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パトリック・アウダ(横浜ビー・コルセアーズ #1)
チェコ代表として2016年の五輪最終予選、2019年のワールドカップで日本と対戦したことがあるパトリック・アウダ。ポストプレーやドライブ、ジャンプショットでも得点できる左利きのパワーフォワードは、昨季から横浜の中心選手の一人として活躍している。NCAAのシートン・ホール大卒業後のプロ生活はヨーロッパで過ごしていたが、旅をして新たな文化を体感することが好きということもあり、以前からアジアでプレーすることに興味を持っていたという。一つの質問に対し、たくさん話してくれた全容をここで紹介する。(10月20日取材)
Q 今シーズンはここまで全試合14点以上、FG成功率が59.1%という高確率です。高いレベルでプレーできている理由はありますか?
「何か特別ということではありません。チーム内で快適に過ごせていますし、コーチのシステムといったことなどが、試合でいいプレーをできている助けになっています。ボールを持ったらアグレッシブに攻め、自分とチームメイトの得点機会をクリエイトすることを心がけています。いいプレシーズンを過ごすことができましたが、昨年はチームとして準備する時間がありませんでした。私が遅れて合流した時にはシーズンがすでに始まっており、どのようにプレーしているかということなどでの順応が必要でした。今年は数多くのことに取り組む時間がありましたし、チームをより理解することやコーチが求めるスタイルを把握するうえで助けになりました。今のスタイルを私は気に入っていますし、快適にプレーできているから、試合でいいプレーをしているのだと思います」
Q 今季の3勝3敗というスタートを切ったチームの現状をどう捉えていますか?
「いいスタートを切れたと思っています。まだまだやらなければならないことがたくさんありますけど、これまでの試合でどのチームを相手にしても戦えることを示しています。負けた試合でも最後まで諦めることはありませんでしたし、今のチームがどんな状況なのか、何をしなければいけないかを示してくれたと思います。私は今シーズンのこれからにワクワクしています」
Q あなたの選手としての強みはどんなところですか?
「バラエティに富んでいることでしょうか。ガードとピック&ロールをすることが好きですし、ポストプレーやアウトサイドからのドライブでチームメイトの得点機会をクリエイトすることもできます。チームが必要な状況であれば、フルコートでボールを運び、プレッシャーがかかったポイントガードの負荷を軽減できます。スクリーンでチームメイトをオープンにすることもできます。そういったことが一体となっていると思います。パワーフォワードのポジションでそのようなことができる選手であり、典型的なヨーロッパスタイルにあるようなスポットに立っているシューターではありません。ボールを持ってオフェンスをクリエイトできる今のスタイルが好きですし、より自由と責務があることをすごく楽しみながらプレーしいます。このチームでプレーするのが好きですし、そういったことが楽しいんです」
Q ポーランド、スペイン、フランスなどでプレーしてきましたが、Bリーグの印象は?
「ヨーロッパの国々におけるバスケットボールと比較しての大きな違いとしてあげられるのは、ヨーロッパのリーグはチーム内に数多くの外国籍選手がいることです。フランスやイタリアでは、大半がアメリカ人。私以外の4人がアメリカ人という状況でプレーすることも多かったですし、アグレッシブにシュートを打って得点を狙っていくポイントガードがいると、いいチームバスケットができなくなることが時々あります。
日本は外国籍選手の数が少なく、その多くがビッグマンであり、チームもそこで優位に立とうとしています。得点だけ必要というのではなく、チームメイトへオフェンスをクリエイトすることも含まれています。私がヨーロッパでプレーしていた時、走ってスクリーンをセットするだけで、まったくボールを触れないこともよくありました。というのは、ガード陣がシュートを打ちたがって、パスをしないからです。
日本は違います。オフェンスはビッグマンを経由しますし、得点するかオープンのシューターを見つけるかの選択もできるので、チームメイトへのチャンスを作り出せます。それが大きな違いであり、だからここでプレーすることをとても気に入っているのです。私にとってすごく楽しいのは、チームとしてゲームに関われること。スコアラーとしてだけではなく、チームメイトに得点機会をクリエイトすることです。いいパスが出せますし、オープンの選手を見つけることもできます。試合を通じてボールが来るかわからない状況でただ走っているよりも、このスタイルのほうが好きですね」
Q 来日する前に2度、2016年の五輪最終予選と2019年のワールドカップで日本代表と対戦しました。当時、日本のバスケットボールについて何か情報をや知識を持っていましたか?
「日本とは恐らく2015年にもチェコで親善試合をしたことがあります。私の故郷で行われたのでよく覚えています。ワールドカップでも対戦しましたけど、日本のリーグがどんなものかという明確な見解はありませんでした。2試合戦った時のイメージしかなく、バスケットボールがクイックで、小さなガードがたくさんいて、アウトサイドのいいシューターがいるという以外、リーグについての知識はなかったのです。
ヨーロッパの国は数多く行きましたし、大学はアメリカでした。私は常に旅をして、新しい文化を体感したいのです。ヨーロッパではほぼすべてのものを見てきたので、先に進むという意味でアジアでプレーしたいと思っていました。日本は自分が行くということでベストなリーグかもしれないと思いましたし、ベオグラードで日本と対戦した時期に自分のエージェントと話した際、彼が“ある選手が日本のチームからオファーされた”と言ってきました。でも、その選手は“家族を連れていくには遠すぎる”といった理由で行かなかったんです。
日本の市場について何も知りませんでしたが、私は行きたい、挑戦したいと思いました。日本でプレーするという考えはその時に生まれ、以来毎年エージェントに“私にオファーがあったらトライしてみよう”と言い続けていたんです。昨年までしばらくの間はそのオプションがなかったのですが、その機会が来たらすぐに“やってみよう!”ということになりました。
Q チェコ代表としてワールドカップ、東京オリンピックでプレーしました。ワールドカップでは6位という結果を出しましたが、チェコ代表として大舞台を経験したことは、あなたのキャリアにとってどんな意味がありますか?
「2014年に初めて代表でプレーする機会を得ましたが、選ばれるたびにすごく誇りに思っていました。国を代表してプレーすることがいつでもすごく特別だというのは、これを経験できる人自体が少ないからです。と同時に、クラブでプレーするのと代表でプレーするのでは、常に違った経験をします。代表では年を重ねるごとにいい人間が集まった素晴らしいグループが作られ、みんながいい友人となり、チームとしていいケミストリーも構築できました。ワールドカップで6位、オリンピック出場権獲得という結果を出せたと思っています。
我々(チェコ)はスーパースターがたくさんいるチームではありません。NBAでプレーするトマス・サトランスキー(ニューオーリンズ・ペリカンズ)、ユーロリーグでプレーするヤン・ベセリー(フェネルバフチェ:トルコ)がいますけど、常に代表で一緒というわけではありませんでした。海外でプレーする選手が私を含めて数人いましたが、半数以上はチェコの国内リーグでプレーしている選手です。決して個人のためだけではなく、いいケミストリーを構築し、お互いを信頼してプレーして、最後の結果が出るまでハードにプレーしてきたから、チェコは素晴らしいチームになったと思うのです。そういったことが我々をここまで引き上げてくれた理由。大きな大会を含めてどの瞬間も特別なものであり、個人的にも信じられない、人生の中ですごいと思える経験をさせてもらったことには感謝しかないです。
私は大きな大会に出たら常に何か新しいことを学ぼうとします。国際試合のレベルですから相手チームからも学べますし、そうった大会でプレーすることの積み重ねによって、将来のキャリアに役立つと思っているのです」
Q シートン・ホール大に渡ったきっかけと理由、4年間NCAAでプレーしてよかったことはなんですか?
「高校時代、スペインのカナリア諸島にあるアカデミーに行きました。1年間在籍しましたが、NCAAやカレッジ・バスケットボールがどんなものかをまったくわかっていませんでした。チェコを含め、ヨーロッパではカレッジ・バスケットボールの人気がありません。スペインにいた時にコーチとジェネラル・マネジャーから、“アメリカの大学でスカラシップをもらってプレーできる。これは君のキャリアにとっていいスタートになる”と言われたので、“はい、行きます”と答えたのです。NCAAについていろいろ話してくれましたし、他にもいくつかの大学からオファーがありました。コーチは元々アメリカのカレッジで指導していたので、チームの特性やプレースタイルを知っていたので、学校選びの助けになってくれました。アメリカの高校生は入学を決める前、大半が大学を公式に訪問して、キャンパスやバスケットボール関連施設を見学するものです。私はそういったことを一切しませんでした。コーチが“ここが君の行くべき学校だ”と言ってきたので、私は“OK”と返事し、書類にサインをしたのです。
シートン・ホール大での4年間は、これまでの人生において最高の時間を過ごし、最高の経験をした言えます。(チェコという)小さな国からアメリカ、最高の都市と言われるニューヨークに近い場所にやってきて、いい人生経験になっただけでなく、バスケットボール選手としても成長する助けになりました。大学では選手個々へのプレッシャー、ヨーロッパと比較すると個別練習やワークアウトがたくさんある。ヨーロッパでは練習の大半がチームとして行われる。個々のレベルアップや練習方法など、アメリカに行ったことは選手としてのレベルアップや卒業後のプロキャリアの準備という点で役に立ったと思います」
パトリック・アウダ(横浜ビー・コルセアーズ #1)
Q NCAAでプレーしたいという日本の中高生に対して、留学した経験のあるアウダ選手がアドバイスするならばどんなことになりますか?
「状況次第で変わってきます。私のエージェントからは時々、“チェコに高校を卒業してアメリカの大学に行きたい子がいるんだけど、あなたの経験を話してもらえないか?”と言われたりします。例えば、すでにプロチームに所属する機会を得ている子がいて、プロと練習して学べる準備ができていれば、それは素晴らしいことでしょう。でも、みんながこのようなチャンスを得るわけではありません。先に大学に行くのも、それは素晴らしいことです。チェコからアメリカの大学に行きたいという子がたくさんいることを知っていますが、彼らはシステムやリーグを好きになれなれませんでした。とても素速くて、フィジカルだったのが理由です。チェコに戻ってプロとしてプレーし始めたのですが、それもOKだと思います。人によっては変化への対応が難しいこともわかります。でも、私は常に”トライすることで好きになり、そこから素晴らしい経験をするかもしれない。嫌ならば戻ればいい。失うものは特にないし、そこでの経験を生かせる”とみんなに言っています。アメリカで過ごした大学4年間は、私の人生において最高と言える経験の一つでした。それは、数多くのことを違った視点や世界で見ることを私に示すものでした。言語(英語)を学ぶことと学位を取得することができましたから、私にとってはポジティブなことばかりだと思えます。人々には常に”チャンスがあるならばやってみよう”と言っています。
Q 横浜での生活で気に入っていることはなんですか?
「たくさんあります。横浜は素晴らしい都市だと思います。少し騒がしさのある中心部ではなく、落ち着いた郊外に住んでいます。15~20分ほど電車に乗れば横浜の中心地、45分で東京に行けます。天気は1年を通じていいですし、休日に行ったらおもしろそうな場所もたくさんありますので、すごくいいエリアだと思います。昨年もここでの生活をすごく楽しんでいましたし、出かけた時に日本の文化を経験する機会もありました。ここまでは素晴らしい日々を送っています」
Q 今季、ファンの方には横浜のどんなところを見てほしいと思っていますか?
「我々は今後も厳しいゲームが待ち構えています。でも、アグレッシブ、最後まで諦めずに戦うチームでありたい。いいプレーをしていても勝てないことが時々ありますし、100%の力を出し切ればたとえ負けたとしても受け入れられるものです。そうじゃない負けはダメです。このチームはみんながそれを理解しているし、ここまでいい感じで進んでいると思います。チームとして向上し続けなければいけませんし、すべての試合で我々がどのチームを相手にしても戦えることを示すところですね」
Q この24時間でちょっとだけ幸せだったこと、何かありますか?
「難しい質問ですね。昨日姉とビデオ通話で話をしました。チェコはすでに日本よりも寒いですけど、姪っ子と一緒に外を歩いているシーンを見せてもらいました。彼女たちの顔を見られたことでとてもいい気分になれましたし、故郷で普段通り生活しているといった小さなことがわかるとハッピーになれますね。アメリカにいた大学時代はコンピューターでスカイプを使っていたのと比較すると、故郷の家族と簡単に連絡が取り合える今日のテクノロジーには本当に感謝しています。7時間の時差があるという遠く離れたところにいても、進化したテクノロジーを使うことでいつでも家族の顔を見て話ができますからね」
文:青木 崇
【Bリーガーインタビュー】
【Bリーガーインタビュー】横浜ビー・コルセアーズ 1番/PF パトリック・アウダ(取材日:2021年10月20日)
青木 崇
NBA専門誌「HOOP」の編集者からフリーのバスケットボールライターとなる。NBAファイナル、NCAAファイナル4、世界選手権などビッグイベントの取材や執筆活動を行なっている。
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