【Tourに魅せられて～Vol.3】クリス・フルームは僕らからしても異常

世界中の猛者達が集結するジャパンカップサイクルロードレースの開催地として知られる栃木県宇都宮市。今年は本家ツール・ド・フランスを参考に、「ツール・ド・栃木」と称したラインレースも実現。これら活動を支える宇都宮ブリッツェンの廣瀬佳正氏と那須ブラーゼンの若杉厚仁氏がツール・ド・フランスに魅せられた自転車人生を語る。（3/4）
取材日：2017年5月22日

PROFILE

☐廣瀬佳正
宇都宮ブリッツェン・ゼネラルマネージャー。ブリヂストンアンカー、スキル・シマノなどのチームを経て、栃木のプロロードチ－ム「宇都宮ブリッツェン」設立に尽力し、自らも選手として活躍。09年のジャパンカップでは山岳賞を獲得した。

☐若杉厚仁
spacebikes.com でロードデビューし、当時の実業団BR-1(現在のE1)で年間ランキング1位となり、宇都宮ブリッツェンに加入。2009年JサイクルツアーBR-1ランキング1位。現・那須ブラーゼン代表取締役。

——ツール・ド・フランスの注目選手を教えてください。

廣瀬：クリス・フルームに注目が集まっていると思いますが、ここに来てチーム・スカイの状況があまり良くないように感じています（取材日：5月22日）。マネジメントが完璧なスカイに若干影が見えてきているので、それが選手達にどう影響するのか気になります。一方でクイック・ステップがとても良い。

若杉：各チームいろいろ動きがありましたよね。バーレーンやボーラなど。各チームがどう影響し合うのか注目ですね。

廣瀬：今年は総合争いは予想しにくいです。

——あえて一人あげると？

廣瀬：立場的にはバーレーン・メリダを言わなくちゃいけないんですけど（笑）
…コンタドールですかね。今年はとらないといけないと思います。動物的な感覚ですが、今年とらないと今後厳しいと思います。年齢的にも。

写真：アルベルト・コンタドール

若杉：総合的にはフルームなのは間違いないですよね。彼を中心にレースが回ると思います。

——選手補強したボーラ・ハンスグローエはいかがですか？

若杉：サガンの動きは総合というよりはステージでしょうけど、マイカとかがどう関わるかですよね。

廣瀬：総合ではマイカ、ポート、バルベルデ、コンタドール辺りでしょう。

若杉：ポートは浮き沈みがある印象もありますよね。

廣瀬：モレマはコンタドールとトレックのダブルエースになりますが、モレマはジロに出ているのでエースはコンタドールになると思います。

若杉：サガンがツールをどのように走るのか。年々変化してきている印象です。単純にポイント賞やステージを獲りに来るのか、色々な面白い動きが期待できますよね。

廣瀬：サガンの進化は楽しみですね。ただ、サガンのツール・ド・フランスでの魅力が若干薄まっている気がしています。それはピュアスプリンターよりも総合寄りに少し変わってきていて、今までは圧倒的なスプリント力、バイクコントロールで勝利を量産してきましたが、世界戦を獲ったり、登れるスプリンターになってきていて、純粋なピュアスプリンターに最後敵わなくなってきているんですよ。だけど、登れてスプリントができるのでグリーンジャージは獲れるんですよね。


写真：ペーター・サガン

若杉：サガンが世界チャンピオンジャージを着て走るツール・ド・フランスをどう走るのかは楽しみではありますけどね。

廣瀬：サガンはクリアできるけど、他のピュアスプリンターがクリアできない峠があるんです。それをアシスト制がコントロールしてサガンは残しつつも他のスプリンターをふるい落とすアシスト芸も実は凄い好きで、通な見方だと思います。

若杉：総合には関係ないけど、ボーラが峠で先頭を引っ張って走っているというシチュエーションがあると、それが総合に関係あるマイカのためではないとしたら、サガンのため。

廣瀬：これはチームの作戦として、サガンは無線とか付けて走ると思うので、2級とか3級の峠でわざと自分が苦しいくらいの速度にペースを上げろとアシスト勢に指示を出すんですよ。そうすると、例えばサガンとカヴェンディッシュが同時にスプリントしたらサガンは絶対に勝てませんが、サガンはギリギリクリア出来るけどピュアスプリンターは脱落していく速度をアシスト勢が演出していく訳ですね。

去年はサガンとフルームが横風区間でチームが分裂しそうな時に、フルームは総合でライバル勢を突き放したい、サガンは他のスプリンターが遅れたのでフルームと協調したい。ライバルチームでありながら思惑が一致してゴールまで協調すると。こうした駆け引きの面白さを知ったファンはもうロードレースから抜け出せないと思います。一生付き合っていくことになるでしょうね。

——今回、J SPORTSではオンデマンド配信限定で、山岳コース時にヒルクライムを行う方々に向けた特別解説を実施予定としています。廣瀬さんは現役時代に山岳コースを得意としていましたが、注目ポイントを教えてください。

廣瀬：やっぱりツールを走る選手は、ペダリングとか、ライディングホームの特徴・特性とか、どこの筋力を多く使っているとか凄く参考になって、ブリッツェンの選手もツールを観て登りの研究をしたりしています。

若杉：フォーム＝筋肉だと思いますけど、いかにして身体の裏側の筋肉（大きくてスタミナがある）を使うことができるのか。さらには、太ももやお尻の筋肉をしっかり上半身とリンクさせることができるかが重要だと思いますけど、やっぱり連動が上手く出来てる選手のフォームは綺麗ですよね。

写真：クリス・フルーム

廣瀬：クリス・フルームは僕らからしても異常すぎます。高校時代から僕たちは下を向く選手は強くならないと言われていました。今考えれば「夜爪切るな」と同じで、下を向くと危ないから別の言い方をしていたのかもしれませんが、強くなりたいので信じ続けてきました（笑）。なのに、フルームがでてきたときに「めっちゃ下向いてるのにマイヨ・ジョーヌ着てるわ！」と、定説が壊れた瞬間でしたよね。

若杉：サガンは全身の筋力が強いというのがよく分かります。全身をバネのように使って走っているので、上半身を含めて凄い強いですよね。

廣瀬：日本人は新城選手のフォームが参考になると思いますよね。肩甲骨周りの使い方とか、骨盤の角度とか、同じ日本人として参考にすべきかなと思いますけど。

——新城選手の凄みはどこですか？

廣瀬：フィジカル的には日本人離れしていますね。

写真：新城幸也

若杉：新城選手の従兄弟が僕のチームに在籍していますが、とにかく内臓が強いです。何を食べても大丈夫みたいな。内臓が強いことは回復も早いですし、取り込んだエネルギーを筋肉やスタミナに変換できますよね。そうすると結果的に日々のトレーニングも人よりタフにこなせますし、回復が早い分翌日以降も強い負荷が掛けられますよね。たぶんそのおかげで強くなり続けていけるんじゃないかなと感じています。トレーニングし続けられるキャパシティーが凄くあるということです。

廣瀬：腹圧が凄いよね。丸太っぽいあの体幹はやっぱりパワーが逃げていかないと思う。

——また、6画面同時視聴ができ、任意のカメラを選択できるマルチ画面配信サービスもJ SPORTSオンデマンド限定でご届けする施策も予定されています。プロならではの活用方法などありますか？

廣瀬：下りとか見てみたいです。

若杉：スプリンターが遅れたかどうかは確認はしたいですよね。総合もそうですし、思惑があって先頭がペースアップしている時に後ろがどうなっているのか逐一確認できたら嬉しいですね。

廣瀬：登り坂で先頭グループばかり映すのは当たり前ですが、グルペット（自転車ロードレースの山岳コースで、タイムアウトにならない程度にゆっくり走るために作る集団を指す用語）の集団がどんな雰囲気なのか見られたら面白いですね。スプリンターのゴール前での争いって凄いですけど、登りの時は協力して完走しようよってなるわけなので、「あの選手遅れたな」とか「昨日までこの二人先頭でどつき合いしてたのに和んで走ってるな」とか、別のドラマが観られると面白いですね。

若杉：総合首位の選手と2位、3位の選手の位置関係も確認できたらよいですね。

廣瀬：トップ集団だけではなく、アシスト選手の働きなどにも注目していけるとより面白くレースが観られると思います。