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ツール・ド・フランスと巡る、フランスワイン12の旅 〜ボージョレ〜 これは記者泣かせ!ボージョレーヌーヴォーの法則
ツール・ド・フランス by 山口 和幸[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
毎年解禁日が決められるボージョレーヌーヴォーが日本でこれほどもてはやされるわけは、欧米よりも早く日付けが変わって一足お先にありつけるというワケもあるだろう。それぞれの国の時間で11月の第3木曜日午前0時に一般販売が解禁されるからだ。
この事象、日本の新聞の締め切り的にはとてもありがたくない。ヨーロッパよりも7時間も早く締め切りが到来するから、ゴールした直後に最終版に載せる原稿を出さなきゃならない。これが「ボジョレーヌーボーの法則」だ。
幸いなことにツール・ド・フランスは日本の大相撲中継のように、ゴール時間がほぼ午後5時過ぎ、日本時間で深夜零時過ぎに想定され、通過予測タイムからゴール時間を割り出すことができる。そのためプレスセンターに着いたらまず首都圏から遠い地方に配る早版の原稿を書いて送る。次に遅版用の原稿をあらかた仕上げておく。平たんステージなら序盤から逃げている選手はたいていゴールまでに捕まるので、「レースは大集団によるゴールスプリントとなり…」などと書いておく。必死で走っている選手には失礼な話だけどね。
新聞社の印刷現場が今か今かと待つ中で、ゴールの5分後には仕上げて送信。こうして世界で一番速いツール・ド・フランス報道が東京都内のキオスクやコンビニに並ぶわけだ。
さて、2003年のワインは100年に1度の出来といわれるが、この年はフランスが猛暑となり、ツール・ド・フランスを走る選手たちも大変だったことを記憶している。現在は薬物の不正使用で全記録が抹消されているが、ランス・アームストロングが7連覇の中で唯一苦戦した年だった。
とにかく猛暑だった。それまでのフランスといえば直射日光こそ強いものの、日陰に入れば過ごしやすく、日没後はセーターが必要なほど冷え込んだ。そのためクーラーは不要だったが、この年は夜になっても寝苦しく、体力を消耗したお年寄りの多くが他界。日なたに駐車していたボクの取材車両も猛暑でタイヤ通気圧が異常値になり、アラームが鳴り出すほどだった。
暑さに弱いのがアームストロング。その逆に暑さに強く寒さに弱いのが宿敵ヤン・ウルリッヒだった。この年の総合優勝争いは大きくもつれ、最終日前日の個人タイムトライアルで総合2位ウルリッヒが首位アームストロングを逆転するのではと予想された。ところが決戦の日は朝から冷たい雨になった。アームストロングはどこまでラッキーなのかとつくづく思った。
2003年に匹敵するボージョレーヌーヴォーが今年は飲めるのかなと考えるとワクワクものだが、あの暑さの再来を考えるとアームストロングではないにしてもちょっとうんざりしてしまう。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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