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ロマン・バルデとギヨーム・マルタン
文武両道。学問も、自転車も、思う存分突き詰める。これぞ21世紀の自転車選手の、かっこいい生き方なのかもしれない。
2014年ツール・ド・フランスで総合2位にジャンクリストフ・ペローが飛び込んだ時、その想像を超えるような履歴書に、世間は衝撃を受けた。なにしろフランスでは最難関国家資格のひとつに挙げられるエンジニアの免状を持ち(エネルギー工学)、原子力産業会社アレヴァ(現オラノ)のタービン開発部門で仕事をしつつ、2005年オリンピックでMTB銀メダルを獲得し、2008年世界選手権ではMTBチーム優勝を果たしているのだ。さらには32歳でロードレーサーとしてプロ入りし、37歳で初めてのツール表彰台!
プロ自転車選手でありながら、アレヴァからは「休職」扱い。たとえアスリートとしての暮らしが突然中断されても、明日すぐにでも他の充実した人生へと再出発できる状況だった。ただし2016年に自転車を降りたペローは、自転車界から離れなかった。フランス自転車連盟(代表監督のポスト)とUCI国際自転車競技連合(機材ドーピング対策責任者)の両方からオファーを受け、後者を選んだ。
ただ今年の7月に、ペローはUCIのミッションを終えた。理由は「プロの世界に機材ドーピングはないと確信するに至った」から。今後はアスリートやチームと共に、「トレーニングメソードの改良によるパフォーマンス向上」を研究していく予定だ。
同じエンジニアでも分野は細かく別れている。チャド・ヘイガやジェレミー・ロワは機械工学を(インターン時代にはマヴィックのホイール研究開発部門に配属された)、ヤン・バークランツは生物工学を、ナンス・ペテルスは化学工学を、そしてマルコ・ピノッティは経営工学を専攻していた。
成績と学歴の両立……と言う点では、ロマン・バルデも決して負けてはいない。高校卒業後まずはアマチュアとして転戦しながら、「出席率の高さは必要なかったおかげで、スポーツを優先できた」と法律学を修める。
ロマン・バルデ(上)ギヨーム・マルタン(下)
そのまま法律で修士課程に進もうと考えたが、プロ入りのチャンスも逃したくはない。当時21歳のバルデは、さすがに授業とレースの二兎を追うのは難しいかも……と悩んだ果てに、学業内容の変更を決断。トップアスリートのためのeラーニングカリキュラムを要するグランゼコール(技術官僚養育を目的とした高等教育機関)で、マネージメントを学ぶことにした。ここなら学年の最初と最後の1週間だけ学校に顔を出せばよく、後はスカイプやオンラインで勉強を続けることができる。
それでも忙しいことには変わりはない。「家にいるときは、朝7時から9時まで勉強して、それからトレーニングに出かける。レースのときは、移動と疲労とで、もっと大変」とも告白している。2015年はドーフィネを終えたあと、学校で英語とドイツ語の口頭試験を受け、それからツール・ド・フランスを戦った。2016年はツール・ド・フランスで初めての表彰台を経験し(総合2位)、直後に夏季五輪を戦ったあと、約1ヶ月のオフを利用して勉強に打ち込んだ。
無事に学業を終えたのは2016年12月。修士論文を書き上げ、以降は自転車のみに全力投球。ちなみにちょっと気が早いけれど……「引退後はツール・ド・フランス開催委員長か!?」とさえ噂される!
このマーケティングは比較的人気の高い分野で、ティシュ・ベノートらも大学で学んでいる。アレクシー・ヴィエルモは経営学の銀行・保険マネージメント修士を取得しており、引退後の夢はプライベートバンクを運営すること!
学歴と多才さを競うなら、ギヨーム・マルタンとドメニコ・ポッツォヴィーヴォを推したい。
ご存知、「走る哲学者」とあだ名される前者は、「現代スポーツ:ニーチェ哲学の適用なるか?」で修士号を取得してからプロへと転向した。近頃は戯曲「プラトンvsプラトッシュ」や、哲学書「自転車に乗ったソクラテス。哲学者たちのツール・ド・フランス」といった、執筆活動に余念がない。一方のポッツォヴィーヴォは別名「ドクター」。理由は単純に経済科学の博士号を持っているから。しかも歴史や文学に精通し、ピアノを引きこなし、気象予報までやってしまう。39歳になる来季末まで選手としての契約が残っているけれど、その後はどうやら政治家を目指すらしい。
すでに39歳のアダム・ハンセンは、とっくの昔に第2の人生に片足を突っ込んでいる。しかも将来は、どう考えても安泰だ。よく知られているように、自転車シューズを自作しているだけではない。
大学でコンピュータプログラミングを習得したベテランは……2012年にロット入りした際に、同チームのロジスティクス面に問題を発見してしまった。そこでハンセンの取った行動は、なんと専門プログラムの開発!もちろん、2011年ブエルタから2018年ジロまで、20大会ぶっ続けで3大ツール全出走全完走を成功させてきた真っ最中の出来事である。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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