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サイクル ロードレース コラム 2018年7月7日

【Youtube無料LIVE配信中】「チームプレー」を徹底解説!ツールは世界最高の教科書である / Tour de France 2018

ツール・ド・フランス by 米山 一輝
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チーム競技と言われるロードレースだが、その実際については分かりにくい部分も多い。ただ走っているように見えても、ツール・ド・フランスであれば22チーム、各チーム8人で合計176人もの選手が、それぞれの役割と思惑でもって動いているのだ。個々の走りの意図を読み解くのは容易ではないが、それが想像できるようになると、ロードレース観戦は飛躍的に面白くなる。ツール・ド・フランスは世界最高峰の選手たちによる、世界最高峰のレース。チームプレーにおいても何気ない瞬間の一つひとつが、世界最高の教科書であるといえるだろう。

チームプレーの目的は、もちろん自チームが勝つ確率を上げることにある。チーム内で勝利を狙う選手(エース)を可能な限り決定機まで温存しながら、その他の選手(アシスト)がエースの得意とするシチュエーションを作り上げる。あるいは、他チームのエースやそれを守るアシストを消耗させ、得意とするパターンに持ち込ませないよう攪乱するのだ。

それでは、戦術的・戦略的要素から、さまざまなチームプレーの実際を見ていこう。

チームプレーの基本の一番は、何と言っても「前を引く」ではないだろうか。ロードレースは空気抵抗との戦いと言われ、平地であれば走行時にかかる抵抗の8割を空気抵抗が占めている。アシストが前を走って空気抵抗を率先して受けることで、エースの体力を温存することができるのだ。

また集団の先頭を引くことは、集団全体の走るペースを決められるということでもある。集団先頭を走ることは労力の要る仕事だが、レースの流れをコントロールすることができ、望む展開を主体的に作り出せるのだ。

急激なペースアップを行う「アタック」は、レースの流れを一気に変える動きだ。集団のペースを乱して他の選手を消耗させるほか、あわよくば集団から単独もしくは小さな集団で先行することができる。

一方で「アタックに反応する」「アタックを潰す」という動きがある。他のチームだけが先行することは戦略上不利になる場合が多いので、アタックした選手に反応して同じグループに入る。そのまま共に先行する場合もあるし、そのグループが先行することがチームにとって不利になる場合は、アタックを潰すことになる。

アタックを潰すとなると、マンガなどでは前を塞いで邪魔をしてペースを落とさせるような描写もあるが、実際のレースではほとんどそういったことはない。アタックした選手の後ろに付いて先頭に出ない、あるいは先頭交代の隊列に入りつつ先頭には出ない、といった動きで、ほとんどのアタックはペースを乱し、勢いを削がれることになる。

アタックが成功すれば、集団に対して「逃げ」が発生する。プロロードレースの場合、レース前半で逃げが作られ、後半にかけてメイン集団が追い上げて、最終局面に入るという展開が多い。

逃げは一般に少人数で、体力的にはメイン集団内を走るよりも不利だ。だがいくつかメリットがある。集団から先行していることで、もし逃げ切れば勝利のチャンスが増える。また後方のメイン集団において、自チームが追走の動きに加わらなくてもよくなり、チームメイトが体力を温存できるのだ。

多くの場合、メイン集団がペースアップして逃げを捕まえるが、上りの厳しい山岳ステージなどでは「前待ち」といって、レース後半に追い付いてきたエースを助けるために、アシストの選手が逃げに乗る場合がある。メイン集団で走った場合、そこに至るまでのペースアップで脱落してしまうような選手も、前待ちをすることで重要な局面での戦力に加わることができるのだ。

また直接的なレース結果ではないが、逃げの大きなメリットに「目立つ」ということがある。ツール・ド・フランスのような世界的なレースであれば、逃げに乗れば長時間テレビに映り、ウエアに入ったスポンサーのロゴをアピールできる。スポンサーからの収入で成り立っているプロチームにはとても重要なポイントだ。

反対に「逃がす」という戦略もある。逃げが集団にある程度差を付け、簡単に追い付かない状況になれば、集団内では無駄なアタックが起きずペースは安定する。アタック合戦が長く続けば乱戦となり勝負が読めなくなるので、力のあるチームは終盤に逃げを吸収することを見越して、逃げ切らない程度の逃げを容認するのだ。3週間で戦うツール・ド・フランスにおいては、各チームの思惑次第では集団が逃げ切りを容認する場合もあるが、これも3週間に渡る長いレース全体を見据えた戦略的な選択だ。

大きな集団内では「位置取り」も重要な仕事だ。重要な局面ではレースの動きに対応するため、また集団内で落車が発生した際の影響を少なくするため、エースをなるべく集団の前方に置いておきたい。

集団内では通常、各選手が少しでも風を受けない楽な位置で走ろうとして、対流のように位置関係が常に変化している。油断して流れに身を任せていると、あまり楽でない位置や、集団後方へと押しやられてしまうのだ。チームで固まって動くことで、エースの周りの対流を抑え、余計な体力を使わないようにすることができる。位置取りの先頭や外側の選手の体力は消耗するが、エースは守られることになる。

上りの前やスプリントの直前など、重要な局面では「エースを引き上げる」という役割がある。この場合、アシストの選手が集団内をかき分け、あるいは集団の横のスペースを使って、前に上がっていく。位置取りに長けた選手が、脚と技術を使ってエースに有利なポジションを確保するのだ。

ときおりレースのスパイスになるのが「横風対応」だ。通常、集団で風を多く受けるのは前を走る選手のみだが、横風の場合はより多くの選手が風を受けることになる。横風の中をスピードアップして集団が一列棒状になれば、全ての選手が風の抵抗にさらされるので、ライバルに大きなダメージを与えることができるのだ。

横風に対抗できるのは、エシュロンと呼ばれる斜めの隊列だ。集団の前方でエシュロンを組むことで、通常なら空気抵抗を受けて力を使う先頭でのペースアップを、圧倒的有利な立場で行うことができる。エシュロン先頭を走る選手は、道路端からどれだけ離れて走るかで、エシュロンに入れる選手の量をコントロールすることができる。自チームの選手だけが入れる幅でエシュロンを回せば、強力な攻撃になるのだ。

このほかにも、集団内のチームメイトに対するサービスとして、「ボトル運び」などがある。集団後方にいるチームカーから飲み物の入ったボトルを大量に受け取り、集団内のチームメイトに配るのだ。同じように、気温や天候の変化があるレースでは、上着や雨具をチームカーに取りに行ったり、逆にチームカーへと運んだりもする。地味だが集団内を前後に移動するのは、意外に体力を消耗する行為。これを引き受けることで、その分チームメイトの体力を温存できる。先頭で集団を引くアシスト選手に、別のアシスト選手がボトルを届けるという「アシストへのアシスト」といった場面が見られることもある。

実のところ、テレビを見ていてもチームプレーのほとんどは画面に映らない。それでも様々な仕事の存在を知り、断片的な映像から各選手の仕事の内容を想像していくことで、勝負に絡むクライマックス以外の場面も、より興味深く見ることができるはずだ。



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米山 一輝

元ロード選手のフリーライター。 運命のいたずらからレースの世界にはまり込み、 15年くらいの選手生活で全日本TT5位2回という微妙な実績がある。 チーム広報も兼ねていた流れから、自転車関連のWeb媒体2つの立ち上げに関わり、今も自転車レース界隈で年を重ねている。

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