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(C)KAYOT
社会に、そして文化に、様々なかたちで影響を与えてきたツール・ド・フランス。なにより、ロードレースの祖のひとつとして、他のレースに与えた影響は計り知れない。レースの礎を築き、変革の原動力となってきた。たとえば、ステージレースはツールで始まった。西欧から東欧まで、果ては南米に至るまで、「ツール・ド・○○」といったレースが広がった。
とはいえ、なかには消えていったものもある。ツールとて、決して安泰だったわけではない。2006年、総合優勝者のフロイド・ランディスが薬物違反でタイトルをはく奪される激震に見舞われた。それでもまた翌年、何事もなかったかのように、開催されたのだった。そもそも、1904年の第2回大会ですでに、違反行為により総合上位4人が失格する大事件が勃発している。華々しい栄光と挫折を揺籃期に経験したことが、図らずもツールの免疫力向上に一役買ったらしい。
カリスマ的なアンリ・デグランジュをはじめ、ツールにおいては主催者の露出度が多いという特色がある。もしここで、図太く生き延びてきたレースを絶やすことになれば、戦犯扱いは免れまい。開拓精神にあふれた先達の宝を存続しなければ、そんな意地と誇りが垣間見える。ただ、そんなプライド以上に感じるのは、レースに対する関係者たちの愛情。ハートがあるから、ファンもついていく。
むろん、ランス・アームストロングのタイトル抹消を始め、スキャンダルのたびに離れていったファンも数知れない。でも、何が起ころうが、びくともしない人たちもいる。嵐をかいくぐり、キラ星のような歴史物語を紡ぎだしてきたツールの存在そのものにリスペクトを感じていれば、動じない。
ツールはいわば、現在と歴史の交差点。目の前の光景が過去の記録や記憶と二重写しになって語られ、ありし日の英雄への挑戦が浮き彫りになることがある。人や土地の記憶を、ことあるごとに掘り起すことで、レースは厚みを増していく。偶然と必然の積み重ねが、今日の競技形態をかたち造り、過去と現在は不可分に絡み合っていると痛感する。そんな二重構造が、ファンにとってはたまらない。
いや、小難しいことを考えずとも、淡々とすべてを受け入れることさえできれば、もっと単純に、空気そのものを楽しめてしまうはず。駅に着く。会場はどこだかわからない。500メートルほど歩くと、突然『ツールの音』が聞こえてくる。関連グッズを販売する売り子の声、人々の歓声。喧騒と雑踏が大きくなるにしたがい、徐々にハイテンションになっていく。プロトン到着まで持続する高揚感。気が付けば、満面の笑みを浮かべた自分がいる。
これからも、心に彩を添えてくれる存在であってほしい。100回突破後の、新たな展開を期待しつつ。
Vive le Tour!
ツール、バンザイ!
Naco
1999年末、ホームページを立ち上げ、趣味だった自転車ロードレースの情報記事を掲載しはじめる。2000年夏からは、ツール・ド・フランスの現地観戦レポートを開始。同サイトには、ロードレース・ファンたちが数多く訪れている。現在、フリーランスのジャーナリストとして自転車専門誌に記事を寄稿している。
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