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世界中の猛者達が集結するジャパンカップサイクルロードレースの開催地として知られる栃木県宇都宮市。今年は本家ツール・ド・フランスを参考に、「ツール・ド・栃木」と称したラインレースも実現。これら活動を支える宇都宮ブリッツェンの廣瀬佳正氏と那須ブラーゼンの若杉厚仁氏がツール・ド・フランスに魅せられた自転車人生を語る。(4/4)
取材日:2017年5月22日
PROFILE
☐廣瀬佳正
宇都宮ブリッツェン・ゼネラルマネージャー。ブリヂストンアンカー、スキル・シマノなどのチームを経て、栃木のプロロードチ-ム「宇都宮ブリッツェン」設立に尽力し、自らも選手として活躍。09年のジャパンカップでは山岳賞を獲得した。
☐若杉厚仁
spacebikes.com でロードデビューし、当時の実業団BR-1(現在のE1)で年間ランキング1位となり、宇都宮ブリッツェンに加入。2009年JサイクルツアーBR-1ランキング1位。現・那須ブラーゼン代表取締役。
——自転車についてもお話を伺っていきたいと思います。現役時代に使用していたメーカーはどちらですか?
廣瀬:クラウディオ・キアプッチがカレラというフレームに乗っていました。僕自身それまでずっとおさがりの自転車に乗っていましたが、アマチュア時代に初めてメーカーから支給された自転車がカレラだったんです。クラウディオ・キアプッチに憧れてプロになったので、同じバイクに最初に乗れて嬉しかったことを覚えています。
——自転車は自分の体型や特性にあわせたカスタムなど許されるのでしょうか?
廣瀬:メーカーからこれを乗ってくれと言われたものを乗ります。(カスタムについても)自分が与えられたブランドのパーツの中で選べることもあるし、選べないこともあります。基本的にはメーカーに言われたものをそのまま乗ります。カタログに掲載されているものを乗って成績を出すことがプロにとってはとても大切になります。
若杉:ツールに出る選手でもエースくらいしか選択は許されていないかもしれませんね。エースにはスペシャルバイクが用意されたりとか、カラーリングとかセッティングも含めて特殊なものを用意してもらうことができますが、他の選手たちは汎用性のあるものに乗せられるケースが多いと思いますね。
廣瀬:そういった意味では商品に自分を慣れさせることも大事なことです。ただ、チームによっては靴がフリーだったりします。スカイは色の指定だけがありますが、あとはフリーです。新城選手がいるバーレーン・メリダは全員統一だったりしますね。
若杉:ツールに出ている選手の半分くらいは機材の自由が利かないですね、きっと。
廣瀬:好きなものは使えない、規制がある中で対応していく。選手の中には、靴が合わないからソールは別のメーカーにして、外側だけ別注する人もいます。
若杉:選手に負荷はありますが、決められたものを使うことによってファンの人たちが選手と同じもの(既製品)を使えるといった面白さもありますよね。選手が使っているからといって特別なものでは無い場合が多いですから。
廣瀬:ツールは翌年の部品やウェアなどのお披露目の場でもあります。エースだけが違う形だったりしますよね、それが翌年のモデルになります。ツールではそのメーカの1番良いものを使いますが、心の中では多くの選手が他のチームのバイクに乗りたいと思っているかもしれません。でもそれがプロです。
——テクノロジーが進化し、自転車もどんどん変わってきましたが、最近ここが変わったなと感じることはありますか?
廣瀬:ワイヤーが全く外側に出なくなったとか、後はエアロロード、「空力」ですよね。昔はエアロロードは重いとか言われていましたが、それですら重量が軽くオールマイティに使えますよね。
——おすすめするグッズやアイテムはありますか?
廣瀬:パワーメーターがトレーニングの主流なので、パワーメーターですね。パワーメーターはぺダルを踏んだ時の出力がでるんですね。一般の方も購入できる。プロの選手と自分がどれくらい力の差があるかを知ることができます。いかにプロが凄いか感じてもらうと面白いかもしれません。
写真:現役時代にランス・アームストロングが使用したバイク
——プロの選手は心拍数が異常に低いと聞きますが。
廣瀬:朝起きて低い選手だと1分間で28とかいいますよね。僕も30とかでしたよ。スポーツ心臓ですよね。トレーニングの中で自然とそうなっていくと思います。
——ロードレーサーのアスリート性として最も秀でているところはやはり心肺機能ですか?
若杉:心肺機能だと思いますね。酸素を供給する能力であったり、1回に血液を送り出すポンプ機能が強くなっていると思います。レース中だと4~5時間ずっと平均心肺数が150~160になります。4~5時間のその数値になるととんでもない心臓の稼働量になります。マラソンでも2時間ちょっとで終わるレースで160後半とか、自転車だと4~5時間それに近い数字になるので。心筋の能力というのは高いですね。また、長距離種目の中でもインターバル能力が必要になるので、単純に持久力が積み重なっているだけではなく、ダッシュもあるし、心拍が200を超えるシチュエーションあるので、そういうことを繰り返していると、普通の心肺機能が鍛えられる競技よりも、より心臓に負荷がかかりやすいと思いますよね。
——現役時代レース前に意識していたことはありますか?
若杉:エネルギーはしっかりとらないといけないですね。しっかり炭水化物を食べるということと、6時間を越えてくると、カーボローディングといってエネルギーをローディングする食事の取り方をしなくてはならなくて、脂質を一気に抑えて炭水化物を一気に摂取します。そういう食事のコントロールを行ってエネルギーの供給を考える。また、レース中にドリンクを飲むとかそういうことがしっかりできないといけなかったですね。
自分の身体を分かっていないといけないですし、知識も蓄えておかなければならない。内臓が強い選手は何を食べても消化できるけど、ツールみたいに21日間レースをしていると内臓が弱まって消化ができなくなる選手もいたりするので、メカだけでなく身体のメンテナンスを自分でコントロールしていくことが大切ですね。
——お二人の今後のビジョンを含めて、ツール・ド・フランスを見て視聴者に何を感じてもらいたいかをお聞かせください。
廣瀬:ツール・ド・フランスはロードレースの原点だと思います。日本の自転車熱を巻き起こしたといっても良いと思います。そこで影響を受けた人たちが日本でもロードレースを盛り上げていこうとしているので、ツール・ド・フランスは日本ロードレース界におけるお母さんでしょう。
選手も競技主催者も、国内のあらゆる自転車関係者がツールを目指しています。全国で起こっているヒルクライムとか、ロングライドとか、ジャパンカップもツール・ド・フランスのように地域に還元できるような文化を作っていけたらいいですよね。
若杉:そのまま真似することは難しいので、いかに自分たちの地域の中で咀嚼して、自分たちが作るレースで再現していくか、魅力あるチームやレースが作れるかですよね。
廣瀬:ツール・ド・フランスから日本にロードレースが広がってきて、今度は各地域が自転車を使って街を元気にしていく。
若杉:ツールを見ていただくみなさんにツール・ド・フランスが一つの競技ではなくて文化であることを理解しながら観ていただけると、そこから学びとれる情報はたくさんあると思います。
廣瀬:近所で行っている小さな自転車イベントも実はツール・ド・フランスが影響して生まれているものだということを認識してほしい。
若杉:少なくとも栃木県はそれに近付いてきているように感じます。
廣瀬:そして何より、サッカーのワールドカップで日本代表が勝つということと同じで、ツール・ド・フランスで日本人、日本のチームがマイヨ・ジョーヌを着ることが日本自転車界の夢ですね。
若杉:そういう意味でもツール・ド・フランスは永遠に目標とする場所であってほしいですね。
J SPORTS 編集部
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