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野球 コラム 2021年12月6日

MLBロックアウト、予断は許さぬが最悪の事態には至らない、と考えられる理由

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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ロブ・マンフレッド・コミッショナー

ロブ・マンフレッド・コミッショナー

現地時間12月1日深夜、MLBでは2016年に更新された労使協定が失効し、球団経営者によるロックアウトが始まった。3月31日に設定されている来季開幕を懸念する声もあるが、実際のところどうか、考察してみたい。

この協定は、経営者、選手双方の活動の全ての大元になる大変重要なものだ。今回の更新に関しては、年俸総額に対するペナルティや年俸調停制度の在り方などの経営や年俸に直結する問題から、プレーオフ出場枠の拡大やゲーム進行ルールの改定まで多岐にわたる。

ロックアウトとは、いわば経営者によるストライキだ。球場やトレーニング施設は球団により閉鎖され、選手は立ち入ることができない。その間、契約交渉も行われない。

ロックアウト自体は1990年以来で、労使の衝突により活動停止に陥るのは、1994〜95年の球史に残る汚点であるストライキ以来だ。この「億万長者同士のいがみ合い」は、シーズンの残りと、2度の大戦時も、開催地(サンフランシスコ湾岸地区)が大地震の被害に襲われた1989年も行われたワールドシリーズを含むポストシーズン全てがキャンセルされるという、最悪の事態に至った(95年の開幕も遅れた)。

今回の活動停止は約四半世紀ぶりだが、1970年代以降のMLBの歴史はフィールド上の競技としての戦いだけでなく、フィールド外での労使の衝突、闘争の歴史でもあり、これまでに、ストライキが5度、ロックアウトが3度あった。

特に1966年から82年まで選手組合の専務理事を務めたマービン・ミラーの時代においては、彼の強烈なリーダーシップのもと、それまで経営側に良いようにあしらわれていた選手組合は、全米最強の労働組合と呼ばれるまでに変貌を遂げた。そして、その闘いの歴史の中では、小競り合い的な短期の活動停止だけではなく、シーズンが約2ケ月にわたり中断した1981年のストライキのような出来事もあった。

2020年もスプリングトレーニング期間中に、新型コロナウィルスの感染拡大によるトランプ大統領(当時)による非常事態宣言があり、開幕が7月下旬まで延期された。ただし、ここまで開幕が遅れたのは、パンデミックで試合ができない、ということよりも無観客開催を強いられる中で、サラリーの支払いを巡って労使が激しく対立したからだ。

今回も、そんなファン不在の対立が続き、来季開幕に影響が及ぶのか?そんな声は少なくない。

もちろん楽観はできないのだけれど、ぼくはそこまで深刻な事態には陥らないだろうと見ている。

それは、前回のストライキの教訓が今も生きているはずだからだ。結局、試合をしないことには選手はサラリーを得られないし、経営者にもチケット収入も球場内での飲食やグッズの売り上げも、テレビの放送権料も入ってこない。やっぱり、試合をしてナンボである、と痛いほど感じさせられたのだ。1試合流れるごとに実入りは減る。なんとしても、開幕遅延は回避したい、そんな力学が働くはずだ。

昨年は、ファンがいくら「はよやれ」と叫んでも、中々開幕しなかったではないか、という指摘もあるだろう。それは、昨季は基本的に無観客開催だったからだ(最終的には、ポストシーズンの一部のみ有観客で行われた)。

無観客では、放映権料しか入って来ない。経営者はやればやるほど赤字になる。むしろ、シーズン全体を流し、選手へのサラリー支払いを回避した方が得である、という考えすらあった。

しかし、今回はそうではない。オミクロン株への脅威は払拭されてはいないが、2021年も夏場以降は基本的に制限なしで観客を入れた。来季も、開幕から本来の開催形態で、球場内での観客からの売り上げ、テレビ放映権料がフルパッケージで期待できるのだ。

また、70〜80年代、選手たちには闘う大義名分があった。それがFA権であり、年俸調停制度であり、充実した年金だった。それ以前は、生涯自由意志では球団を選択でない契約に縛られ、結果的に年俸も抑えられていた彼らには、それらは自分たちのために、後の世代のために、犠牲を払ってでも獲得し守り抜くべきものだった。

しかし、今は違う。選手はとんでもない大金持ちになったし、経営者たちも当時とは比較にならぬほど拡大したビジネス規模で潤いまくっている。今回の労使協定更新で争点になっている事案は、もちろん双方にとても大切なことなのだけれど、労使とも試合を流し、自らの利益やサラリーを放棄してまでも勝ち取らねばならないほどのものとも思えない。労使ともこれ以上お金持ちになろうとするのは、身長208cmで「ビッグユニット(巨大物体)」と呼ばれたランディ・ジョンソン(サイ・ヤング5度受賞で2015年殿堂入り)が、もっと大きくなろうとするようなものだ。

もっとも、双方の交渉のトップであるMLB機構のロブ・マンフレッド・コミッショナー、選手組合のトニー・クラーク専務理事とも、メンツがある。コミッショナーは経営者たちの支持を失いたくないし、クラークもこれまで「弱腰」と揶揄され続けていた。ここで、最初から歩み寄る姿勢を見せることはできない。しかし、両者とも保身のために、安易な妥協以上に避けねばならないのは、交渉をまとめ上げることができず公式戦が部分的にせよ、流れてしまうことだ。

個人的には、ロックアウトが開幕予定時期まで続くとは思えないが、まずは2月中旬のスプリングトレーニング開始時期がひとつの目安だろう。キャンプは選手にとっての準備期間である以上に、大きなビジネスだ。フロリダ、アリゾナ両州に全米から観光客が訪れる。メジャーのキャンプは最初の1週間以外は連日、試合、試合、試合だ。試合を行えば、球団も選手も(そして地元経済も)潤う。2月中旬は、両者の歩み寄りが可視化される候補時期だろう。

文:豊浦彰太郎

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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