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トロフィーを受け取る藤中謙也キャプテン
「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」男子は、5月5日にチャンピオンシップのファイナルが行われ、ジェイテクトSTINGS愛知を2勝0敗で下したサントリーサンバーズ大阪が国内リーグ連覇、そしてSVリーグ初代王者に輝いた。
そのチームでキャプテンを務めたのが、今季限りで退団を発表した藤中謙也である。
バレーボールアジアチャンピオンズリーグ男子ジャパン2025
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準々決勝 サントリーサンバーズ大阪vs.ムハッラク・クラブ(バーレーン)
5月15日(木)午後6:55 J SPORTS 1で生中継&オンデマンドでLIVE配信
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準々決勝 大阪ブルテオンvs.ナコーンラーチャシーマーQminC(タイ)
5月16日(金)午後6:55 J SPORTS 1で生中継&オンデマンドでLIVE配信
専修大学を卒業後にサントリーへ入団して在籍は計9シーズン。当時はV・プレミアリーグの2016/17シーズンに最優秀新人賞を手にして始まった国内トップカテゴリーでのキャリアにおいて、昨季を終えた時点で実に3度のリーグ優勝をレギュラーとして経験してきた。そうしてこの2024-25シーズンはキャプテンに就任し、SVリーグに挑むことになった。
チームは強力な攻撃陣を備えて、昨年末には令和6年度天皇杯全日本バレーボール選手権大会を優勝。SVリーグのレギュラーシーズンでは準優勝だったものの、チャンピオンシップのセミファイナルでは、ウルフドッグス名古屋との死闘を制して、5シーズン連続となるファイナル進出を果たした。
5月2日、ファイナルの前日記者会見でサントリーのオリビエ・キャット監督に、この1年間の藤中のキャプテンシーについての評価を聞いてみる。すると開口一番に、温かい口調で「メモリー・オブ・サントリー」と発した。
肉付けして解釈するならば、それは『サントリーの輝かしい歴史そのもの』といったところだろうか。
直近3度のリーグ制覇しかり、昨季からコーチとしてサントリーに入団したオリビエ監督にとっても藤中の存在は大きかったという。
「私がサントリーに入ったときも、日本のバレーボールのやり方などたくさんのことを彼から学ぶことができました。サントリーの顔だと感じていますし、彼には様々な大会での経験を持ってして、チームを支えてもらっています」
その言葉を受けて藤中は「今季、キャプテンという立場に選んでいただけたことはとても光栄でしたし、それに何としても応えたい思いで臨んでいました。監督としてのオリビエは今季が1年目になりますが、そのキャリアにいいものをもたらしたいと思います」と優勝への思いを強くしたのであった。
結果的に藤中は自身4つ目となるリーグタイトルを手にし、表彰式ではチャンピオントロフィーを掲げる役目を担う。そこでは仲間たちと喜びに浸った。
だが、セミファイナルとファイナルの計5試合を振り返ると、藤中の出場機会はなかった。シーズン中に手術に踏みきった影響も理由の1つとしてある。一方で、熾烈なチーム内競争が、藤中にとっては直面した分厚い壁だった。
というのも今季のサントリーにおいて、藤中と同じアウトサイドヒッター陣には男子日本代表の高橋藍(高ははしご高)と、ポーランド代表のアレクサンデル・シリフカという一線級のエースが入団、さらには在籍5季目のデアルマス・アラインもさらに攻撃力に磨きをかけていた。
「自分にとって厳しいシーズンになるだろうな」
入団予定の顔ぶれを含めて、2024-25シーズンのチーム編成を見た時に、藤中はそう覚悟した。その際に移籍といった考えがあったかと言われれば、「もちろんゼロではない」と本人。それでもサントリーの一員として戦うことを決断した。
「チームが必要としているということは、今季の契約を前にして言っていただきました。今季も残ってほしい、と。もちろん、どこまで厳しいシーズンになるかは想像もつかなかったですけれど、そうやって必要とされている限りは、僕なりに貢献したいなと思ったんです」
いざ始まったシーズンでは高橋藍の世界水準のパフォーマンスや、アラインの勢いあるプレーを前に、ベンチに控える時間帯が増えた。その現実は、チャンピオンシップに突入してからも変わらなかった。
アップゾーンの最前線に立つ藤中謙也
けれども、その姿は常にアップゾーンの最前線にあった。視線はコートに、そうして常に体を動かして臨戦体制を整える。また、タイムアウトになれば必ず、コート上の選手の誰かしらと言葉をかわしていた。シーズンを通して見せたその姿勢は、チームメートで弟の藤中颯志も感服するほどだった。
「試合になかなか出られない悔しさを、周りには見せないですよ。それに兄弟だからといって、あえて触れることはありません。ですが、そこは多少なりに感じる部分はありますし、悔しそうだな…って。おそらく本人も葛藤を抱えていたはず」
「だって『試合に出てナンボ』という思いもあるでしょうし、出られないと気分だって落ちてしまうのが普通なはず。むしろ、それが選手というもの。それでも自分の感情をしっかりと押さえて、何ができるかど考えて行動しているのは、すごいなと感じます」(颯志)。
あの日もそうだった。5月3日、STNGS愛知との計3時間半にも及んだファイナルのGAME1。2セットダウンとなり、何度も相手にマッチポイントを握られながらも、フルセットの末に逆転勝利を収めた試合を藤中はこのように振り返る。
「今季で5回目になりますが、ファイナルは本当に独特な雰囲気が、勝った試合でも負けた試合でも流れているんです。2セットを奪われるまでは負けそうなムードがあったけれど、3セット目から振り払うことができました。それは僕たちサントリーの強さだったかなと思います」
「そこでは僕自信、声かけをやめないことを心がけていました。自分にできることは限られていましたけれど、コートに立てない分、チームとして戦う気持ちは常に抱きながら試合に向き合っていました」
サントリーサンバーズ大阪の一員として、そのチームのキャプテンとして、そしてファイナルという舞台に臨む1人のバレーボール選手として。ただひたすら、藤中は自分にできることを探し、行動に移していたのである。
ただし、自身の中にある葛藤を振り払ったかと言えば、そうではない。むしろ、それはずっと抱えていた。GAME1を戦い終えた直後、ミックスゾーンに姿を現した藤中にまずは試合の感想を聞くと、こう口にしている。
「個人的なことは置いておいて、チームで勝てた。本当に大きな勝利かなと思います」
発した『個人的なこと』。書かずとも、分かるだろう。では、その感情自体は、優勝すれば晴れるものなのか…?
「晴れないと思います。まぁ、そこはわからないですけれど。いろんな感情や思いはもちろんありますが、そこはなんて言うんでしょう、100-0ではなくて。やはり何がいちばんにくるか、というところかなと考えています。今、僕の中では『チームで優勝する』ことが最優先事項ですから。そこは曲げずに、次のもう1試合を戦いたいと思います」
そう語ったときの表情は凛としていた。
過去に国内リーグ5連覇という金字塔を打ち立てたサントリーは、2020-21シーズンの優勝以降、今や第2の黄金期の真っ只中。そこでは補強に伴い、選手の顔ぶれも変化してきたわけだが、それでも継続して強さを発揮できている。藤中が語る、その理由。
「直近の5シーズンでいえば、苦しい場面でもみんなが顔を下に向けたり、外を向くことがありません。どうしても苦しいと孤立したり、周りから目をそむける選手だって出てくるもの。ですが、ほんとうに誰一人としてそういった行動をせず、内側や前を向いている選手たちばかりなんです。そうしたプレー以外の部分が強みなのかなと思いますね」
その言葉を聞いて、オリビエ監督が用いた表現が音を立ててハマった。
厳しいと覚悟して臨んだシーズンで、実際には苦しみや悔しさが待っていた。それでもチームが頂点にたどり着くその瞬間までコート内に視線を送り、ずっと前を向いていたのは、ほかでもない彼自身。そう、『メモリー・オブ・サントリー』藤中謙也だった。
文:坂口功将/写真:(C)SV.LEAGUE
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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