新城幸也
アンドラはそもそもEU(欧州連合)に加盟していない。日本の外務省のホームページを調べてみると、1993年に国家として認められたが、国家元首は10世紀ごろからこの土地を統治していたウルヘル司教とフランス大統領が共同元首で務めているという。また、アンドラにおける日本大使は在仏日本大使が兼任するというもので、やはりフランスとの関係は表裏一体であるようだ。
消費税がない免税天国だというイメージがあるが、2012年1月から法人税と非居住者に対する直接税を導入したのを皮切りに、翌2013年1月には付加価値税4.5%、2015年1月からは個人に対する所得税(基本税率10%)を課すようになった。2018年12月のEU経済・財務理事会においてようやくグレーリストから削除されたという。以上、外務省ホームページより。
独自通貨を持たないので、ユーロ通貨導入前はフランスフランやスペインペセタがそのまま使えた。ツール・ド・フランスの大会ディレクターが先代のジャンマリー・ルブランの時代は休息日をアンドラで過ごすことがひんぱんにあった。選手や関係者が買い物をしたいというわけではないと思うが、ホテルやレストランが安くて落ち着ける。首都のアンドラ・ラ・ベリャを離れれば山小屋風の宿泊施設や旅情あふれるレストランなどが点在する。そのため激戦のつかの間に心身を休めたいという気持ちがそうさせるのだと推測していた。
2000m級の山岳に囲まれたすり鉢の底に首都アンドラ・ラ・ベリャがあり、腕時計やアウトドアグッズを販売する店舗がひしめく。MTBも盛んで、コメンサルなどのブランドが店舗に並び、道行くサイクリストはフラットバー派が多いことに気づく。経済的に裕福な層が多いフランス人は宝飾品などを免税で購入するために訪問することが多かった。ガソリン税もなかったので国境を越えたすぐのところにあるガソリンスタンドは、かつてフランスナンバーのクルマが給油のために列をなしていた。
2009年第7ステージ、ツール・ド・フランス初出場の別府史之がアルカリスを上る
ユーロ通貨を導入してからはアンドラの物価もフランスに肩を並べるほどになってしまい、その影響なのか近年はツール・ド・フランスもわざわざ訪問しなくなった。それでも物価はまだフランスよりも安いので、ツール・ド・フランスで久しぶりの休息日になったアンドラでは、この日を見計らってアウトドアウエアを購入するカメラマンや、ビールの大樽を買い込む取材陣、ガソリンを満タンにする関係者が多かった。
アンドラのスキーリゾートのひとつがアルカリスだ。ここがツール・ド・フランスのゴールとなったのは3回で、ボク自身はすべて現地に足を運んでいる。1997年にヤン・ウルリッヒがここで追走するマルコ・パンターニを振り切って独走勝利して、それと同時にマイヨ・ジョーヌを獲得。このときに稼ぎ出した貯金を守りきってドイツ選手として初めて総合優勝を達成している。ゴール手前5kmほどのところにボクの仕事場となるサルドプレスが設営されるので、この日ばかりは道路脇でカメラを構えて撮影するチャンスがあった。
2009年には別府史之と新城幸也が初出場し、第7ステージでアルカリスを経験。新城は前日のバルセロナでのゴール前に落車し、この日はリタイアしても不思議ではないほどのケガを押してのレースだったが、道路脇の側溝でいい写真を撮ろうと待っていたボクを見つけてニコッとほほえんでくれた。
落ち着いた石造りの家並み。カフェでオーダーしたものも道路を横切って席まで届けてくれる
3度目の2016年は集中豪雨と大ぶりの雹の襲来で大変なステージなった。ジャイアント・アルペシンに所属していたトム・デュムランが最後のアルカリスで抜け出して独走で初優勝。総合1位のマイヨ・ジョーヌを着る当時スカイのクリストファー・フルームが盤石の走りを見せ、最終的に2年連続3度目の総合優勝を達成することになる。
アンドラにゴールするときは必ず翌日が休息日で、連泊になるので普段よりもちょっと居心地のいいホテルを予約する。原稿を書いたり記者会見に出かけたりして、普段よりも忙しくなってしまうのだが、夕食後に石造りの集落を散歩しているとここにいる幸せを感じた。ツール・ド・フランスの選手か取材記者じゃなければ、アンドラなんてなかなか訪問できるところではない。
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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