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カザフ軍事警察 大佐 アレクサンドル・ヴィノクロフ
自転車ロードレースの選手たちは、チーム内で、「リーダー」や「アシスト」といった役割を与えられる。ただし、これは、絶対的な役職ではない。名刺に書き込める肩書でも、決してない。
ところがプロトン内には、肩書どころか、国家から与えられた「肩章」を有する(有していた)選手たちがいる!
たとえばトニー・マルティンとジョン・デゲンコルプは、かつて2つの青い星を肩に抱いていた。そう、2人は、ドイツのチューリンゲン州警察の元巡査(Polizeimeister)。2人とも同警察の訓練センター出身で、プロ入り後しばらくも、警察官としての任務を果たしてきた。違反切符を切ったり交通整備をしたり……。「犯罪撲滅!ドーピングは犯罪!」ときっぱり断言するデゲンコルプは、2011年からは「予備役」に。つまり一生涯を正義に捧げる覚悟らしい。
フランス陸軍には、ほんの数年前まで、自転車チームがあった。プロ選手も数多く輩出してきたが、中でも最大の出世頭はバンジャマン・トマとジュリアン・アラフィリップ。前者はトラック競技で世界タイトル3、欧州タイトル5、国内タイトル4を誇り、後者は2018年ツールで山岳賞を、2019年ツールでは14日間もマイヨ・ジョーヌを着用している。ちなみにアラフィリップの、第121鉄道連帯時代のあだ名は脱走兵!
ところで、自転車界においてトマとアラフィリップは間違いなく超一流だが、陸軍においては……一等兵(Premiere Classe)にすぎない。
一方で現在NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンスのロマン・コンボーは、選手としてはプロ0勝ながら、軍人としては階級が1つ上の伍長(Caporal)であった。38歳の現在もアマチュアチームで走り続けるジュリアン・ゴネは、さらに3つ階級が上の曹長(Sergent-chef)。アラフィリップの肩章が赤いライン2本なら……ゴネは黄色いライン3本。両者には、絶対に越えられない立場の差が存在する。
なによりアスタナのゼネラルマネージャーの、その圧倒的な階級には、誰も対抗することなどできい。
ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝やリエージュ制覇の功績を讃えられ、アレクサンドル・ヴィノクロフは2008年、カザフスタン軍事警察のLieutenant Colonel、いわゆる中佐、もしくは警視正に昇格した。さらに2012年ロンドン五輪金メダル獲得で、もう1つ上の名誉職を与えられた。それがColonel=大佐=警視長!
ためしに日本の警察組織に照らし合わせてみると、警察庁長官→警視総監→警視監に次ぐ上から4番目の階級に該当する。なるほど……ヴィノクロフには、逆らわないほうが良さそうだ。
文:宮本あさか
あつまれツールの森 第8話 「横風分断」
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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