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MLB2019年ペナントレースが米本土でも開幕した。この機を捉え、最も遅い「2018年ストーブリーグの振り返り」をお届けしたい。
日本中がイチローの最後の雄姿に沸き返った東京開幕戦シリーズの最中に、アメリカから超大物の契約延長ニュースが飛び込んできた。球界ナンバーワンプレーヤーのマイク・トラウトとエンジェルスの12年総額12年4億3000万ドルの契約で、FA権取得まであと2シーズン残しての締結だった。そして、昨季のサイ・ヤング賞投手で、2020年オフにFAとなる予定だったジェイコブ・デグロムも開幕寸前の26日にメッツと5年1億3750万ドルで契約延長を果たした。
これらの大型契約は所属球団との契約延長だったが、このオフはFA市場の停滞が問題視され続けた。積極的な補強に動かない(ように見えた)球団側に選手会や代理人は批判的で、一時は「今後ストライキも辞さず」の動きすら見せた。
しかし、スプリングトレーニングが始まると、マニー・マチャドがパドレスと10年3億ドルで、3月に入ると最大の目玉とされたブライス・ハーパーがフィリーズと13年3億3000万ドルで契約した。また、FA ではないがその数日前には今季終了後にFAとなる予定だったノーラン・アレナードが、ロッキーズと8年2億6000万ドルでの契約延長に合意している。
これだけ見ると、必ずしも経営側がシブチン路線に専念したオフだったとも言い切れない。
「燃え上がらないストーブリーグ」は2017年オフから指摘されていた。それは、16年オフに発効した新労使協定でぜいたく税対象球団へのペナルティが強化されたため、ヤンキースをはじめとする「常連組」が一旦リセットするために散財を自制しているからとか、2018年オフには前述のハーパーやマチャドなどの超有力FA が多数発生するため、各球団はそれまで無駄使いしないよう蓄財に勤しんでいるのだ、とも報じられていた。
しかし、我慢に我慢を重ねてぜいたく税をリセットし終えても、ヤンキースは一向に散財に走ろうとしないし、少なくとも表面的にはハーパーやマチャドの契約も纏まる気配を見せなかった。
一方で球団側の総収入は依然としてうなぎ登りで、2018年には16年連続の過去最高益となる103億ドルに達したことが報道されたため、一層「オーナー達は利益を溜め込み、それを戦力強化に使おうとしない」という批判が強まった。
しかし、ここで見落としてはいけないポイントがある。
まずは、「契約がまとまらない」ということは、基本的にその要因は労使双方にある可能性があるということだ。オーナー側が好条件の提示を躊躇していたのかもしれないが、選手と代理人が「FA 相場いつまでも上がり続けるべき」との幻想から、結果的に非現実的な条件を求め続けた結果かもしれない。
また、仮にMLBがNFL的なサラリーキャップ制度(総収入における年俸総額の上限と下限を設定)を採用しているなら、収入増に応じて年俸総額も上昇してしかるべきとの主張も意味をなす。しかし、現在のMLBはこれをを導入していない。
それどころか、選手会はかつてMLB機構のサラリーキャップ導入の提案を却下し、その結果双方が譲らず史上最悪の選手会ストライキ(1994年8月〜95年4月)まで誘発している。もちろん、次回の労使協定更新時においては、ストーブリーグ活性化に向けた各種の議論がなされるべきだが、2021年暮れまで有効の現行労使協定下では、あくまでルール上の交渉、競争の結果が停滞しているように見えるFA 市場だった、と解釈すべきだろう。そして、それに輪を掛けたのが、編成における各種のデータ分析の発達と浸透で、以前のように「資金はある、あの大物を狙え!」というようなエモーショナルな補強は廃れ、より費用対効果がシビアに考慮されるようになったのだ。
そもそも「増収分は選手に還元されなければいけないのか?」という根本議論もある。良し悪しは別にして、資本主義社会の経済活動は収益の大部分を経営者、投資家がごっそり持って行くことで成り立っている。日本でも、最も利益をあげている会社の給料が必ずしも最も高い訳ではない事実がそのことを物語っている。
もちろん、選手会が主張するように、タンキングと呼ばれる徹底的な解体による再編成の是非には議論の余地がある。カブスやアストロズがこの手法により数年間の低迷を経ながらも世界一の栄冠を手にしたし、ブレーブスやフィリーズも同様なステップを経てコンテンダーに返り咲いたため、フォロワーが続きそうな気配だ。しかし、ざっと見渡してもオリオールズ、タイガース、ロイヤルズ、レンジャーズ、マーリンズ、ダイヤモンドバックスなど、30球団中2割がハナっから今季のポストシーズン進出が眼中にない状況は、野球界全体のため良いこととは言い切れない。
しかし、総合的にはこのオフの一時的な停滞と最終盤での巨額契約の連続発生は、旧態依然とした土壌に新しい価値観が定着する過程で不可避的な軋轢と経営側の潜在的資金力が作用した結果であり、野球界という完全に外部に開かれた訳ではないビジネスにおいても、経済原則が成り立っていることの証明であったように思える。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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