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【ツール・ド・フランス2020:選手相関】カギを握る2人のスロベニア人選手。お互いエースとして火花を散らす!プリモシュ・ログリッチ × タデイ・ポガチャル
ツール・ド・フランス by 山口 和幸プリモシュ・ログリッチ × タデイ・ポガチャル
スロベニアはかつての社会主義国、ユーゴスラビアから1991年に独立した小国だ。西隣はイタリア。ドロミテ山塊に近く、ジロ・デ・イタリアもときおり訪問する。山岳や森林、海など多様な地理的要素があって、それだけにスポーツ界では多くのトップ選手を輩出してきた。
自転車ロードレース界で、いま最も注目されているのが2人のスロベニア選手。ユンボ・ヴィスマのプリモシュ・ログリッチとUAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャルだ。ともに2020ツール・ド・フランスにチームエースとして乗り込んでくる。
30歳で世界ランキング1位になったこともあるログリッチ、21歳のポガチャルの戦績を比較するのはちょっと無理があるが、新進気鋭のポガチャルはまさにログリッチとライバル関係に急成長した。2019年はブエルタ・ア・エスパーニャで総合成績を争ったのである。
今季は新型コロナウイルス感染拡大に影響されながらも、スロベニア選手権で激突した。個人ロードレースでは2人の一騎打ちとなり、ログリッチが貫禄を見せてポガチャルを制したが、1週間後の個人タイムトライアルでは2017世界選手権2位の実績を持つログリッチを上回ってポガチャルがトップタイムをたたき出した。ログリッチは得意種目で2位に甘んじたのだ。
2019年のブエルタ・ア・エスパーニャでの戦いを振り返ってみたい。
ログリッチは5月のジロ・デ・イタリアでは開幕にピークを合わせ、初日の個人タイムトライアルに勝って首位に立った。ところが23日間の長丁場という戦いで、終盤に調子を落として優勝争いから脱落した。ジロ・デ・イタリアで疲れ果てたログリッチは、ツール・ド・フランスを回避。ブエルタ・ア・エスパーニャをパスすることも選択肢のひとつだったが、将来に向けて経験値を積むことを選んだ。
ログリッチはもともとスキーのジャンプ選手だった。ジュニア時代の世界選手権では団体種目で金メダルを獲得している。初来日も長野で開催されたジャンプ大会だったという。
国旗を広げて表彰台にのぼるログリッチ
21歳の時に自転車競技に転向した。ジャンプ選手時代から瞬発力と持久力のバランスに優れていて、集団走行に慣れるとすぐに好成績をマークしていく。2017、2018年とツール・ド・フランスの終盤ステージで各1勝。2018年は総合4位に。ジロ・デ・イタリアでは個人タイムトライアルで2016年に1勝、2019年に2勝した。
「2019年のジロ・デ・イタリアでは総合優勝を争っていた終盤に失速してしまったが、それ以外は最終週に好成績を挙げている。今回のブエルタ・ア・エスパーニャも最後に調子を上げるつもりで調整した」とログリッチ。第10ステージの個人タイムトライアルで首位に立つと、鉄壁のアシスト陣の援護もあって最終日までコロンビアやスペイン勢の攻撃をしのぐが、ここでうまく利用したのが同胞のポガチャルだ。
2019年のブエルタ・ア・エスパーニャでは、もう1人のスロベニア選手が話題となっていた。区間3勝と大活躍し、いきなり総合3位になった。第9ステージで初の区間勝利したときは、「最終日の表彰台でログリッチの隣に立てたらうれしい」と夢を語ったが、それを実現してしまうことになる。
スロベニアの格下チームに所属していた2018年にアマチュア版ツール・ド・フランスと言われるツール・ド・ラブニールで総合優勝。2019年にUAEチームエミレーツに移籍し、このブエルタ・ア・エスパーニャがグランツール初参戦だった。
2019ブエルタ・ア・エスパーニャの第9ステージ。ピレネー山中の小国アンドラで開催されたレースは雷雨に見舞われる厳しい闘いとなったが、ポガチャルが有力選手の集団から抜け出して初優勝する。この大会最年少の20歳が三大ステージレース初優勝を遂げた日だった。
「天気予報で雨が降ると聞いてこのステージをねらっていた。自分にとってはそれがチャンスで、計画通りに勝利をつかむことができてうれしい」とポガチャル。
さらに休息日明けの第10ステージは大会唯一の個人タイムトライアルが行われ、この種目を得意とするログリッチが圧勝。総合2位から首位に浮上した。ログリッチは総合2位に1分52秒差をつけ、後半戦の厳しい山岳ステージで逃げ切りを図るのだが、「上りが得意なコロンビアやスペイン勢のことを考えると10分リードしていても十分ではない」と不安は隠せなかった。
ログリッチと握手をかわすポガチャル
そして第13ステージ、峠の頂上にゴールが設定されている難関区間で首位ログリッチとポガチャルのスロベニア勢が抜け出した。最後はポガチャルが先着して、第9ステージに続く2勝目を挙げた。タイム差なしの2位になったログリッチはライバル選手との差をさらに広げ、ここで総合優勝に一歩前進した。
「この日はリタイアすることなく生き残ろうと思っていた。まさか最後にこんな調子がよくなるなんて思わなかった」とメジャー初出場にして2勝目を挙げたポガチャル。総合成績で前日の5位から3位に浮上。さらに新人賞でトップに躍り出て純白のリーダージャージを獲得した。
大会最後の山岳となった第20ステージでもポガチャルが独走を決めて、第9、13ステージに続く大会3勝目を挙げた。翌日の最終日は平たん区間なので、ログリッチの初優勝もここで決まった。
「多くのスロベニアファンがボクに声援を送ってくれた」とポガチャル。
「スタート後は積極的に行けるとは思えなかったが、みんなが冷たい雨に苦戦しているのを見てアタックした。区間3勝を挙げ、最終日の表彰台にスゴい選手たちと立てるなんて夢のようだった」
2020ツール・ド・フランス。2017ジロ・デ・イタリア総合優勝のトム・デュムラン(オランダ)を獲得したユンボ・ヴィスマは、昨年総合3位に入ったステフェン・クライスヴァイク(オランダ)をケガで失ったものの、ログリッチをエースに起用して初制覇をねらう。
ログリッチ自身も、首位に立っていたクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで負傷すると、ケガの回復に専念するために最終日をスタートしなかった。総合優勝を捨ててまでツール・ド・フランスにかけているのだ。
そしてポガチャルは初出場。25歳以下の選手を対象として、個人総合時間が最も少ない選手に与えられる新人賞の有力候補。最有力候補は前年の総合優勝者であるエガン・ベルナルだが、レースが荒れればポガチャルがマイヨ・ジョーヌとのダブル獲得というケースもあり得ないことではない。
2020ツール・ド・フランスでカギを握る2人のスロベニア勢。果たしてライバルであり続けるのか? あるいは他の強豪選手をふるい落とす時には同胞として力を合わせるのか? このあたりにも注目してレースを観てみたい。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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