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サイクル ロードレース コラム 2014年7月11日

サイクルロードレースの戦術をサッカーに例えて説明!!密集隊形“トレイン”はFWにパスをつなぐようなもの

ツール・ド・フランス by 光石 達哉
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ジャイアント・シマノのスプリントフォーメーションは、まさにサッカーの攻撃パターン!

第101回ツール・ド・フランスも開幕して約1週間。イギリスでの序盤3ステージは沿道に連日200万人以上の観客が詰めかけ、かつてない盛り上がりを見せた。しかし、皮肉にも第1ステージではトップスプリンターのマーク・カベンディッシュ(オメガファルマ・クイックステップ)、そして雨と石畳の第5ステージでは昨年の総合王者クリストファー・フルーム(チームスカイ)と2人のイギリス人スターが早くもレースから姿を消すこととなった。

マイヨ・ジョーヌ争いはヴィンチェンツォ・ニーバリ(アスタナ)がリードしているが、本格的な勝負はまだまだこれからと言えるだろう。

ここまでのツールで主役のひとりは、平坦ステージで3勝を挙げたドイツ人スプリンター、マルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)の快進撃だ。第6ステージを制した同じドイツ人、アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル)とともに、W杯準決勝で開催国ブラジルを大差で破ったドイツ代表チームの活躍とも重なってくる。

今大会、ジャイアント・シマノはスプリントフォーメーションと呼ばれる作戦を立て、各選手の役割を明確にして勝利を狙いにいっている。その中で、最初に重要な仕事を任されているのが、中国人初のツール出場で話題を呼んでいるジ・チェンだ。

ジ・チェンの仕事は、逃げ集団とのタイム差をコントロールすること。そのためスタートから延々とメイン集団の先頭でローテーションしている姿が、中継でも映し出されている。タイム差が広がり過ぎると逃げ集団にそのまま勝利を奪われてしまうし、逆にタイム差が縮まり過ぎるとメイン集団から新たなアタックを企てる選手が現れる危険があるため、慎重さを要求される仕事だ。

ジ・チェンはツールの公式サイトで「ブレイカウェイ(逃げ集団)キラー(Breakaway Killer)」と紹介されるほど、この仕事を得意としている職人。これはサッカーに例えれば、チームのピンチを最小限にして、攻撃への起点を作るセンターバックや、ボランチの役割。例えばアルゼンチン代表でいえば攻守に気が利くマスチェラーノのような存在だろうか。

ゴールが近づくとジ・チェンは仕事を終え、チームメイトたちにバトンタッチする。いよいよ攻撃開始だ。ジャイアント・シマノの選手たちは、密集隊形のトレインを組んで集団のペースをコントロールしながら、エースのキッテルを絶好のポジションへと連れていく。サイクルロードレースでは前を走っている選手が一番空気抵抗を受ける。つまり、トレインを組んでいれば前を走っているチームメイトが風よけになるため、エースへの負担を減らすことができるのだ。

そして、チームメイトに守られていたキッテルは、それまで温存していたパワーをラスト200mで出しつくし、ステージ優勝をつかみとるのだ。ミッドフィルダーやサイドバックの選手たちがボールをゴール前に運んで、ストライカーにシュートを託すシーンともよく似ているだろう。

サッカーでゴールを決めるまでにチーム全員が仕事をしているように、サイクルロードレースでもエースが勝利を挙げるためにチーム全員が汗を流している。だから、エースの勝利はチームの勝利と言えるのだ。

新城幸也の順位が悪くても、落胆するな!

我らが日本の新城幸也が所属するユーロップカーには、スプリントが得意で現在ツールのポイント賞争いで上位につけるブライアン・コカール、上りが強く今年のジロ・デ・イタリアで総合4位に入ったピエール・ローランの2人のフランス人エースがいる。

特にローランは新城への信頼が厚く、もし自らが移籍するようなことがあれば新城も一緒に連れて行こうとしたという噂もあったぐらいだ。

もちろん、新城は平坦ステージではコカール、山岳ステージではローランを上位でフィニッシュさせるためにアシストの役割を担う。風除け、ボトル運び、ペース作り、位置取りとアシストの仕事は多岐に渡る。

つまり新城は自分の成績よりも、ローランやコカールの成績を優先して走っている。だから、もし新城が数分遅れでゴールしたとしても気落ちせず、今日は早めにアシストの仕事を終えて、マイペースでゴールしたんだな、と想像をめぐらせてほしい。新城にとっての勝利は、チームの成功、コカールやローランらエースが活躍することなのだ。

サッカーで応援するディフェンダーやミッドフィルダーが得点を上げなかったからと言って、落胆するファンはいないだろう。その選手のチームが得点を挙げ、勝つ方が何よりもうれしいはずだ。だから、新城のファンは、コカールやローランが活躍したことを喜ぶのが正解なのだ。

もちろん、新城だってチャンスがあれば自らステージ優勝を狙いにいく。ゴール前で目の前にボールがあったら、ネットに蹴り込まないサッカー選手はいないだろう? それと同じだ。

代替画像

光石 達哉

1971年生まれ。モータースポーツとサイクルロードレースをこよなく愛する。自転車系のコラムを執筆するほか、F1の翻訳なども行う。

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