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ツール・ド・フランスには2万人もの警備が投入される
初期のツール・ド・フランスでは、観衆の暴動などが多発し、コースの安全が保たれていたとは言い難い。それでも1903年の第1回大会から、国家憲兵隊による警備はとりあえず配備されていた。1952年からは憲兵隊の一部によるオートバイの先導隊も加わった。
大会期間中、警備にあたる人員は20,000名ほど。国家憲兵隊、国家警察、人民安全保障隊、消防隊で構成され、うち半分以上の13,000人が国家憲兵隊に所属する。
ツールの警備担当を志望する憲兵の中から選出されたメンバーのバックグラウンドは、実にさまざま。親が自転車好きで、毎週トラックレースを見に行ったからと参加を希望する女性や、幼少時ツールを欠かさず見ていた昔のテレビっ子など。
中には、数か月間アフガニスタンに派遣され、その延長線として、いろいろな世界を見たいから、と希望届を出す者も。襲撃事件多発地帯とスポーツイベントという、一見相反するほどの環境の差はあるが、ツールとて、連日コース周辺は選手、観客、車両でごった返し、危険が潜んでいることには変わりない。
ツールが大好きで志願してツールの警備に3週間帯同するロワール川流域トゥールの町のおまわりさん(撮影:Naco)
憲兵はまた、キャラバン隊にも参加している。配布数は多くないが、フランス語で「ジャンダルムリー(憲兵)」の文字入りボールペンが配られたりする。窓から沿道に向かってグッズをばらまく様子にいかめしさはなく、ちょっと照れたりする人もいて、なかなかお茶目な光景だ。
一方、国家警察から派遣される警官には2種類ある。自分が担当する地域のステージのみ受け持つ者と、持ち場とは関係なく、3週間帯同する者と。後者は、ツールへの派遣志望者の中から選ばれる。
「ボクは通常(ロワール川流域の)トゥールの町の警官なんだけど、ツールが大好きでね。毎年志願してここにきてるんだ。いろんな人と出会えるのがいいね」、そんなふうに声をかけてくる警官もいる。
ルートが国境を超えると、両国の警備が混ざり合う。イタリアに入国した途端、グレーのズボンにエンジのストライプ、黒いブーツ姿のカラビニエリ(国家憲兵)の姿が妙に新鮮に感じられるものだ。
もっとも、各国のポリスの中で、ツールをもっとも満喫していたのはロンドン警察ではなかったか。2007年ロンドン・グランデパールの際、あちこちで記念撮影に応じるにこやかな警官たちの姿があった。彼らはロンドンマラソンの警備で、あふれんばかりの人数をさばくことに慣れている。ツール程度の混雑は楽勝だ、と言わんばかりの余裕があった。
さらに、大英帝国由来の懐の広さもあるのだろう。ピリピリするだけではなく、観客を手なづけてしまうことも、ひとつのセキュリティの在り方のようだ。彼らのおおらかでいながら、きっちりした対応ぶりには、いやはや舌を巻いたのだった。
Naco
1999年末、ホームページを立ち上げ、趣味だった自転車ロードレースの情報記事を掲載しはじめる。2000年夏からは、ツール・ド・フランスの現地観戦レポートを開始。同サイトには、ロードレース・ファンたちが数多く訪れている。現在、フリーランスのジャーナリストとして自転車専門誌に記事を寄稿している。
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