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野球 コラム 2020年6月17日

「朝三暮四」のMLBオーナー達は、最初から「無観客では開催しない」と主張すべきだった

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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今年はMLBを見ることは叶わないかもしれない。支払われる年俸に関する労使対立のためだ。新型コロナウィルスの感染拡大は間接的な要因でしかない。MLB機構は最初からこれを狙っていたのではないか?という思いすら湧き上がって来る。

6月15日、MLB機構のロブ・マンフレッド・コミッショナーは、今季は開催されない可能性を示唆した。2日前のトニー・クラーク選手会専務理事による事実上の交渉打ち切り宣言を受けてのことだ。5月下旬から、ともに提案→却下と逆提案、を繰り返してきたが、結局歩み寄ることはできなかったようだ。

しかし、両者の提案内容の推移を整理すると、選手会側はそれなりに譲歩しているが、オーナー側のそれはいわば朝三暮四で本質的には何も変わらないことがよくわかる。

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交渉の対象項目は多岐に亘るのだが、最大の争点は本来の年俸の何%を選手が受け取るかということだ。これが、感染症の蔓延という不可抗力により本来の各球団162試合が開催できないだけなら、選手の年俸は労使協定での規定通り、開催試合数の割合に応じ支払われるだけで大きな問題にはならなかっただろう。

しかし、今回に関しては、開幕時点はもちろんその後も無観客開催が続くことが大きなポイントとなる。試合を開催すればテレビの放映権料は得られるにせよ、無観客ならチケット収入はもちろん、駐車場料金や場内での飲食&物品売上がすべてパーだ。したがって、是非は別にして、経営側は年俸を開催試合数に応じた歩合額からさらに減額することを目指すに至ったのだ。

MLB機構と選手会の提案推移

* ( )内は、本来の162試合に対する比率
** (第二波の影響で)プレーオフが開催されなかった場合 / 開催さされた場合



機構側が提案するプランでは、開催試合数やそれに応じた年俸額に対する支払い率は目まぐるしく変化しているが、最終的に支払われる年俸総額の本来のそれに対する比率は30%前後で変化ないことが分かる。故事成語の「朝三暮四」ではないが、目先を変えているだけで基本的には終始譲歩は見せていないのだ。

それに対し選手会のそれは、当初70%、その後50%と明らかに変化している。歩み寄ろうとしているのだ。

これは、長期にわたりこの事業に携わる経営者と、1年1年が勝負で、今季が流れると競技者生命に関わる者も少なくない選手側との立場の違いがあるので、「強欲な経営者と虐げられる選手」という単純な善悪構造を当てはめるのは危険だ。しかし、譲歩しなければ交渉は決裂し今季は開催されない、という最悪の展開に陥る恐れがあることは、オーナーたちもわかっているはずだ。

今回の労使対立に大義など双方にないが、少なくとも表面上は「少しでも多く試合をしたい選手となるべくやりたくない、あわよくばシーズンを流してしまいたいオーナー」という図式になってしまったことは事実だ。どちらかと言えば、オーナー側が悪役になっていると言えよう。

思うに、マンフレッド・コミッショナーや各球団のオーナーは、このような姑息な交渉手段を用いずに、最初から「無観客では開催しない」と宣言すべきだったと思う。「無観客では儲からん」というのが本音なのだが、ベースボールの興行としての本質を踏まえるなら、「観衆に見守られてこそプロスポーツ」という大義名分もなくはなかった。その哲学に立脚するなら「選手や観客の安全を完全には担保できないので、今季は開催を見送る」という主張もそれなりに説得力を持てたと思う。事実、労使対立ばかりに注目が集まるが、感染拡大の懸念が払拭されたわけではないのだ。

それでもそうしなかったのは、自らの利害でシーズンをキャンセルするのではなく「努力はしたが選手会が聞き入れなかった」という形にしたかったからかもしれないし、「無観客でもやれ」と放映権料を握るテレビ局からのプレッシャーがあったのかもしれないし、球団ごとに思惑が異なり一枚岩でなかったから、かもしれない。

文:豊浦彰太郎

代替画像

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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