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ツール・ド・フランスと巡る、フランスワイン12の旅 〜ロワール〜 フランスで最も自転車競技が盛んなエリアを走る
ツール・ド・フランス by 山口 和幸[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
ロワール川流域は温暖な気候と豊かな自然に恵まれ、古くから王侯貴族たちが自然や狩りを楽しむために競って優雅な城館を建てた地方だ。といってもツール・ド・フランスを追いかける取材陣がシャンボール城やシュノンソー城を観光するゆとりはなくて、ひたすらコースを突っ走るのみだ。
ロワール渓谷ワインの産地は非常に広大だ。そして自転車競技がとても盛んなエリアでもある。ツール・ド・フランスの姉妹レース「パリ〜ツール」のコースであるオルレアンやツールがあり、新城幸也が所属するヨーロッパカーの拠点であるバンデ県も下流にある。1988年にチームぐるみで不正薬物を使用したフェスティナチームの全選手が排除されたショレもバンデ県だ。
一般の人たちが楽しくサイクリングするのもうってつけ。ロワール川沿いには800kmにわたって整備されたサイクリングロード「ロワール・ア・ベロ」があって、ホテルを泊まりながら数日間のサイクリングを満喫することができる。一般道だって快適だ。見渡すかぎりの大地が広がり、それを貫通する1本道はうねりを帯びながら地平線まで続いている。
バンデ県は自転車競技への理解度が高く、それだけにツール・ド・フランスが訪問することが多い。2011年には開幕地となった。新城が住むベルビルシュルラビーというかわいい名前の小さな集落もバンデ県の一角にあり、近所の子どもたちが人気者の「カミカゼ・ジャポネ」を見つけると集まってくる。
2011年の開幕時は新城家に連泊したのだが、残念ながら当の本人は直前に出場メンバーから外れて日本にとどまっていたので、主のいない家に居候しながら勝手にワイン庫を開けて次々にコルクを開けていた。活躍を期待していただけに、あのワインはやけ酒だった。
ちょっと外れたところには、もう何回もお世話になっている大平原の中の農家がある。地平線まで広がる麦畑の中の一軒家。部屋は中世の古城のように手入れされていて、王様になった気分で眠りに落ちることができる。
さすがに夕食までは面倒をかけられないので、ファストフードとロワール渓谷ワインを買い込んで取材仲間と部屋でやる。ロワール渓谷ワインは産地が広大なのでバラエティに富むのが特徴で、どんな料理にも合うのがうれしい。
まるで学生時代の下宿のようにドンチャン騒ぎした。ワインが何本も空く。すると農家のマダムが、「いつまでやってるのよ!うるさいわよ!」と怒鳴る。いい大人になっても怒られてしまいました。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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