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ツール・ド・フランスと巡る、フランスワイン12の旅 〜シャンパーニュ〜 仕事をする前にまずは1杯片付けなさいね
ツール・ド・フランス by 山口 和幸[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
フランス北東部、シャンパーニュ地方の丘陵はフランスのどのエリアよりも黄金色に輝いている。その景観さえも、どことなくリッチな雰囲気があって、いやが上にも胸が高鳴ってしまうのだ。
その中心がランスだ。パリからTGVで1時間弱。ボク自身はルクセンブルクやフランス北東部でツール・ド・フランスが開幕するときに、パリのシャルルドゴール空港からひとまずこのランスにやってきて一泊する。交通の要衝であり、郊外に高速道路と直結するホテル群があるので利用しやすい町なのだ。
ランスにツール・ド・フランスがゴールするときは、プレスセンターにはシャンパーニュ醸造所のマダムが職人たちを引き連れて陣取り、世界各国から来た取材陣をもてなしてくれる。
シャンパーニュ地方はいわゆる発泡ワイン、シャンパーニュの名産地として知られる。ツール・ド・フランスの沿道に真っ白な前掛け姿のワイン職人を何人も見かけた。発酵樽が来訪者を歓迎するように飾り付けられていたりする。プレスセンターに到着すると、もっとたくさんの職人が獲物がやって来るのをまだかまだかと待ち構えていた。
「ランスへようこそ。さ、シャンパーニュでも召し上がって」
上品な身なりをしたマダムが微笑みを浮かべ、とびきり上等のシャンパーニュがつがれたグラスを手渡してくれた。いい気になって飲み干したら最後、赤ら顔の職人たちに取り囲まれ、空のグラスに2杯目がなみなみと注がれた。お礼を言ってグラスを返すと別のグラスが出てくる。気の弱いボクは原稿を書く前に最低3杯は飲んでしまうわけだ。
黄金色に揺らめく液体は、マイヨ・ジョーヌと同じ勝利の象徴だ。だから第100回大会となる今年もきっと、最終ステージで最終的な勝利者が、戦い終えた僚友と栄冠を分かち合うためにこのシャンパーニュを振る舞うはずなのだ。
エペルネには日本のナイトクラブで高額ワインとして知られるブランドの本社がある。10ユーロで試飲もできるようなので、取材がなかったら味わってみたいのだが…。レースのコースを先行してクルマで走っていても、そんなこちらの気持ちを察してか、黄金色の液体がなみなみとついだグラスを沿道の地元民がかざす。
「先を急がないで飲んでいけよ」という意味だ。
クルマのフロントガラス越しに「ちょうだい」という仕草をすると、「だったらクルマを停めろよ」とばかりアゴで沿道の空きスペースを指し示す。といってもこちらは単身でクルマのハンドルを預かる身だ。「冗談だよ」と返してみせるが、後ろ髪が引かれる。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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