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先日、2019年の全米野球記者協会(BBWAA)選出の野球殿堂入り候補者35人(前回からの継続15人、新規ノミネート20人)が発表された。投票結果は12月31日に締め切られ、その結果は1月22日に公表される。選出された者は、7月21日のニューヨーク州クーパーズタウンでの記念式典に招かれる。今回の投票の見どころは多数あるが、その中でいくつかピックアップしてみよう。
まず、BBWAA経由での殿堂入り投票にの仕組みついて解説したい。対象はメジャーに10年以上在籍し引退後5年を経過した元選手で、BBWAAの6人のメンバーによるスクリーニング委員会で2名以上の委員からの推薦があれば新規にノミネートされる。投票はBBWAAに10年以上在籍の記者による10名連記式で、75%以上の記者からの票を得ると殿堂入りとなる。(他には、BBWAA経由での資格を失った選手や、監督、審判、経営者などを対象とする「Eras Committee 歴史委員会」による選出がある)。
「10年在籍」は1試合でも出場したシーズンは「1年」となり、マイナーリーグやNPBなどの外国リーグでの出場はカウントされない。「引退後5年」においても定義は同様だ。資格を保持できるのはかつては最長15年だったが、2014年から10年に短縮された(ただし、その時点ですでに10年以上が経過していた候補者には引き続き15年が適用された)。また、途中で得票率が5%を下回ると翌年以降の資格を喪失する。
投票者の中には以前は現場にはもはや足を運ばない「幽霊部員」も少なからずいた。しかし、2015年の投票からそのような者が100名以上追放され、前回は422名だった。
鉄板リベラ史上最多得票なるか
今回は、歴代最多の652セーブを記録したマリアーノ・リベラが新たに候補者名簿に名を連ねた。彼の一発選出は間違いない。それどころか史上初の満票選出の期待すら一部にはある。しかし、現実には難しいだろう。常に「ひねくれ者」はいるからだ。
史上最多得票率は2016年のケン・グリフィー・ジュニアで99.32%た。その際、「投票しなかった者(3人)は表に出て理由を述べるべきだ」という声も主要メディアから挙がった。歴代2位の98.84%のトム・シーバーの場合、5票を逃しているが、内3人は白紙投票だった(野球賭博で永久追放になったピート・ローズが本来なら資格を得る初年度だったため、そのことに対するレジスタンスだったとも言われている)。同7位の97.38%だった82年のハンク・アーロンのケースでは、あるラテン系記者はアーロンを回避しベネズエラ出身のルイス・アパリシオに票を投じた(アパリシオはその2年後に選出されている)。完璧な経歴の候補者にもいかんともしがたい部分があるのだ。
また、近年は空前の有力候補者ラッシュのため、5%を割って次年度の被投票資格を失いそうな候補者(前回7.3%だったアンドルー・ジョーンズなど)を救済するため、あえて選出確実なリベラへの投票を回避するケースもあるかもしれない。したがって、「満票」というより「史上最高」なるか、ということに注目したほうが良いだろう。
最後のチャンスに賭けるミスターDH
ミスターDHのエドガー・マルティネスが、今回最終年の10回目を迎える。前回はその前年の58.6%から70.4%へと大きく票を伸ばしており、今回の選出の可能性は相当高い。守備の貢献がないDHの選出は昔から議論の的だった。しかし、エドガーの場合、通算のOPS+(OPSがリーグ平均に比べどれだけ傑出しているかを示す指標)147やWAR68.4(Baseball –Reference版、以下同様)などは十分殿堂入りに値するレベルだ。近年のセイバーメトリクスの浸透が古臭い価値観や偏見を打ち破ることになりそうだ。
薬物疑惑の両雄ボンズ&クレメンスの命運
絶対許すべきではないという声も根強いが、「入れざるを得ない」という声も多い。その理由は、彼らのフィールド上での業績が圧倒的である、彼らも「限りなくクロに近いグレー」であるにすぎず、多くの選手のグレーの濃淡に明確な線引きが不可能だ、など様々だ。
近年は、公式発表前に自身の投票結果をSNS等で明らかにする記者が増えており、それらを集計する専門サイトすらある。前回は、その「出口調査」では投票が締め切られる年末時点では70%を越えており、そろそろXデー近し?と思わせたが、最終結果は56.4%と57.3%にとどまった。やはり、自らの投票結果を積極的に公表したい者には、ラディカルな考えの記者が多いようだ。
なお、今回通算256勝のアンディ・ペティットも新たに候補者入りした。彼の場合、現役時代に元上院議員ジョージ・ミッチェルが薬物疑惑者を取りまとめた「ミッチェル・レポート」に名が載った。実際、ペティットもヒト成長ホルモンの使用を認め謝罪している。これまで、このレポートで薬物使用が指摘された選手で殿堂入りした者はいない。しかし、彼はその中では希少な「謝罪組」だ。懺悔したペティットにそれなりに票が集まるようなことがあると、今後ボンズやクレメンスの態度にも変化があるかも?
悲劇の死ハラディへの評価は同情票?セイバー評価?
昨年11月に飛行機事故で40歳での早すぎる死を遂げたロイ・ハラデイも、リベラ同様に引退後5年が経過したため今回候補者となった。
通算203勝では、「投手の殿堂入りのパスポートは300勝」と言われた一昔前なら選出はおぼつかなかったろう。しかし、2度のサイ・ヤング受賞、8度の球宴選出、完全試合、ポストシーズンでのノーヒッターなど球歴にハイライトが多い。しかも、通算War64.3はリベラの56.2を大きく上回る(先発投手とリリーフ投手の違いはあるが)。
それと非常にセンシティブな問題ではあるが、死亡が投票者に心理的に働きかける面は否定できない。1973年のロベルト・クレメンテ(72年大晦日に中米地震被害の救援活動中に事故死)は例外としても、2012年にもうひとつのチェネルであるベテランズ委員会(現歴史委員会)経由で殿堂入りしたロン・サントの場合、選出の1年前に死亡したことが影響を全く与えていないとは言い切れない。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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