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MLBの若手有望株のための教育リーグ、アリゾナ秋季リーグで起きた、ロボット審判による判定が話題を呼んでいるようだ。
ロボット審判と言っても、AIが判定を下す訳ではない。本塁後方のスタンドに設置された電子デバイスがストライクゾーンを通過したかどうかを判定し、主審はiphoneを通じてその情報を受け取り、それを参照してジャッジを下すもので、電子判定とは異なるコールをする権利も有している。また、これは一般的には「ロボット審判」と扇情的に呼ばれることが多い(ここでもそれに倣う)が、正しくはAutomated Ball – Strike System という名称だ。
問題のコールは、現地時間15日ソルトリバー・フィールズでサンフランシスコ・ジャイアンツ傘下のマイナーでプレーするジェイコブ・ヘイワード(彼はシカゴ・カブスのジェイソン・ヘイワードの弟でもある)に投げ込まれた膝下に大きく落ちるカーブに対してのものだった。ゾーンからは外れたように見えたが、主審の判定はストライク。この様子は、MLB Pipelineの公式インスタグラムでも公開されている。納得のいかないヘイワードは抗議したものの、判定が覆らないどころか彼は退場処分となった。
そもそもこのロボット審判は、一塁盗塁や内野手の極端なシフト禁止、投手交代時以外の選手や監督・コーチのマウンドビジット禁止などとともに、独立リーグのアトランティック・リーグで、MLBとの提携により今季から試行されていた。その後アリゾナ秋季リーグでも実施され、来春のスプリングトレーニング(キャンプでのオープン戦)での試行も検討されているという。
個人的には、今回の「誤審」も驚くには値しないと思う。今後、データを蓄積していくことで解決できることだからだ。
写真:スタンド最上部に取り付けられたロボ審判デバイス
ぼくは、この夏アトランティック・リーグを実際に取材した。その際、あるアンパイア(彼はロボット審判には極めて否定的だった)は、ストライクゾーンは平面ではなく立体的であることを指摘し、ボールゾーンからストライクゾーンをかすめていく投球、またはその逆のケースを例に挙げ、「それらを正確に判定する能力は人間の方が上だ」と主張していた。
しかし、一方では選手や監督・コーチはおしなべてこの制度に肯定的で、「判定は正確であることよりも安定していることのほうが遥かに大切」ということをその理由に挙げていた。人による判定では、「初回と中盤、最終回でゾーンが変わることはしょっちゅう」だそうだ。
また、ある投手は「ロボット審判でも球場ごとにゾーンは違う」と語っていた。ぼくが取材した範囲では、どの球場でもロボット審判デバイスは本塁後方のスタンド最上部に取り付けられていたが、そもそもスタンド最上部の位置が球場により異なるのでこれはある意味では当然だ。しかし、その投手は「それでもロボット審判の方が良い」としていた。やはり安定性が第一というのだ。
ロボット審判はベースボールの100数十年にわたる伝統を覆すものだ。しかし、いまや微妙な判定については、瞬時にリプレイ画像が球場内のビデオボードや各家庭へのテレビ中継で繰り返し流される時代だ。それでもなお「誤審もゲームの一部」と言い続けるのは無理があるように思える。実際、「審判のコールが最終にして絶対」という伝統も、2008年のホームラン判定でのビデオリプレイ参照開始や、2014年のチャレンジシステムの導入により終焉を迎えた。近い将来MLBでロボット審判が主流になっても(その可能性は極めて高いと思う)、判定の精度が向上し、その結果無駄な抗議が減るだけだ。明確に失うものは、ノスタルジーだけではないか。
写真・文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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