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野球 コラム 2021年3月19日

「日本人MLB投手成功の法則」を覆せるかも?菊池雄星への期待

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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菊池雄星

今季のMLBで際立った活躍が期待される日本人投手というと、だれもが昨季のナ・リーグ最多勝利投手のダルビッシュ有(パドレス)、すでに今季の開幕投手に指名された前田健太(ツインズ)を思い浮かべるだろう。

しかし、個人的に期待しているのはマリナーズの菊池雄星だ。メジャーでの過去2年間の成績は、6勝11敗 防御率5.46(19年)、2勝4敗同5.17(20年)と、最低でも4年総額5600万ドルが保証され、最大では7年総額1億900万ドルのサラリー獲得が可能(詳細は後述)な契約内容見合いとは言い難い。それでも彼に期待する(できる)理由を述べたい。

過去の事例では、NPBである程度実績を残した投手がメジャーに挑み彼の地でも成功する場合は、概ね1年目からしっかり期待に応えている。野茂英雄、佐々木主浩、斎藤隆、黒田博樹、ダルビッシュ有ら、岩隈久志、田中将大らは、みな初年度からそれなりのパフォーマンスを見せた。長谷川滋利や上原浩治は例外だが、彼らの場合当初は先発で、その後リリーフに転じたことが覚醒の要因の一つであったと言えるだろう。

逆にいえば初年度に結果が出なければ、井川慶、五十嵐亮太、牧田和久など、その後もジリ貧のケースが目に付く。また、高津臣吾、小林雅英、川上憲伸など初年度はそこそこ活躍しながら、2年目から成績を落とすケースも少なくない。今季オリックスに復帰した平野佳寿もこの範疇に入るだろう。投手にとっては手の内を知られていないことがアドバンテージで、かつそれで牛耳れる期間は長くないということか。

さて、それらの傾向も踏まえた上で今季の菊池への期待を説明したい。

単純に勝敗や防御率のみで彼の過去2年間を語ろうとすると、失望しかない。しかし、詳細は後述するが、実は2年目の昨季は、セイバーメトリクス的プロセス指標は確実に改善されており、それらの数値はメジャーのローテーション投手として恥ずかしくないものだった。

では、なぜそれが可能だったのだろうか。多くの理由があると思うが、もっとも大事な要因のひとつが科学的アプローチと最先端テクノロジーの活用だ。これらは、ここ数年で目覚ましく発展、浸透した。

シアトル郊外に「ドライブライン・ベースボール」という運動力学デベロップメントの総本山とも言える私設トレーニングセンターがあり、そこでは最先端電子デバイスを活用した解析と対策が行われている。当初はごく一部のヲタク系?選手のみが注目するところだったが、近年はその効果が評価され、門を叩く選手が絶えない。ここでの研究、トレーニングの成果が目覚ましかった選手の代表例としては、昨季ダルビッシュを抑えサイ・ヤング賞を獲得し、オフにFAとしてドジャースと3年総額1億200万ドルという超大型契約を結んだトレバー・バウアーが挙げられる。

そして、菊池も散々だった初年度はオフにはここでトレーニングを積み、フォームを見直し、配給パターンを研究したという。その効果は明らかだった。前述の通り昨季の防御率は19年と大差ないが、FIP(運・不運に左右されがちな要素を配した擬似防御率)では3.30と素晴らしい数値を残したのだ。これが偶然ではない証拠として、昨季の菊池は、まずフォーシームファストボールの平均球速が92.5マイルから95マイルへ劇的に向上。9イニングス平均の奪三振も凡庸な6.5から十分合格点の9.0へ、同被本塁打も悲劇的な2.0から0.5という卓越した数値へ目覚ましく改善されている。

この変身には配球の変化も寄与している。初年度はフォーシームファストボール&ブレーキングボール(カーブやスライダー)のコンビネーションが中心だったが、2年目はカッターも多用した。打球のグラウンドボール(ゴロ)率も2年目は高くなった(被弾が減ったことと相関性、因果関係がある)のもこのためかもしれない。

要するに昨季のプロセス指標の改善は偶然ではなく、科学的分析とそれに基づいたトレーニングの賜物で、「ひたすら体をいじめ抜いた」というような精神論的鍛錬とは全く異なるということだ。これにより、過去の「日本人MLB投手成功の法則」に逆らうことが可能になったと言える。

今季はビジネス的にも菊池にとって、とても大切なシーズンだ。冒頭記触れた菊池とマリナーズの契約は、最初の3年間は合計4300万ドルだが、2021年のオフに球団は翌年以降の4年6000万ドルでの延長を選択できる。球団がこの権利を行使しなかった場合、菊地が得られるのは1年1300万ドルの契約の選択権のみだ。今季の評価はとても、大切なのだ。

文:豊浦彰太郎

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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