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サイクル ロードレース コラム 2018年7月1日

フランスの風土を五感で感じ、その魅力にふれる。「ツール・ド・フランスとともに生きる」という愉しみ方 / Tour de France 2018

ツール・ド・フランス by 山口 和幸
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第12ステージ ブールサンモリス~ラルプデュエズ 175.5KM : アルプスのスキーリゾート、レザルク

第12ステージ ブールサンモリス~ラルプデュエズ 175.5KM : アルプスのスキーリゾート、レザルク

4年に一度のFIFAワールドカップで世界中が盛り上がっているが、いよいよ世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスも7月7日に開幕する。ワールドカップとの開催期間重複を最小限にするため、ツール・ド・フランスが配慮して開幕を1週間先送りにした。いわば異例の大会日程だが、アリーナやスタジアムで行われるスポースツイベントとはまったく異なる魅力が変わることはない。

ツール・ド・フランスはよく欧州文化そのものだと言われる。町から町へと23日間にわたって移動し続ける旅はまさに、聖地巡礼の果てしなき行脚と似ている。とりわけ世界屈指の観光大国であるフランスで開催される自転車レースだけに、美しい景観と歴史あふれる街並みをつなぎあわせて突き進む。そんな国際映像から自転車レースの魅力を知った層も多いはずだ。

レースの主役である選手はひたすら過酷な日々を耐えるのみだが、大会主催者や報道陣、世界中からやってきたファンの多くはフランス各地の歴史や文化、ガストロノミーやワインなどを楽しみながら帯同する。勝った負けたも大切だが、フランスの風土を五感で感じ、その魅力にふれる。普通の観光旅行では味わえない、そんな旅ができるのもツール・ド・フランスという存在があるからだ。これが世に言う「Vive Le Tour=ビブルツール」、ツール・ド・フランスとともに生きているという決まり文句の真意だ。

ボクがツール・ド・フランスを追いかけ始めたころ、主催社が審判車両にVIP待遇で乗せてくれたことがある。スタート前は関係者だけが入場できる「ビラージュ(村)」という柵に囲われた特別なエリアで歓談し、スタートを待たずに車両に乗り込むとレースに先行してコースを走った。お昼どきになるとドライバーが無線で、「これから任務を離れてランチにするから」と各所に連絡。一気にスピードを上げてはるかに先行すると、丘の上のゴキゲンな木陰を見つけて審判車両を駐めたのだった。

勝負どころの山岳ステージでは熱心なファンが沿道にズラリ。

勝負どころの山岳ステージでは熱心なファンが沿道にズラリ。

そこではクルマのトランクに用意されていた立派なランチボックスを提供されるのだが、すかさずクーラーボックスから冷えたシャンパンが取り出され、シャンパングラスにそそがれた。上等な琥珀色の液体を飲み干すと、次は赤ワインのためのグラスが出てきた。こいつらは毎日こんなことをやっているのかと感心してしまった。

そのとき気づいたことは、「ああ、このレースは世界最高峰の競技であるとともに、社交や娯楽が同時進行で展開していく一大イベントなんだな」ということだった。「仕事はきちんとするが、人生の楽しむべきところは外せない。だってフランス人だからね」とでも言っているかのようだった。

そんなことを考えているうちに、「選手たちが近づいてきたぞ」とそそくさとグラスやランチボックスを回収し、任務に戻っていったのである。

そんな憂愁の思い出は心に刻まれているが、現在のフランスは日本と同様に飲酒運転は厳罰に処せられる。つまりハンドルを握る者がアルコールを口にすることはない。日々のランチで隣に座ったフランス警察がワインを飲んだくれているとしたら、彼は運転を免除された者だ。もっと言えばツール・ド・フランスのコース途中にもアルコール検問があり、違反をすればその場で資格はく奪である。

そうなのだ。7月7に開幕する2018年のツール・ド・フランスは第105回大会となる。ランス中西部のバンデ県とペイドラロワール地方で開幕。右回りでフランスを一周する。山岳区間は4年ぶりに前半がアルプス。中盤に中央山塊が待ち構え、後半がピレネーとなる。第16ステージ途中でスペインを15km走るが、ほぼフランス国内を走るのが特徴で、これは2006年以来のことだという。

2018年最後の峠となるピレネーのオービスク峠。

2018年最後の峠となるピレネーのオービスク峠。

23日間の内訳は平たん8、丘陵5、山岳6(うち頂上ゴールはラ・ロジエール、アルプ・デュエズ、サンラリースランの3つ)、チームタイムトライアル1、個人タイムトライアル1。休息2日。総距離3351km。賞金総額3億2000万円は世界最大の自転車レースにふさわしい数字だ。

ツール・ド・フランスを追い続けているボクは今年も、出場176選手とともにフランス全土を駆け巡り(クルマですけどね)、パリを目指す。23日間という全日程を取材することにこだわっているのは、苦楽の果てにパリにたどり着いた選手たちの気持ちを共有したいからだ。

最も賞賛されるのはパリでマイヨ・ジョーヌを獲得することであることは分かっている。でも、それがかなわなければ1区間の勝利でも構わない。出場選手にはそれぞれのドラマがあり、栄冠を勝ち取る者もいれば夢かなわずに途中でレースを去る者もいる。鍛え抜かれた肉体と、それに同居した揺れ動く心。105回目の戦いはどんな結末を見せてくれるのか、楽しみで仕方がない。



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ツール・ド・フランス2018 7月7日(土)~7月29日(日)
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山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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