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しかも、ウランを完全に払いのけようと、アル・コンタドール・ポート集団はさらなる猛スピードでフィニッシュラインへと突っ込んでいく。それでも下りで、クラークは追いついた。
「追いついた後も、彼らにしがみついていくのは、ひどくハードだった。でも、ゴールの先に、マリア・ローザが待っていると分かっていた。普段以上のモチベーションがあった」(クラーク、公式記者会見より)
あまりにも興奮しすぎて、クラークはおちゃめなミスも犯した。メイン集団内のスプリントを制した瞬間、フィニッシュラインで、両手を上げてしまったのだ。しかし22秒前に、本物の勝者が両手を上げていた。22歳のフォルモロが、イタリア自転車界を興奮させる、センセーショナルな独走勝利をつかみとっていた。初グランツールわずか4日目の、見事な区間勝利だった。
ところで2014年イタリア国内選手権では、ヴィンチェンツォ・ニーバリに次ぐ2位に入ったフォルモロだけれど、まだまだメディアにとっては「新顔」だ。おのずと優勝記者会見では「自転車を始めた年齢は?」「憧れの選手は?」「サッカーは見る?」「英語は大丈夫?」なんていう質問が飛び交った。あどけなさの残る顔には似合わず、落ち着いた低めの声で、プロ2年目のフォルモロは丁寧にひとつひとつ答えた。
「自転車は6歳で始めたんだ。家族はみんな自転車の大ファンで、プロこそいないけれど、みんなアマチュアとして自転車に乗っていたよ」「僕の英雄はイヴァン・バッソ。自転車界の発展に大いに尽くした選手だと思う」「好きなサッカー選手はいないけど、地元のキエーヴォを応援してる」「学校でも文法とかを習ったけど、今のチームに入って、単語をたくさん覚えたよ」(フォルモロ、公式記者会見より)
クラークは誇らしそうにピンク色のジャージに着替え、表彰台の上で、改めて両手を突き上げた。2012年ブエルタで山岳賞ジャージを持ち帰ったオージーは、かつて5年間暮らしていたイタリアで(イタリア語も随分と流暢だ)、キャリア最高の栄誉に酔いしれた。また、一緒に逃げたチャベスも最後まで踏ん張り、10秒遅れの総合2位につけている。
「すごくスペシャルな瞬間だね。フィニッシュラインではおもわず感情が溢れてしまった。だってチームにマリア・ローザを留めおくことが出来て、とてつもなく嬉しいんだ。気持ちを抑え切れなかった。昨日の逃げは、スプリントのための布石だった。それは理解していた。すなわち、自分のチャンスを失うという意味だから、少々気分的にはきつかったけど。でも、今日、再び飛び出した。ジャージというご褒美を手にいれた」(クラーク、公式記者会見)
アル、コンタドール、ポートはクラークと同じ12人の小集団でゴールした。コンタドールはクロイツィゲルに次ぐ同タイム総合4位に浮上し、6秒差でアルが総合5位に、20秒差でポートが総合10位につけた。ウランは42秒遅れてフィニッシュし、コンタドールとの差は54秒に開いた。
ゴール直後のアルは、少々不機嫌そうだった。
「今日のチームの働きに、感謝したい。チームメートたちは、最初から最後まで、素晴らしかった。僕もで切る限りの力を尽くした。まだ17ステージ残ってる。気持ちを強く持って、集中し続けなくては」(アル、TVインタビューより)
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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