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ル・グラン・ボルナンの町
ツール・ド・フランス2021でプロトンが訪れる、サイクルロードレースファンならずとも一度は訪れてみたい各土地の歴史と伝統に彩られた魅力をお届けします。
アルプス / Alpes
地の果てブレストで開幕した第108回ツール・ド・フランスは右回りでフランスを一周していくので、前半の勝負どころはアルプス山脈で後半がピレネー山脈となる。アルプスと言えばラルプデュエズやガリビエ峠などが日本のファンにもよく知られるが、2021年は第8ステージのオヨナ〜ル・グラン=ボルナン間、第9ステージのクリューズ〜ティニュ間がアルプスでの戦いになる。
ツール・ド・フランスを走る選手たちも、アルク湖の眺望を走りながら目撃することも
一概にアルプスといってもその領域は、フランスのみならずスイスやイタリアにもかかり、エリアはとても広範囲だ。ツール・ド・フランスでは当然のようにフランス国土のアルプスをよく訪問する。例えばラルプデュエズがあるのはサボワ県で、もちろんアルプス観光の中心地だ。産業としては斜面を利用した酪農業が盛んで、特産物はチーズ。そのためサボワ料理といえばフォンデュだ。フォンデュ・ブルギニョンヌは角切りにした肉を油で揚げて薬味をつけて食べる。フォンデュ・サボワイヤルドは電熱線で溶かしたチーズをパンなどの上につけて食べるもの。
2021年のツール・ド・フランスはオートサボワ県と、その南に位置するサボワ県で行われる。「オート」というのは「高い」という意味だが、地名においては「内陸の」となる。スイス国境に近く、最寄りの大都市はジュネーブ。レマン湖南岸のエビアンやトノンといったミネラルウォーターで有名なところもオートサボワに属する。また地名に「レバン」とつくところが多いが、「温泉」という意味だ。
アルプスと言えばスキーリゾートがいくつもあり、そしてそれらはツール・ド・フランスの勝負どころとして夏場でもにぎやかだ。たとえば1968年のグルノーブル冬季オリンピックで、大会の花ともいえるスキーのアルペン競技が行われたウィンターリゾートはシャムルース。ツール・ド・フランス最高の舞台と言われるラルプデュエズもグルノーブル冬季オリンピックのリュージュとボブスレーの会場となった。
シャムルースはグルノーブル市街から35kmほど、ラルプデュエズは50kmほどで美しいアルプス山脈の玄関口に位置する。どちらも本格的なアルプス山中ということはなく、都心部からアクセスしやすいのがツール・ド・フランスに採用される一因だ。
アルプスの至宝、アヌシー湖を臨むトレッキングコース
グルノーブル冬季オリンピックではフランスのジャンクロード・キリーが金メダル3個を獲得した。キリーはフランスの英雄となり、国際オリンピック委員会などの重職を歴任。ツール・ド・フランスの最高権威もしばらく務めていた。思い出の地にツール・ド・フランスをゴールさせようというのもキリーの発案だった。
どうしてウィンタースポーツのリゾート地がツール・ド・フランスのゴールになることが多いか。それはリゾート開発会社の戦略なのである。1970〜80年代に、知名度向上と集客の両方を一挙に獲得しようとツール・ド・フランスの協賛会社となり、派手に展開したのである。ちなみにシャムルースのスキーゲレンデは非常に狭くて急なので、一般的にはあまり楽しめないという評価。ラルプデュエズのリュージュ施設は夏場に子供たちが車輪付きのそりで歓声を上げているシーンを見たことがある。
スキーリゾートのいいところは宿泊施設がある程度整っているところだ。もちろんコース発表前にツール・ド・フランス主催者が予約を入れてしまうので、一般の人たちが部屋を確保するのは困難かも知れないが、選手たちがゴール後に下りの大渋滞に巻き込まれることも回避できる。ガリビエ峠やイゾアール峠など大昔から存在する街道の難所は、ホテルが一軒もないのでゴール地点としてはふさわしくないのかも。
チーズと生ハムを味わいながらバカンスを楽しむ
1992年には、2021年のツール・ド・フランスで第10ステージのスタート地点となるアルベールヴィルで冬季オリンピックが行われた。アルペン競技はツール・ド・フランスの山岳ステージでも舞台となるヴァルディゼールで、ボブスレーとバイアスロンはラ・プラーニュで開催された。そしてクロスカントリー競技の舞台となったのが第9ステージの49.4km地点をピークとするレ・セジ峠だ。
いずれにしてもアルプス。乾いた冷涼な空気。草原の香り。遠くから耳に届くカウベルの勇壮な音色…。すべてがアルプスの魅力である。もしかしたら夏のリゾートとはこういったところを指すのかも知れない。そこに訪問するツール・ド・フランス。もし7月にまとまった休暇を取れるなら、ツール・ド・フランス観戦がてらにアルプスでのんびりするのをオススメしたい。
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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