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ツール・ド・フランスと巡る、フランスワイン12の旅 〜ジュラ・サヴォワ〜 ツール・ド・フランス最高の大舞台でハイジな気分に
ツール・ド・フランス by 山口 和幸[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
スイスの国境近くにあるジュラ山脈は、恐竜時代のジュラ紀の語源となったところ。だから1億数千年前のこのあたりではティラノサウルスなどが暴れまくっていたのだと想像するとワクワクするよね。
ツール・ド・フランスがジュラ山脈を越えてスイスに入国するときは、注意しないといけない。まずスイスは通貨も違えば電源プラグも違う。高速道路の利用印紙を購入しないで乗り入れると、法外なスイスフランの罰金が待っている。取材陣もプレスセンターで「外国製品の申請書を提出したかと」を耳にタコができるくらいにしつこく聞かれた。
一方のサヴォワ。ツール・ド・フランス最高の舞台と言われるラルプデュエズに代表されるサヴォワ地方はアルプス観光の中心地だ。産業としては斜面を利用した酪農業が盛んで、特産物はチーズ。そのためサヴォア料理といえばフォンデュだ。フォンデュ・ブルギニョンヌは角切りにした肉を油で揚げて薬味をつけて食べる。フォンデュ・サヴォワイヤルドは電熱線で溶かしたチーズをパンなどの上につけて食べるもの。
どちらも本格的なアルプスの過酷な峠が待ち構える。ただし沿道の人は優雅なバカンスを利用してさまざまにツール・ド・フランスを楽しむ。多くの人がキャンピングカーで沿道に乗り込み、ワインを飲んでバーベキューを楽しみながら選手たちの到着を待つというのが観戦スタイルだ。吹き抜ける乾いた涼風にハイジになった気分さえする。
ちなみにラルプデュエズに至る道は、フランスアルプスの大岸壁をジグザグによじ上る難コースだ。よくぞこんなところに道を作ったものだと感心するばかり。距離13.8kmで、勾配値7.9%。最初の2kmが10%超、ラスト5kmから4kmまでが11.5%というからタダモノではない。
以前、一般のサイクリストが「オレは最初のコーナーで足をつくね」と話していたが、それもうなずける。ふもとのブールドワザンからラルプデュエズ入口までのコーナーには21から1までの数字が振られ、カウントダウンしていくのだが、この「第21コーナー」までの長い直線の2kmが非常に厳しいのだ。
ラスト6km地点にはウェズ村のゴシック様式の美しい教会がそびえる。このあたりは例年黒山の人だかりで、コーナーごとにオランダ人、ドイツ人、デンマーク人などが陣取り、一触即発の雰囲気だ。今年の第100回大会では1日にラルプデュエズを2回上る。これが最大の勝負どころとなることは間違いない。
彼らの多くは交通規制が敷かれる前、レースがやってくる2日前には沿道に陣取り、ワインを飲みながら思い思いの時間を過ごす。選手が到着するころにはもう完全にできあがっていて、肉を焼いた煙やワインの臭いが立ちこめている。選手たちもたまったものではない。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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