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ニームの円形闘技場で行われる古代劇
ツール・ド・フランス2021でプロトンが訪れる、サイクルロードレースファンならずとも一度は訪れてみたい各土地の歴史と伝統に彩られた魅力をお届けします。
ニーム / Nimes
第108回ツール・ド・フランスは第12ステージでニームへ。そして第13ステージでニームをスタートする。いわゆるエタップ(宿場町)という伝統的なレース日程で、選手をはじめとした関係者はその町に宿泊する。ゴールとスタートをホストするのは、その町が財政的に裕福でなくては務まらない。ニームは南フランスにあって、観光産業などで栄えた大きな町なのだ。
円形闘技場の隣にはローマ文化博物館がある
フランス最古のローマ都市で、ローマのコロッセウムと同時期に建立された円形闘技場や古代神殿メゾンカレなどが建ち並ぶニームはセミ時雨が鳴きやまず、極めて高温となる南仏の中心都市だ。織物の町としても有名で、ジーンズ生地のデニム(デ・ニーム)はこの町の名前にちなんでつけられている。2017年にはブエルタ・ア・エスパーニャの開幕地ともなった。
フランス南西部に広がる地方はオクシタニー地域圏と呼ばれている。2016年の地方再編によって新しくできた名称だ。コントラストに富んだ大自然、さまざまな文化と歴史が入り混じった独特の魅力があって、日本人観光客の来訪も多い。
2019年にツール・ド・フランスが訪れたーマ期最大の水道橋、ポン・デュ・ガールもニームからそれほど遠くない。フランス南部には多くのローマ人の名残があり、2000年の歴史を肌で感じられるのがスゴい。ツール・ド・フランスはそんな歴史的建造物のすぐそばを通過するというスポーツイベントなのだ。
フランス南部の料理はオリーブオイルをふんだんに取り入れた色鮮やかなものが魅力。ニームの名物は塩タラすり身のブランダード、オリーブを使ったタプナード、パイ包みトゥルトなどがある。
「ニームはいつも集団ゴールになる」
これは大会をレイアウトする主催者も、チームを率いる監督も同様に口にする言葉だ。
戦後のツール・ド・フランスでニームにゴールしたのはこれまで9回。2008年はマーク・カヴェンディッシュ、2014年はアレクサンドル・クリストフ、前回の訪問となる2019年はカレブ・ユアンがゴールスプリントで優勝している。
ニームの円形闘技場
2008年の第13ステージは当時23歳だったイギリスのカヴェンディッシュ(チームコロンビア)が2日連続、この大会4勝目を挙げた。
この年の前半は天候不順だったが、レースが地中海沿岸に到達するとようやく真夏の日差しが降り注いだ。気温30度以上の暑さの中、2選手が果敢にアタック。マイヨ・ジョーヌを所有するチームは、この2人が総合成績で大きく遅れていることから、その逃げを容認。ゴール勝負に持ち込んで区間勝利をものにしたいスプリンターたちに追撃を任せた。
逃げた選手は残り10kmまでに吸収され、最後は各チームのスプリンターが猛ダッシュ。カヴェンディッシュがキレのいいスパートを見せた。
「4日前の落車による痛みや疲れもあるが、チームメートのおかげで結果を残せた」とカヴェンディッシュ。
ニームにゴールした2019年の第16ステージを制したカレブ・ユアン
2014年は第15ステージでニームを訪れた。イアムサイクリングのマルティン・エルミガー(スイス)とガーミン・シャープのジャック・バウアー(ニュージーランド)が区間距離222kmのうち、220kmを逃げ続けて勝利を目指したが、ゴールラインのわずか50m手前で大集団に飲み込まれ、ゴール勝負を制したカチューシャのクリストフが第12ステージに続く2勝目を挙げた。
「強豪スプリンターが最後に残っていたが、彼らはアルプスの疲れがあったので、ボクが勝てた」とクリストフ。
アトリエ・ド・ニーム。ニームはジーンズ生地発祥の地だ
それにしても7月中旬のニームは暑い。日本のように湿度も意外とある。並木にとりついた巨大なセミの鳴き声は隣の人も会話が聞こえないほどやかましく、その不快感を増長させる。
2021年のニームは前日にモン・ヴァントゥを2回も上らされたスプリンターたちがその脚を温存できているかが見もの。そういった状況を利してステージ優勝ねらいの選手が抜け出すのか。それを追撃し、最後はいつものニースの通りゴールスプリントとなるのか? 歴史ある建造物を堪能しながらこのステージを占ってみよう。
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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