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サイクル ロードレース コラム 2018年7月4日

「エース」はどうやって決まるのか? / Tour de France 2018

ツール・ド・フランス by 米山 一輝
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自転車ロードレースは、チーム競技だ。形式としては全ての選手がスタートからゴールまで走り、最初にゴールした選手が優勝となる個人競技。だが、実際は各チームが特定の選手を「エース」として立て、エースが最大限の結果を残せるように、他の選手は「アシスト」としてエースを助けながら走る。各チームが異なるタイプの選手を組み合わせて勝利を目指すプロセスは、ロードレースにおける醍醐味のひとつだ。

チームがエースとして指名した選手は、チーム内で最も小さな番号のゼッケンを付けるのが慣例だ。ゼッケン番号は百の位と十の位がチームを、一の位の1~8がチーム内での選手ナンバーを表す。つまり「1」や「21」「131」といった風に、ゼッケン番号の一の位が「1」である選手が、各チームのエースということになる。野球で言えば4番バッター、サッカーならエースストライカーにあたる、花形のポジションだ。エースナンバーをつけてツール・ド・フランスに臨むだけでも、選手にとっては大きな名誉であるといえる。

このエースナンバーを誰が付けるかは、すなわちチームが何を一番に目指して走るか、ということでもある。たとえば前回大会を含め、過去4度の総合優勝を誇るクリス・フルームがエースになるチーム スカイは、当然のことながら3週間全体を通した個人総合優勝を狙うし、高いスプリント力をもちある程度の上りもこなす、現世界チャンピオンのペーター・サガンがエースのボーラ・ハンスグローエは、ステージ優勝とマイヨ・ヴェール(総合ポイント賞)を狙う、といった具合だ。

それでは、エースは一体どのように決めるのだろうか。前述したように、エースはチームのために最大限の結果を残すための選手だ。すなわち、最大限の結果(できれば優勝)を狙うことができる選手ということになる。レースの勝負どころまで残る力があり、かつ勝負を決すると予想される場面、スプリントなり上り坂なりにおいて、ライバルである他チームのエースと戦える身体的能力があることが、エースの基本条件だ。

加えて勝負強さや責任感といった、精神的強さも重要となる。アシストの選手は自身の結果を捨ててまで、エースのために働く。だがいくらアシストが万全のお膳立てをしたとしても、エースが不発であれば結果は一切残らない。チームメイトを犠牲にしているという事実は、エースにとっては勇気にもプレッシャーにもなる。その上で結果を残し続けられる選手だけが、エースとして華やかな脚光を浴びることができるのだ。

場合によっては200人近くが出走する自転車ロードレースは、単純計算で勝利の確率は1%未満になる。基本的にどちらかが勝つ野球やサッカーに比べて、試合に出るほとんどの選手が「負ける」競技なのだ。

同じような身体的能力を持つ選手が2人いたとしても、実際に勝てる確率は全く異なってくる。いわゆる「決定力の差」という要素だ。いくら脚力があったとしても、勝ちパターンを持たない選手はエースにはなれない。勝利の女神を振り向かせる、「勝てる選手」がエースになるのだ。

エースを複数置く場合もある。モヴィスターは3人のエースのナイロ・キンタナ、アレハンドロ・バルベルデ、ミケル・ランダがほぼ同格として総合上位を目指すが、これは攻撃の厚みを増すための戦略だ。また、ステージ狙いのチームであれば、コースに応じてエースを使い分けて区間優勝を目指す。

平坦ステージ勝利を狙うスプリンターがエースの場合も、チームは別に個人総合上位を狙うエースを用意することが多い。クイック・ステップ フロアーズであればスプリンターのフェルナンド・ガビリアに対してボブ・ユンゲルス、カチューシャ・アルペシンならマルセル・キッテルに対してイルヌール・ザカリンといった風に、総合エースを立てる。彼らは総合優勝には恐らく届かないものの、総合トップ10や、その中でも可能な限り上位を目指して走る。

ステージ優勝を狙うチームが総合エースも置くのには理由がある。レース中、集団の後ろに付いて走る各チームのサポートカーは、個人総合順位が上位のチームから順に並ぶ決まりだからだ。スプリンターは山岳ステージでは大きく遅れるため、総合順位自体は下位になってしまう。だがチームカーの車列は22台が連なっているので、飲食物の補給やトラブルなどの対応において、当然その位置が前の方が有利になる。つまり総合エースは自ら成績を狙うエースであると同時に、チームにとってはステージ優勝を狙う戦いを有利に進めるための、重要なアシストでもあるのだ。

本来エースでなかった選手がエースになることもある。当初のエースが不調だったり、落車などのアクシデントでレースから去ったりした場合は、本来アシストだった選手が自ら結果を目指して走ることを許される場合がある。

アシスト選手といえども、世界最高峰のツール・ド・フランスに出場している以上は、決して弱い選手ではない。かつて2004年ツールで10日間マイヨ・ジョーヌをキープしてみせたトマ・ヴォクレールのように、トップシーンでは無名に近い選手が思いがけない活躍を演じたことで、一気に世界的なスター選手へと駆け上がるドラマだってあるのだ。



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米山 一輝

元ロード選手のフリーライター。 運命のいたずらからレースの世界にはまり込み、 15年くらいの選手生活で全日本TT5位2回という微妙な実績がある。 チーム広報も兼ねていた流れから、自転車関連のWeb媒体2つの立ち上げに関わり、今も自転車レース界隈で年を重ねている。

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