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MLBクリーブランド球団が、1915年から使用しているそのニックネーム「インディアンス」を捨て去るという。これを「時代の流れ、仕方ない」と取るか「遅かった、なぜ今までできなかったのか」と捉えるべきか。
12月14日、ポール・ドーラン球団オーナーが発表した。「この名称はもう受け入れられるものではない」。
ニックネームの変更はもちろん前例がある。ニューヨーク・ヤンキースは1912年まではハイランダーズ(さらにその前は、ボルティモアに本拠地を置きオリオールズと名乗っていた)だったし、ヒューストン・アストロズは1962年に誕生した当初はコルト45s(コルトフォーティファイブス)だった。タンパベイ・レイズは1998年の創立以降2007年までデビルレイズだったことは比較的記憶に新しい。
クリーブランドの新ニックネームとしては、ファンの間からは以前の名称である「ナップス」(同球団のスーパースターであるナポレオン・ラジョイに因んでいた)や、19世紀にクリーブランドに存在した「スパイダーズ」(1899年に20勝134敗、勝率.130という凄まじい記録を残して解散している)を推す声も挙がっているが、球団側は「性急な判断は避けたい」とのことで、2021年シーズンは現状のまま戦うようだ。確かにニックネーム変更は、球場その他施設のサイネージュやユニフォームだけなく、販売グッズやソフトウエアに至るまでに大規模な変更作業を伴う。
もともとこの球団名には議論があり、一般的な白人層の先住民族への固定観念を誇張して描いたペットマークの「ワフー酋長」も昨年から使用されていない。
もちろん、この段階での変更発表の背景にはBlack Lives Matter(黒人の命を軽視するな)運動がある。今年5月のミネソタ州での白人警察官による黒人のジョージ・フロイド氏殺害をきっかけに、全米に蓄積する黒人差別への反感が一気に爆発したのだ。それにより、黒人だけでなく先住民族を含むマイノリティへの差別と彼らの人権が、一層大きな社会問題となった。
7月には、NFLのワシントン・レッドスキンズが球団名を変更することを発表。MLBクリーブランド球団とは異なり、新しいニックネームが正式に決まるまで「ワシントン・フットボールチーム」として戦っている。ちなみにレッドスキン(赤い肌)とは白人から見た先住民族の生物学的特徴だ。それこそ1953年のディズニーアニメ映画「ピーターパン」も、先住民族を赤い肌で羽飾りをまとい独特の踊りをする民族としてステレオタイプに描いている(その後、ディズニーはこれを不適切として謝罪している)。
インディアンスというニックネームは、前述のスパイダーズに在籍した先住民族選手に由来すると言われているが、前提として先住民族を勇猛果敢の象徴として捉える意識があり、ある意味戦う集団である野球チームにマッチするとして採用された側面は否定できないだろう。
しかし、先住民族をそう解釈すること自体が偏見であり、勇猛果敢の背後に「野蛮」のニュアンスも見て取れる。
前回の東京五輪の前年に生まれたぼくの場合、少年時代のアメリカ映画の代表的なカテゴリーのひとつが西部劇だった。しかし、それらはとうに映画ビジネスの表舞台からは消え去った。その主要な理由のひとつが、先住民族を派手な羽飾りと振り回す斧、「アワワワ」という意味不明な鬨の声に象徴される好戦的な悪役として描き出していたことだ。
そう考えると、西部劇がこの40〜50年前に一気に衰退したというのに、2020年までインディアンスという名称がナショナルパスタイム(国民的娯楽)であるMLBで平然と使用されていたことはある種の驚きでもある。
ESPNのジェフ・パッサン記者の記事によると、1970年代には全米の大学の運動部には少なくとも15の「インディアンス」が存在したようだ。アメリカでは日本とは異なり、大学の運動部は野球部であれフットボール部であれ同じニックネームを有する。USC(南カリフォルニア大学)はトロージャンズで、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)はブルーインズといった按配だ。
そして、スタンフォード大学やダートマス大学などの超名門校も運動部のニックネームとしてはインディアンスを採用していた。しかし、彼らは半世紀近くも前にそれを捨て去っている。アカデミックであるべき大学が、そもそも人種的偏見に満ちたニックネームを採用していること自体が彼らの理念と相反するからだ。
それらの事実を踏まえると、今回のMLBインディアンスの決断はむしろ遅すぎたというべきだろう。
人はだれしも、親しんだものが変わっていくことに抵抗を示すものだ。おそらく、クリーブランドの多くのファンがこの決断に大反対だろう。しかし、これで同球団が消滅するわけでも、その歴史が否定されるわけでもない。「火の玉投手」ボブ・フェラー(1962年殿堂入り)を輩出したことも、1990年代にジム・トーミやマニー・ラミレスらを擁し黄金時代を迎え、455試合連続でチケット完売となったことも語り継がれていくのだ。
今回のインディアンスの決断を踏まえた上で、同じく先住民族を念頭に置いたニックネームのアトランタ・ブレーブスは「名称変更はしない」とコメントしている。しかし、同球団への応援で定番の「トマホークチョップ」(ブレーブスのチャンスで、場内に流れる「インディアン」の襲来を思わせる音楽に乗って、観客が斧を振りかざすような連続アクションを取ること)は、来季予定通り観客を入れての開催が可能になるなら、その正当性が議論の対象になるだろうし、そうあるべきだ。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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