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文:木村浩嗣
ブエルタ・ア・エスパーニャと言うと、「山」を思い浮かべる人が多いのではないか。今年も全21ステージのうち「山岳コース」にカテゴライズされたものが8つある。そのうち「中級山岳コース」3つ(第3、4、5)が前半、「上級山岳コース」が5つ(第9、13、14、15、20)が中盤から後半に集まっており、文字通り前半と後半にそれぞれ“山場”があり、クライマックスが特に“盛り上がる”よう工夫されていることがわかる。出発地と到着地の高低差が1500メートル以上ある第13ステージと4度の山頂アタックがある第14ステージ、同5度のアタックがある20ステージは、“山場中の山場”となるはずだ。
スペインの山としては南部のシエラネバダ山脈と東部のフランス国境にあるピレネー山脈が有名で、今回のステージでも前半の山岳コースはここに設定されているが、後半のそれは北部のカンタブリア山脈に設定されている。面白いのは北部と南部では植生が異なり、同じ山であっても風景が一変することだ。ブエルタの中継でおなじみの、赤茶けた岩肌の山に張り付くオリーブ畑という、いわゆる“スペインらしい風景”は雨が少なく乾燥した南部のもの。これに対して、北部は雨が多く湿度が高くて日本に似ている。後半の山場カンタブリアの山々は緑にあふれた、日本のみなさんの見慣れた光景になるだろう。気候が変わると当然飼われている動物も変わって、乾いた南部には羊飼いに連れられたヒツジやヤギが移動しているが、北部では豊かな緑地に寝そべって草をはむ牛の姿が見られるはずだ。
と、ここまで山の話ばかりしてきたが、スペインが“山がちな国”であるかと言えば、在住者の私から見るとそうは見えない。だって周りに山なんかないんだもん。私は南部アンダルシアのセビージャに住んでいるが、最も近くの山らしい山であるシエラネバダを行くのに車で3時間以上かかる。日本なら大都市東京からでも1時間ちょっと電車に乗れば青梅の山に着くのに。マドリッドからセビージャまで2時間半、時速200キロで突っ走るAVEに乗っても車窓から見えるのは、ほぼ広大な平原である。国土の6割が山である日本人から見ると、スペインのイメージは延々と続く平らな土地なのだ。
例えば、最終ステージの舞台、マドリッドの標高は640メートルもあるが高低差がほとんどないため「平地ステージ」というカテゴリーになっている。地図を見てもらえばわかるが、スペインの山地や山脈は海との境や国境付近に固まっており、ブエルタはそれらを上手に使ってコース取りし、“山岳のブエルタ”という定評を得ているわけだ。
J SPORTS 編集部
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