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「予定はしてなかった。ただ、ヴィザノヴァの上りで、監督から無線で言われたんだ。『この山を先頭で越えた人間が、今夜、マイヨ・ア・ポワ・ルージュを着ることになる』って。1秒もためらわなかった。すぐに飛び出したさ」(ローラン)
前を行くカドリに、本格派ヒルクライマーはあっさりと追いつき、そして追い越した。望み通りに先頭通過を果たし、5pt獲得に成功した。おかげで可愛い赤玉模様のジャージに、生まれて初めて袖を通す権利をもぎ取った。
「ジャージを今後どうしようかな。守りに行こうか、行くまいか。こういった戦術的なことは、まだなにも決めてないんだ。それに明日のステージは見ごたえたっぷりなかわりに、ひどく難しいだろうしね」(ローラン)
標高1163mから海面ギリギリ(フィニッシュラインは海抜1m!)まで下る、うんざりするほど長いダウンヒルで、ローランは静かに吸収された。一方では上りで少々遅れを喫した選手たちが、下りでスピードアップに成功し、メイン集団へと次々に追いついてきた。ついには100人近くに膨らんだプロトンに、もちろん、上りだけで5分以上も遅れたキッテルの姿はない。多くのピュアスプリンター(アンドレ・グライペル、マーク・カヴェンディッシュ、前日3位のダニー・ファンポッペル等々)も、はるか後方のグルペットで、無理せず走るほうを選んだようだった。
ゴール前12kmに小さく突き出した、登坂距離1kmの上りがやってくると、……やはりユーロップカーの、今度はシリル・ゴチエが強烈な一発をお見舞いだ!そのまま海辺の平坦な一本道へと、潔く単独で突っ込んで行った。ちょうど3週間後にマイヨ・ジョーヌを着ているかもしれないクリス・フルームが、予想外の平地アタックを繰り出した時でさえ、決してひるまなかった。ちなみにチームマネージャーのジャンルネ・ベルノドーによれば、ゴチエ、ダヴィデ・マラカルネ、そして新城の3選手は、今大会同じ仕事を担当するとのこと。そんな彼も、本日6月30日が誕生日のフランス人シルヴァン・シャヴァネルと、連れ立ってやって来た刺客たちの手で、引きずりおろされてしまうことになる。
アジャクシオ西端のサンギネール諸島へと誘うシーサイドラインでは、強い風が海へと吹き降ろしていた。そのせいか、ゴール地にはむっとするような海草の匂いが立ち込めていた。先頭に踊り出た6選手が、限りなく透明な海の青さには目もくれず、せっせと先を急いでいた。そしてフィニッシュラインまで1800m。絶妙なタイミングで、ヤン・バークランツが渾身の加速を切った。
「ボクはスプリントじゃ勝てない。だからギャンブルに出る必要があった。『ただ待って、集団スプリントになだれ込んで、サガンの勝利を見るつもりなのか?』って自分自身に発破をかけた。ラスト500mまで来ても、まだ後方との差はあった。『このまま行け、おそらく人生で一番ステキな日がやってくるぞ!』って自分に言い聞かせた」(バークランツ)
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