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サイクル ロードレース コラム 2020年8月27日

【ツール・ド・フランス2020:選手相関】コロンビアとエクアドル。南米が生んだ二人の強者がしのぎを削る。ミゲルアンヘル・ロペス × リチャル・カラパス

ツール・ド・フランス by 山口 和幸
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ミゲルアンヘル・ロペス × リチャル・カラパス

ミゲルアンヘル・ロペス × リチャル・カラパス

アスタナのミゲルアンヘル・ロペス、イネオス・グレナディアスのリチャル・カラパスが、ともにツール・ド・フランスに初出場する。カラパスは27歳のエクアドル選手、ロペスは26歳のコロンビア選手。4月始まりとなる日本式の学年を適用すれば同学年の2人だ。

ロペスの生まれ育ったコロンビアは南米大陸の最北部にある。人口はブラジルに続く第2位。一方、カラパスが生まれたエクアドルはコロンビアの南西にあり、人口第7位の国だ。どちらもスペインの旧植民地で、言語はスペイン語。そしてどちらにもアンデス山脈があり、標高3000mを越える山岳地帯にも人々の営みがある。有酸素運動の高い能力を備えた逸材を輩出する環境がある。

じつはロペスとカラパスがライバルという以前に、両国が永遠のライバル関係なのである。2008年にコロンビア軍が越境侵攻したことがきっかけで、一時は戦争も辞さない緊張状態に。エクアドルはコロンビアとの国交を断絶した。2010年には国交正常化が実現したが、隣り合う国家は仲が悪いのが常だ。

さて本題のツール・ド・フランスへ。コロンビアは1984年にアマチュアチームとして特例でツール・ド・フランス参戦。針金のように細い四肢のルッチョ・エレラがラルプデュエズでステージ優勝し、1985年と1987年には山岳王になった。

これに対してエクアドル選手はツール・ド・フランスにまだ1人も出場を果たしていない。

自転車の強豪国コロンビア出身のロペスは2014年にツール・ド・ラヴニールで総合優勝して、2015年にアスタナでプロデビューした。2017年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝を挙げるとともに総合8位でゴール。さらに2018年にはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位。ジロ・デ・イタリアでは2018、2019年と2年連続で新人王となった。

アマチュア時代のロペスはブエルタ・ア・コロンビアのU23で2014年に総合優勝しているが、それに続いて2015年に総合優勝したのがカラパスだ。

表彰台で手を振るリチャル・カラパス

表彰台で手を振るリチャル・カラパス

エクアドルの高地で生まれたカラパスは2015年に自転車競技の盛んなコロンビアに家族とともに移住している。ブエルタ・ア・コロンビアでの走りが目にとまり、2016年のシーズン途中からモビスターに研修生として加入。2018年のジロ・デ・イタリア第8ステージで初優勝することになる。

2018年のジロ・デ・イタリア第8ステージ。新人賞ジャージを着ていたカラパスが残り1kmからメイン集団を抜け出して区間初勝利を収めた。エクアドル選手がグランツールで区間勝利したのは初めてのことだった。

「ボクはジロ・デ・イタリアに初出場したエクアドル選手だけど、子どものころはこんなハイレベルのレースでこの位置で走れるなんて考えられなかった」とカラパスはゴール後にコメントしている。
「母国に自転車文化がないのはちょっとさみしい。この勝利がきっかけとなって、エクアドルの子どもたちが自転車に興味を持ってくれるとうれしい」

この大会での目標は新人賞ジャージーを最後まで守ることだと語り、ロペスと激しく新人王を争ったが、最難関の第14ステージでロペスに逆転され、2位に甘んじた。

ロペスは小柄ながら上りに強く、その将来性を高く評価されてきた逸材だ。カザフスタンのアスタナに所属しそのときのジロ・デ・イタリアでもエースだった。

ターゲットは新人賞の獲得で、次の目標は総合成績のトップ5入り。そして終わってみればロペスは総合3位に食い込んだ。
「大会の沿道でコロンビアのファンだけでなく、カザフスタンのファンもたくさん見つけることができた。すべてのサポーターに感謝したい。この結果はボクにとって大きなものだけでなく、チーム全体でも素晴らしい。大会期間中を通して、それだけではなくて1年を通してアシストしてくれるチームメート、チームスタッフ、そしてマネージャーのアレクサンドル・ビノクロフに感謝したい。これはみんなの成功だ」

2人の対決は2019年のジロ・デ・イタリアでも展開した。カラパスは新人賞の対象外となる26歳になっていたが、ステージ2勝、そして総合優勝を達成するのである。常にロペスの後塵を拝してきたカラパスが南米のライバルを初めてテイクオーバーしたのだ。

ミゲルアンヘル・ロペス

ミゲルアンヘル・ロペス

2019ジロ・デ・イタリア第14ステージ。カラパスが独走し、第4ステージに続いて2勝目、大会通算3勝目を挙げた。総合成績でもヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEエミレーツ)を逆転して一気に首位へ。

「チームはミケル・ランダとボクの2つのカードを持っていた。今日はランダの調子がよくなくて、ボクが首位をねらってアタックすることになった。自転車を始めた15歳の時からマリア・ローザは夢だった」とカラパス。

カラパスは最終的にエクアドル選手として初めて総合優勝した。中盤で首位に立った伏兵が最後まで逃げ切ったのは予想外だったが、「子どものころに抱いた夢は絶対に忘れちゃいけないんだ。決意をもって努力すれば現実になる」と語った。

最終日、ベローナの円形闘技場には最大収容数の9775人が集まり、随所でエクアドル国旗がうち振られた。南米出身選手の優勝は2014年のナイロ・キンタナ(コロンビア)に続く2度目だった。

エクアドルの自転車競技界は選手層が厚いわけではなく、カラパスが唯一の存在。しかし母国では多くの人が快進撃に熱狂し、自転車レースへの関心が一気に高まったという。

「欧州で走ることになって4年。ボクにとってこれはひとつのスタートだ。ボクたちチームはさらにその上の目標に挑んでいきたい」

初出場となる2020ツール・ド・フランス。ロペスはアスタナの絶対的エースとしてグランツール総合優勝を目指す。そして今オフにイネオス入りしたカラパスは、ジロ・デ・イタリア総合優勝の実績を持ちながら、コロンビアのエガン・ベルナルの連覇をアシストする立場に。ロペスにもマイヨ・ジョーヌのチャンスはあるはずだが、ベルナルになにかがあったときはカラパスがエースとなる可能性も? そう考えると今回のツール・ド・フランスは興味倍増である。

文:山口和幸

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山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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