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2023年ワールドシリーズは12年振り進出にして初制覇を狙うテキサス・レンジャース、そして22年振りにチーム2度目の制覇を狙うアリゾナ・ダイヤモンドバックス(以下Dバックス)の両チームが2試合を終え、これでシリーズ4年連続となる1勝1敗となりました。2012年に現レンジャース監督ブルース・ボウチーが率いたサンフランシスコ・ジャイアンツ以来となる11年振りのスウィープは今年も成らず、これは1977~88年の12年連続スウィープ無しに次ぐ長さとのこと。移動日を挟み現地10月30日からアリゾナ州フェニックスにあるチェイス・フィールドに舞台を移して3試合が行われます。さて今回のコラムは、両チームに関わる「音楽」の話題をご紹介しようと思います。
レンジャースの投手、アンドリュー・ヒーニーは10月10日のインタビューで「後半戦、チームが不振だった時期、試合前にアメリカのロックバンド、クリードの『Higher』をクラブハウスで流して、みんなで聴いて、この苦境を乗り越えることが出来たんだよ」とさりげなく告白します。するとコリー・シーガーが「するとある日突然、選手のみんなが歌い始めたのさ」と続き、2002年生まれの新人エヴァン・カーターも「ボクが生まれる前にリリースされた曲だけど(1999年リリース)、チームバスの中でみんなでこの曲を歌っているのさ」とすっかり浸透してることが明らかに。話題は一気に拡がり、ポストシーズンでは今季初となったホームゲーム、ディヴィジョナル・シリーズ第3戦のイニング間にグローブ・ライフ・パークでこの曲が流れると、ファンは申し合わせたかのように大合唱!すると、クリードのSNSアカウントから「Let’s go Rangers, let’s go!」と発信、10月18日のチャンピオンシップ・シリーズ第3戦にはクリードのメンバーがグローブ・ライフ・パークに観戦に訪れ大喝采を浴びました。
「オレたちを遙かなる高みまで連れて行ってくれないか?栄光に向かう道があるところまで」と歌われるこの曲、シーガーは「ボクたちにとっては絆を深めるものになったんだ。入ったり出たりする人がいる。どうやって溶け込める?どう団結する?チームによってやり方は違うと思うけど、ボクらはこの方法だった」と述べています。ボウチー監督もこの曲の経緯を知っていて「確かオースティン・ヘッジスが流し始めたんじゃないかな?」とのこと。今年の夏にトレード・デッドラインでレンジャースへやって来た控え捕手役のヘッジスは、チームに溶け込むための手段として、恐らくこの曲をクラブハウスで流し始めたのではないか、と考えられます。ワールドシリーズに入ってからも第1戦では試合前のレンジャース選手紹介時に、第2戦では1回表終了時に流れ、すっかりチームのアンセムとして定着している模様です。
実は去年のフィリーズにも似たような事がありました。フィリーズがホームゲームで勝利した際に流れ、ファンが大合唱することでお馴染みとなったカラム・スコット『Dancing On My Own』は、去年からフィリーズに入団したカイル・シュワーバーがチームに溶け込むべく、クラブハウスで流してもらう様、DJ役の控え捕手ギャレット・スタッブスに頼んでプレイリストに入れてもらい、いつの間にかクラブハウスで大合唱するようになり、それがファンにまで浸透、快進撃を続けワールドシリーズ制覇まであと一歩のところまで勝ち進むことが出来ました。レンジャースは更にその上、“遙かなる高み”まで辿り着くことが出来るのでしょうか……?
一方、Dバックスと音楽にまつわる話題といえば、セットアッパーのケヴィン・ギンケルをおいて他にいません。レギュラーシーズンではキャリアハイとなる60登板を記録し防御率2.48、今ポストシーズンでは9試合に登板し全て無失点、ワールドシリーズ第1戦では8回に登板し1安打1四球1暴投、これまでの安定感に比べやや精彩は欠いたものの見事に無失点に抑えました。このギンケル、2021年のシーズンから本拠地チェイス・フィールドで登板し三振を奪う毎に、何とギターを1本、地元フェニックスにある青少年向け音楽学校に寄付をするという社会貢献活動を展開しています。その音楽学校の名前は「Alice Cooper’s Rock Teen Center」。音楽ファン、とりわけ1970年代のロックファンならその名を知らない人はいないでしょう、2011年にアメリカ「ロックの殿堂」入りも果たしている、あのアリス・クーパーが設立した音楽学校なのです。
ギンケルはクラシック・ロックからポスト・グランジに至るまで、ロック全般が大好き。自分はギターが弾けないけれども、大好きなアリス・クーパーが設立した音楽学校に何か貢献出来ないか、との思いで、この活動を始めたとのこと。また、ギンケルはレギュラーシーズンの試合のチケットや球場までの交通手段も手配し、定期的に生徒達をチェイス・フィールドに招待しているそうです。ギンケルは「ロックのレジェンドたちと話をすると、みんな野球選手になりたかったって言うんだよね。(デトロイト出身の)アリスはタイガースのレフトを守りたかった、って言うんだよ」と、ロックンローラーとボールプレイヤーの親近感を語っています。また、クーパーも「ドラムを叩いていたDバックスのレジェンド、ランディ・ジョンソンを始め、野球選手で楽器をやりたがる人は凄く多いんだぜ」、と完全に相思相愛状態。2021年以降レギュラーシーズンでは合計60個、そして今年のポストシーズンでは4個、チェイス・フィールドで奪三振を記録したギンケル。第3戦から始まるホームゲームでは、何本のギターを寄付することが出来るでしょうか……?
文・オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)
オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)
1995年結成、"LIVE CHAMP"の異名を持つロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマー兼マネージャー。
MLBコメンテーターとしても精力的に活動し、J SPORTS「MLBミュージック」メインMC、そして2023年シーズンからMLB中継の解説を担当予定。2022年4月には初の著書『ベースボール・イズ・ミュージック~音楽からはじまるメジャーリーグ入門』(左右社)を出版。MLBに関するラジオ出演や執筆活動も多数。2021年にはテレビ東京系ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で俳優としてもデビュー。
SCOOBIE DO http://www.scoobie-do.com/
Twitter: @moby_scoobie_do
Instagram: @moby_scoobiedo
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