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野球 コラム 2022年5月30日

「よう、ジャッキー」ヤンキースのドナルドソンの発言が差別的な理由

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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ティム・アンダーソン

ティム・アンダーソン

MLB機構は、差別的な発言のあったヤンキースのジョシュ・ドナルドソンに1試合の出場停止と罰金(金額は明らかにされていない)を宣告した。本人は、その発言に対しては謝罪しつつも処分は不服として提訴したが(その後故障者リスト入りした)、ファンやメディアの反応は彼に対し極めて厳しい。

ドナルドソンは、現地21日、本拠地ヤンキー・スタジアムでのホワイトソックス戦で、同軍の黒人遊撃手ティム・アンダーソンに対し、「よう、ジャッキー」と複数回呼びかけたという。その後ドナルドソンは、5回裏の打席でホワイトソックスの捕手ヤスマミ・グランダルとこのことで口論になり、両軍ベンチから選手が飛び出し揉み合う事態となった。

ここでいう「ジャッキー」とは、もちろんMLBの人種の壁を破り、1947年にドジャースでデビューしたジャッキー・ロビンソンのことだ。彼の背番号42はメジャー全球団で欠番となっている。アンダーソンをそんな偉大な人物になぞらえて呼ぶことがどうして差別的なのか、どうもピンと来ないという日本のファンは多いかもしれない。

ドナルドソンによると、アンダーソンを「ジャッキー」と呼んだのは、2019年にアンダーソンがメディアのインタビューで「おれは現代のジャッキー・ロビンソンだ」と発言したことを踏まえてのことらしい。実際、アンダーソンは、球界の旧弊な慣習に対し率直に反対意見を発し、経済的に恵まれない層へのチャリティにも熱心に取り組んでいる。拡大解釈するなら、MLBのみならずアメリカ社会全体の差別と戦ったジャッキーの現代版と言えなくもない。

それでも、本件が問題になったのは「ジャッキー」を黒人の象徴としての表現と捉えることもできるからだ。

アンダーソンは、首位打者獲得(2019年)、シルバースラッガー受賞(2020年)、球宴選出(2021年)を誇るメジャーを代表するプレーヤーだが、そうであるか否かを問わず、ある人物を形容する際にまず「人種」から入るのは、国際社会では極めて不適切とされている。人は人種や民族、宗教、国籍よりもその人物の能力や実績、人柄で認識、評価されるべきなのだ。また、その対象の人物がアメリカで今も根強く残る人種差別の対象となっているアフリカ系であるならなおさらだ。これは、白人の強打者に対し「よう、ベーブ(ルース)」と声を掛けることとは根本的に異なる。

あの偉大なイチローが、ヤンキースに在籍していた時のことだ。ストライクゾーンから大きく外れた投球も安打にしてしまう彼の卓越したバットコントロールを、現地のコメンテーターが「お箸打法」と称し、大炎上したことがある。

そのコメンテーター氏は、アメリカ人からするとある種芸術的とも思えるアジア人の箸使いに喩えたのだが、それは「アジアの食文化をイジる行為」であり、アメリカ社会においてマイノリティであるアジア人を見下しているとも解釈できる発言だった。

この状況に対し、「行き過ぎたポリコレ(特定のグループに対し、差別的な意味を持たぬよう誤解を招かぬよう、中立な表現をすること)」と賛同できぬ声もあると思う。しかし、これが他民族国家アメリカでの現在のコンセンサスだし、ぼく自身はこれが良くない傾向だとは思っていない。

イチローのバットコントロールはあくまで、人種や民族性に触れることなく褒め称えるべきだったし、アンダーソンもその実力や実績で形容されるべきだった。

文:豊浦彰太郎

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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