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ヴェル・ディヴ事件の慰霊碑/写真:By Leonieke Aalders (Own work) [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons
ツール・ド・フランスの主催紙『ロト』は当初から反ユダヤ思想をにじませていた。ユダヤ人の不当逮捕「ドレフュス事件」の無実を訴える『ル・ヴェロ』紙と逆の立場をとる者たちにより創設された、という経緯をみても、それは明らかだ。
そして第二次世界大戦勃発とともに、ナチ擁護の立場を堅持する『ロト』は、徐々に破滅の道を歩んでいく。
1941年、同紙を指揮していたアルベール・ルジュンヌ(パリ〜ニースの創始者でもある)は、ナチに抵抗するレジスタンスを“テロリスト”呼ばわりするなど、筆でドイツに加担した。やがてフランス解放後、敵国ドイツとの内通の罪により、銃殺刑に処される。
また、ツール初代ディレクター、アンリ・デグランジュの愛弟子で『ラ・フランス・ソシアリスト』紙に転向したジャン・ルイヨは、戦時下にツールの代わりとなるシルクイ・ド・フランスをドイツ軍の支援で開始。その際、秘密警察ゲシュタポに挨拶をするよう、選手たちに強要したという。
そして1942年、一斉検挙が行われる。大量のユダヤ人が一旦パリ市内に幽閉され、やがて収容所送りとなるのだが、最初に閉じ込められたその場所は、ヴェロドローム・ディヴェールだった(ヴェル・ディヴ事件)。
この屋内自転車競技場の管理総責任者は、ツール2代目ディレクター、ジャック・ゴデ。何を隠そう、競技場のカギを所持していたのは彼だった。
1944年の解放とともに、対独協力のかどで『ロト』は閉鎖され、ツール開催権利を含め、すべてのものが国によって差し押さえられた。
そんな血塗られた歴史の中で、一条の光を見出すとすれば、右派の『ロト』がドイツ支持の立場をとった反面、ツールというレースそのものは、汚名を免れた点だ。
戦時中、ドイツ軍は『ロト』に便宜を図り、中立地帯でツールを続行するよう促した。しかしゴデは、断固それを断った。人員不足という事情もあったが、なによりスポーツ競技は中立であるべき、との思想を貫いた。また、戦時中の模倣レースに、「ツール・ド・フランス」の名は使わせなかった。
1940〜46年の間、開催を見送ったことで、ツールは『ロト』が生み出した暗い過去を共有せずに済んだ。そして紆余曲折の果てに新たなるスポーツ紙『レキップ』のもとで、再開にこぎつけるのだった。
Naco
1999年末、ホームページを立ち上げ、趣味だった自転車ロードレースの情報記事を掲載しはじめる。2000年夏からは、ツール・ド・フランスの現地観戦レポートを開始。同サイトには、ロードレース・ファンたちが数多く訪れている。現在、フリーランスのジャーナリストとして自転車専門誌に記事を寄稿している。
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