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「この山頂で黄色を着ていたものは、パリで黄色を着ている」と言われる山がある。しかし同時にこんな法則もある。「この山を制したものが、その年のツールの総合を制することはない」
それがアルプ・デュエズである。ツール・ド・フランスはこの山を過去30回上った(2013年大会の2回登坂含む)。うち第1のルールが適応されたのは23回で、2番目にいたっては実に26回もあてはまる。すなわちアルプとツールの覇者が同一人物だった事例は、史上たったの4回しかない。ついでに言うとうち2回はランス・アームストロングだったから……正確には史上2回と書くべきなのかもしれない。
なんだか奇妙な話である。だって同山の伝説が始まった1952年大会では、ファウスト・コッピが山頂まで6kmでアタックを仕掛け、見事な独走でステージとマイヨ・ジョーヌを勝ち取ったのだ。さらに約2週間後にはツール総合優勝をも果たしたというのに!
こんな矛盾をはらんだアルプは、ツールの数ある山岳の中でも、少々特別な地位を占める。たしかに「伝説峠」と呼ばれる山はいくつもある。おそらく歴史的に見れば、トゥルマレこそがナンバーワン。このピレネーの難峠は、ツールに初めて難関峠が登場した1910年大会から今日まで、かれこれ80回以上もプロトンを迎え入れてきた。双璧をなすのがガリビエだ。標高2642mというアルプスの巨大峠は、翌1911年から幾度となくツールの「最高標高地点」として選手たちの前に立ちはだかった。しかも直前のテレグラフ峠と合わせると、登坂距離は有に30kmを超える。
ただ残念ながらトゥルマレやガリビエは、山頂のスペースが猫の額ほどしかない。当然ながら簡単にステージフィニッシュを迎えることができない。いずれもトゥルマレは2010年に、ガリビエは2011年にそれぞれ1度ずつ勝者を輩出しただけ。この点に関しては、山頂に無数のリゾートマンションが立ち並ぶアルプ・デュエズは、圧倒的に有利だった。1952年、この山が、ツール史上初めての「山頂フィニッシュ地」に選ばれた。またツール史上初めて「スタートからフィニッシュまでテレビ生中継」の試みが行われたのも、1990年大会のサンジェルヴェ~アルプ・デュエズ区間だった。
登坂距離(13.8km)や平均勾配(7.9%)や、標高(1804m)など、アルプでは大した意味を持たない。決して過小評価すべきではないが、かといって恐ろしいデータではない。むしろ人々に語り継がれてきた数字とは、1995年にマルコ・パンターニが打ち立てた最速登坂タイム36分40秒であり、なによりその「21のつづら折り」である。
極めて均等に折り重ねられた21のヘアピンカーブの1つひとつには、上から順番に1→21の数字が記されたプレートが設置してある。さらに数字の下には、ツール・ド・フランスでアルプ・デュエズ山頂に真っ先にたどり着いた選手の名が、1人ずつ書き込まれている。……いや、実はツール登場21回目に全プレートが埋まってしまったから、22回目以降は2人ずつ。たとえば2015年大会でアルプを制したティボ・ピノーは、第14番プレートで、1982年大会の区間覇者ベアト・ブルーと同居している。
つまり今年2018年大会で第12ステージを勝つと、もれなく1983年区間勝者のオランダ人ピーター・ウィネンと一緒に第13番プレートに名前を刻む権利がついてくる。ちなみに1976年から1989年にかけて、オランダ選手たちがこの山を8回も勝ち取った。おかげでアルプは「オランダ人の山」と呼ばれるようになった。
今でも第7番カーブはオランダ人に占領されている。しかも彼らは私設DJブースやビールスタンドやらを持ち込んで、まるで野外フェス並の大騒ぎ。辺りにはバーベキューの匂いが充満する。同時にこのカーブでエンストし、大騒ぎする奴らにゆさゆさ揺さぶられた哀れなレース関係者車両の、クラッチの焼け付く匂いも……。サッカーワールドカップ出場を逃したかの国から、今年もオレンジ色のジャージを着込んだファンたちが、大量に乗り込んでくるのだろう。
件のカーブだけでなく、全長13.8kmの山道全体が、いわば巨大キャンピング場に変わる。なにしろ熱狂的なファンは、レースの1週間前から場所を取りを始めるのだ。前回ツールが通過した2015年大会では、山頂に約1000台、山道には約500台のキャンピングカーが確認された。なおレースの約2日前から一般車両の通行は禁じられるのだが、それにも関わらず、推定100万人が上から下まで埋め尽くした。
2018年7月19日、ツール・ド・フランスのプロトンは、史上31回目のアルプ・デュエズ登坂を行う。果たして今年もアルプの法則は発動するのか。クレイジーなファンたちの間を真っ先にすり抜け第13番プレートに名を刻み、この山頂でマイヨ・ジョーヌを着込み、パリで総合優勝を祝う掟破りのチャンピオンの出現が待たれる。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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