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[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
フランスの重要な港湾・商業都市であるボルドーにツール・ド・フランスがゴールするときのプレスセンターはいつもジロンド川沿いにあるワインの旧集積場だ。最近はあまりボルドーを訪れなくなったとはいえ、99回の大会の中で80回の訪問回数はパリをのぞくと第1位。第2位はポーの63回だからダントツだ。
このあたりは大平原で、ボルドーがゴールとなる区間の歴代優勝者にはスプリンターの名前が並ぶ。
「スプリンターにとってボルドーで勝つことはとても名誉なことだ」と、過去にここで優勝したスーパースプリンターから聞いたこともある。
ボルドーにゴールした直近のステージ、2010年の第18ステージは平たんな198kmで争われたが、平たん区間の多くがそうであるようにこのときも大集団によるゴール勝負となり、英国のマーク・カヴェンディッシュが得意のスプリントで優勝した。この大会4勝目、大会通算14勝目という力強さだった。
この2010年にボルドーを訪れたのは大会の終盤だった。ピレネーの山岳区間が終了して一段落した感があると同時に、初日から大会に随行しているスタッフは一気に疲労感を感じる時期だった。あの日はボルドーまでのひたすら一直線の道。眠気も誘われるだろうが、そこは必死で前を向いてハンドルを握った。そんな矢先、「パリまで550km」という標識を見たときは気絶しそうになった…。
フランスの田舎町を転戦してきたボクたちにとって、ボルドーは久々に出会う大都会だ。「あー、もうすぐ終わりか」と感慨にふけてたそがれているスタッフもいる。そんなボルドーのプレスセンターでは当然のようにボルドー産の赤ワインがふるまわれるので、運転をしない記者やカメラマンなら好きなだけ味わうことができる。この地域の歴史や文化が作り上げてきたボルドーワインは最高においしく感じる。
あの年、日本の取材陣も疲れ切っていたが、それに比べて底なしに元気なのが2年連続出場を果たしていた新城幸也だった。あのパワーはどこから生み出されるのだろうか。ボクのクルマの走行距離と新城が自転車で走った距離がほとんど変わらないというのが一番ショックだ。
最終日前日の第19ステージは、ボルドーからジロンド川の西岸を52km北上する、ポーリャックまでの個人タイムトライアルだった。海のように広大なジロンド川にかかる橋はこの先ないので、パリに戻るためには再びボルドーまで南下して戻らなければならない。ということは往復104kmとパリまでの550km。この日の原稿を書き終えてからの移動距離である。
このあたりはメドック地方と呼ばれ、いくつかのシャトーをながめながらタイムトライアルのコースをひた走った。全選手がゴールしたのちにそそくさと原稿を書き終えて、いざパリを目指す。さっき走って来たぶどう畑を再び戻っていく。心にゆとりがあれば美しい景観を楽しむドライブだったろうが、この日のホテルはひたすら遠い。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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