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渡辺勇大選手(右)/東野有紗選手(左)
昨夏の東京五輪に臨んだバドミントン日本代表で唯一となるメダルを獲得したのは、混合ダブルスの渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)だった。同種目で日本勢初となる銅メダルは、バドミントンという競技、混合ダブルスという種目の認知度を高める価値がある。東京五輪の後も個人戦では1大会を除いて決勝に進出。世界選手権では、日本勢初の銀メダルを獲得するなど活躍を続けている。
1月下旬、2人にリモートインタビューで話を聞いた。前編(本編)では、東京五輪のメダルの価値をどのように感じているのか。また、ペアを結成して10年が経つ中、良いパートナー関係を継続するためにどんな工夫をしているのか。そして、後編では、渡辺が2種目挑戦を続けるつもりなのか、2024年パリ五輪に向けては、どのような意識で臨んでいるのかなどのテーマに迫った。
メダルを取るのと取らないのとでは全然違う
渡辺勇大選手
――まずは、昨シーズンを振り返って下さい。初出場で銅メダルを獲得した東京五輪から半年ほど経ちますが、あらためて、どういう大会になったと感じていますか
渡辺:一番は、メダルを取っておいて良かったなと。たくさんテレビ番組に出たというわけではないですけど(番組出演等でメダリストとして紹介される度に)取る・取らないの価値の違いのようなものを感じます。
東野:テレビ番組に出させていただいたり、いろいろな方に知ってもらえたりして、メダルを取ると、いろいろなことが変わって来るんだなと感じました。東京五輪は金メダルが目標だったので、悔しい気持ちがあったんですけど、勇大君も言ってくれたように、取るのと取らないのとでは全然、価値が違うので、今では、本当に取れて良かったなと、ホッとしています。
――渡辺選手は、メダルを取った際に「何かを変えていける権利を得たのかなと思う」という趣旨の発言がありました
渡辺:競技で結果を出して評価されている、今の立場にすごく責任を感じています。同時に、競技自体を広める点で、多少なりとも他人を巻き込んでいくことが以前よりはできるのではないかと思っています。誰を巻き込むのかは……ちょっと……(くしゃみを始めた東野選手を見て思わず笑い出す)。
東野:ごめ~ん(笑)。
渡辺:大丈夫(笑)?まだ具体的な案や策はないですけど(メダリストは)日本のバドミントン界が良い方向に進むために動ける人材、巻き込んでいける人間になるのかなと思っています。そういう意味では、競技を辞めてからの方がメダルの意味や価値は、大きく感じるのかなと。ただ、今はメダルを取って、現役で競技をしていることに、自分自身の価値を感じているので、それをうまく生かしていきたいです。
――東京五輪後は、他競技でもメダリストのメディア露出が増えています。刺激を受けた部分は、ありますか
渡辺:五輪が終わって、またすぐに長い遠征(9~12月)が始まってしまったので、ほかの競技の選手と関わることは少なかったのですが、メディアを通して見ていて、やっぱり、テレビに露出することで、その競技の価値や認知度はすごく上がっていくと実感しています。個人競技は、人物にフォーカスされますけど、それでも競技全体の認知度は確実に広まる。そういう意味では、僕たちももう少しテレビ等で露出を増やせれば良かったのかなとは思いますけど、まだ競技を続けている立場なので、まずは競技の結果を第一に求めて、併せて露出も増やしていきたいなと考えています。
東野有紗選手
――五輪後、感覚が変わったところは?
東野:私、そんなに変わった気、していないです……。
渡辺:写真を撮られているんじゃないかと思うことない?実は、後ろから誰か追いかけて(撮りに)来ているんじゃないかって毎日思ったりしているんだけど(笑)。
東野:ないよ(笑)。五輪の後にすぐ遠征があって、連戦で大変だったので、五輪の(メダリストになった)ことも忘れて苦しんでいました。
フィギュアスケートのアイスダンスのように種目の知名度も上げたい
――東京五輪は、他競技でも混合種目が増えたり、注目されたりしました。混合ダブルスという種目を知ってもらえたという部分での手ごたえは大きかったのでは?
渡辺:僕の感覚で言うと、バドミントンをよく知っているコアなファンは、混合ダブルスでメダルを取ったのはすごいと(認めてくれていると)すごく感じるんですけど、バドミントンをそんなに知らない人たちは「混合ダブルスで」というより、もっと大枠の「バドミントンで」メダルを取ったワタガシペアというイメージなのかなと思っています。バドミントンという競技全体を広めていく、まだそのフェーズなのかなと。その中で少しでも「バドミントンでメダルを取った」という解釈から「混合ダブルスでメダルを取った」という解釈が増えるように、僕たちもこれから活動していきたいなと思っています。
東野:東京五輪では、卓球の水谷隼/伊藤美誠選手の活躍などもありましたし、他競技の混合種目の選手が頑張っているから、自分も頑張ろうという刺激はすごく受けます。私は、混合ダブルスを知ってもらいたい気持ちでここまで頑張って来れました。バドミントンは、混合ダブルス以外は日本が全部強いと言われてきたので(※注:2019年に2人が銅メダルを取るまで、日本は混合ダブルスのみ世界選手権のメダルを獲得できていなかった)、それを覆すことができたんじゃないか、皆さんに知っていただくことができたんじゃないかと思えるので、もっともっと知っていただけるように頑張っていきたいです。
渡辺:僕らがもっと有名になって、種目の価値を高めたいですね。例えばフィギュアスケートは、日本で競技の認知度がすごく高いから(シングルだけでなく)アイスダンスまで細かく報じてくれる(※男子シングルで日本のエースとして活躍した高橋大輔の種目転向で以前よりも注目度が高まった)。バドミントンも、ああいうところまで行きたいなと。東野先輩が言ってくれたみたいに、混合ダブルスはまだ(シングルスや男女ダブルスに比べて)遅れていると思われている方もたくさんいると思うので、バドミントンと言えば混合ダブルスがあるよねと言ってもらえるように、競技全体の認知度を上げながら、アイスダンスみたいに、混合ダブルスという種目としても露出が増えればいいなと思います。
ペアで長く活躍できる秘訣は「まず意見を受け入れること」
渡辺勇大選手
――シングルスやダブルスがメジャーな中で、2人が初めて混合ダブルスを組んだのが2012年です。10年が経過しますが、ペアを仲良く続けていける秘訣は?
東野:(渡辺に向かって)これ、毎回聞かれるよね(笑)。
渡辺:そうそう。熟年夫婦みたいですねとか。とにかく、仲良しが一番です。選手にとって競技は仕事でもありますけど、ビジネスパートナーだからコートの外では仲が良くなくてもOKというのは、日本人は難しいのではないかと思います。情や関係性を大事にする日本人の特性は、ストロングポイント。それを生かしてコートの中でも外でもコミュニケーションを取って、互いを知るのが、長く続けていくコツにもなるし、ペアとしてレベルアップする最善の方法だと常々思っています。ペアが長く挑戦を続ける、強くなる。そのコツは、2人が仲良くあることだと、僕は声を大にして言いたいです。
東野:私たちは中学生の頃から組んでいますけど、中学、高校では、それほど多く話さなくても、ある程度は大会で勝てたので、あまり話したことがありませんでした。でも、社会人になっていろいろ話すようになってから、勇大君と仲良くなれた気がします。それまでは、私が気を遣ってしまう部分がありました。でも、勇大君は年下だけど、すごく頼りがいがあります。自分が相談したことに対して、親身になって聞いてくれる。本当に、優しさの塊。勇大君が優しいから、成り立っているんじゃないかなと私は思います。
渡辺:逆だな、それは。僕は結構、言いたいことを言っちゃうタイプ。それをとりあえず聞いてくれる。多分、これで成り立っているんだと思います。スポンジのように、僕が尖ってしまうところを吸収してくれている。
東野:今は、そんなに尖ってないよ。学生の頃は、話しかけちゃいけないような雰囲気を感じたけど。
渡辺:それは、僕が人見知りだからだったと思うんですよね。25歳になるのに、まだ尖っていたら置いていかれちゃう(笑)。
東野:そうそう、人見知りだったんだよね。だから、あのときは、私から話しかけなきゃいけなかったんだなって、すごく思った(笑)。
――中学生だと、1学年上の女子と話すのは、苦手な子もいそうですね
渡辺:話し始めれば、普通に話せるんですけどね。先輩は陽キャ(陽気で明るい性格の人)だったので(スムーズに話し始めるのが)きつかったですね。中学の時は、特にそう感じていましたよ。僕、陰キャなので。
東野:あははは。
東野有紗選手
――仲の良い関係をキープするためのルールみたいなものは、ありますか?
東野:ルールはないけど、勇大君が言ったことに対して、受け入れること。自分が言ったことも受け入れてくれることが、すごく大きいかな。
渡辺:1回、提案された立場にちゃんと立って考えてみるというのは、お互いのためなので、絶対にするようにしています。まず1回受け入れて、やってみる、考えてみる。それが、常に互いに言いたいことを言葉にして伝えられることにつながると思うんですよ。受け入れてくれる信頼があるから、言える。たまにいますよね、なんでも否定する人。意見を出し合う時に「いや、でも!」みたいな(笑)。そういう人も世の中にはいますけど、やっぱり提案してくれたことは、何でも受け入れてみて、その目線に立って考えることが良いと思います。他人の意見を聞いてみることで、自分の考えの選択肢も増えていくので。
――試合前のルーティンなどは?
渡辺:前の試合がいつ終わるか分からないので「そろそろ、打ちます?」という感じで、決まりはないです。ルーティンを作っても、環境の変化で崩されたら心配になっちゃうと思います。だから、自由にやっているのが良いかなと。2人で基礎打ちをするまでは、別々に調整。僕はウォーミングアップを長くやるんですけど、先輩はあり得ないくらい短い。よく動けるなと思いますよ。こうやったら(手首をグルグル回したら)終わり(笑)。
東野:そんなことない(笑)!
バドミントンインタビュー
渡辺勇大選手×東野有紗選手
平野 貴也
1979年生まれ。東京都出身。
スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集・記者を経て、2009年に独立。サッカーをメーンに各競技を取材している。取材現場でよく雨が降ることは内緒。
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