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最高の状態で北京五輪を迎える“史上最強”のモーグルジャパンチーム
北京五輪を目前に控え話題豊富なモーグルシーン。今回は「北米で行われたW杯4戦のプレイバック」、「最新W杯総合ランキングのチェック」、そして「北京五輪の展望」と3本立てでお送りしよう。
絶好調・川村あんりが2度目の優勝! ニューイヤーのスタートダッシュをきる
1月7日 第6戦トレンブラント大会(カナダ) モーグル
日本チームのメンバーは女子が川村あんり、住吉輝紗良、冨高日向子、星野純子、柳本理乃、中尾春香、男子は堀島行真、杉本幸祐、原大智、松田颯と12月の大会と変わらず。この段階で、男子の五輪出場枠は3、女子は4で、SAJが定めた基準を満たしているのは、川村、住吉、冨高、星野、柳本、堀島、杉本、原という面々だ。つまり、松田は自身が結果を残して枠をこじ開けるしかなく、女子は5名のうち誰かが北京五輪に出場できないという残酷な事態が待っている状態だったのだ。
第6戦(モーグルでは第4戦)の女子予選は川村が6位で、今季不調のペリーヌ・ラフォン(FRA)1位。しかし、川村はファイナル1で1位突破すると、スーパーファイナルでも勢いに乗った。ゴールエリアで81.76という自らのスコアが表示されると、持っていたスキーを掲げて力強いガッツポーズを見せた。結果、川村はジャカラ・アンソニー(AUS)からイエロービブを奪うかたちになった。
男子はミカエル・キングズベリー(CAN)が今季モーグルでは2度目の優勝。その滑りに衰えは見られず、むしろコブをなめらかに、軽やかに受けるようなターンに進化が見られた。イエロービブ装着の堀島は3位に入り上位のポジションを堅守。杉本はスーパーファイナル進出も惜しくも表彰台に届かず。これで3戦連続の4位となった。
Result
●女子
1:川村あんり(JPN)
2:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
3:テス・ジョンソン(USA)
●男子
1:ミカエル・キングズベリー(CAN)
2:ウォルター・ウォルバーグ(SWE)
3:堀島行真(JPN)
やっぱり凄い!男女のディフェンディング王者が強大な存在感を示す
常勝気流に乗って五輪に挑むラフォン。今のところ川村とは互角といっていい
1月8日 第7戦トレンブラント大会(カナダ)モーグル
トレンブラントでの2戦目は、今季はこれまでのように連戦連勝を果たしていないキングズベリーとラフォンが強さを見せつけたレースとなった。
ラフォンは予選、ファイナル1、スーパーファイナルとすべて首位の完全優勝。これが彼女にとってモーグルでは今季初のVである。一方、キングズベリーでは予選、ファイナル1と堀島の後塵を拝していたが、スーパーファイナルで逆転し、W杯の通算勝利数を70にのばした。なお、川村、堀島とも表彰台にはしっかり上がり、総合優勝争いから脱落することがなかった。
日本チームでは住吉ともに、低迷していた星野純子がスーパーファイナル進出したことに注目したい。柳本に五輪出場権を奪われつつある彼女が意地を見せたのだ。星野か?柳本か?このサバイバルレースは激烈さを増した。
Result
●女子
1:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
2:ジャカラ・アンソニー(AUS)
3:川村あんり(JPN)
●男子
1:ミカエル・キングズベリー(CAN)
2:ウォルター・ウォルバーグ(SWE)
3:堀島行真(JPN)
史上初のサプライズ! 日本選手10名がファイナル1に進出
1月13日 第8戦ディアバレー大会(アメリカ)モーグル
ナイトゲームで行われることが多いディアバレーの大会だが、今回は日中の開催に。気温が高く、表面が柔らかく内部は固そうな難しいコブとなった。ここで、今の日本チームを象徴する出来事があった。川村、住吉、冨高、星野、柳本、中尾、堀島、杉本、原、松田と、出場した日本の全選手が予選を突破したのだ。これは日本のモーグル史上初めての快挙だ。
そこから女子は川村、星野がファイナル1を突破し、星野が4位で川村が3位。2大会連続の健闘で星野は北京への希望をつないだ。ラフォンは2大会連続優勝を果たし、ようやく本調子を掴んだという印象だ。
また男子は堀島と杉本がスーパーファイナルに進出。2番目に滑った杉本は、ノーミスのランで79.02点を獲得。その後に滑った選手は杉本の点を超えられず、残るはキングズベリーと堀島という時点で杉本の初表彰台が確定した。キングズベリーは第1エアのダブルフルからのつなぎもパーフェクトで83.28点。最後の堀島は第1エアで高いフルツイストを見せたが81.98点とキングズベリーに追いつけなかった。日本チームの男子2名が表彰台に上がるのは今季2度目である。なお、松田は7位に入りSAJの五輪派遣推薦基準をクリアした。
W杯ランキングトップとして五輪金メダルを狙う川村
Result
●女子
1:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
2:川村あんり(JPN)
3:ジャカラ・アンソニー(AUS)
●男子
1:ミカエル・キングズベリー(CAN)
2:堀島行真(JPN)
3:杉本幸祐(JPN)
北京五輪前最後のW杯で男女ともに日本勢が優勝!
1月14日 第9戦ディアバレー大会(アメリカ)モーグル
北京五輪前の最後のレースとなった。各国とも五輪代表枠争いの最終ラウンドであり、いつのとは違う緊張感がただよう中、日本チームは最高の結果を残した。男女ともに日本選手が優勝したのである。
女子スーパーファイナルでのラフォンは完全に以前の彼女に戻っていた。板のさばき方、コブの吸収の仕方、そしてエアの完成度と、けなすところがどこにもなかった。しかし、得点は80.02と、その前に滑ったアンソニーの得点(80.38)に及ばず。それをスタートエリアで見ていた最終走者の川村は落ち着いて滑った。第1エアでのグラブもバッチリで得点は80.89。これで今シーズン3勝目。他の2名もノーミスで滑ったなかでの価値のある優勝だった。川村はこれでイエロービブを手にして北京に挑むことになる。
日本勢男子は堀島と杉本がスーパーファイナルに。杉本は完全に世界のトップグループに仲間入りしたといっていいだろう。しかし、第1エアのランディングで乱れ連続表彰台はならず。ファイナル1で2位のキングズベリーは文句ナシのランを見せたが82.84点。これを堀島が力強い滑りでねじ伏せた。得点は84.04で今シーズン3勝目と最高の形で五輪を迎えることになった。
堀島vsキングズベリーは北京五輪序盤戦の目玉となる
Result
●女子
1:川村あんり(JPN)
2:ジャカラ・アンソニー(AUS)
3:ペリーヌ・ラフォン(FRA)
●男子
1:堀島行真(JPN)
2:ミカエル・キングズベリー(CAN)
3:ウォルター・ウォルバーグ(SWE)
総合優勝争うはどうなっているのか?最新ランキングをチェック
今季、FISはW杯の総合ランキングをモーグルとデュアルモーグルとで分けて発表している。デュアルに関しては12月以降大会が行われていないので、ここではモーグルのみに絞って考察したい。
W杯モーグル総合ランキング(第9戦〈モーグル第7戦〉終了時点)
■女子
1 川村あんり (JPN) 549
2 ペリーヌ・ラフォン (FRA) 510
3 ジャカラ・アンソニー (AUS) 505
4 オリビア・ジアッシオ (USA) 310
5 テス・ジョンソン (USA) 286
6 住吉輝紗良 (JPN) 210
7 柳本理乃 (JPN) 193
8 冨高日向子 (JPN) 185
9 カイ・オーエンズ (USA) 177
10 エリザベス・レメリー (USA) 171
まず、女子は川村が総合1位の状態で五輪に出場するというのが特筆すべきトピックである。出遅れていたイメージもあるラフォンは徐々に調子をあげており、北米ラウンドで2勝。また、優勝は1度だが7戦中6戦で表彰台に上がっているアンソニーが3位。この3人がトップグループ形成している。
ここで確認しておきたいのは、五輪後に予定されていたたざわ湖とロシアでの大会が中止となったため、W杯は残るはあと3戦であり、モーグルは1戦しかないということだ。仮に総合4位のジアッシオがそこで優勝しても、3位のアンソニーの現在の得点には追いつかない。つまりは、3強の誰かが総合ランキングでトップになることは確定しているのだ。そして、川村とラフォンの得点差は39点。もしラフォンが残る1戦で優勝した場合は610点。川村は2位ならその点を上回るが、3位では下回るという状況だ。1ターンの差で、コンマ数秒の差で、結果が異なるギリギリのバトルが展開されるだろう。
■男子
1 ミカエル・キングズベリー(CAN ) 572
2 堀島行真 (JPN) 560
3 ウォルター・ウォルバーグ (SWE) 345
4 杉本幸祐 (JPN) 299
5 パヴェル・コルマコフ (KAZ) 244
6 ルドヴィグ・ジャルストロム (SWE) 209
7 原大智 (JPN) 182
8 ブロディ・サマーズ (AUS) 178
9 ベンジャミン・キャベ (FRA) 174
10 ニック・ペイジ (USA) 161
男子も残り1戦しかない状況は同じで、総合ランキングトップとなる可能性があるのは、12点差で拮抗するキングズベリーと堀島のみだ。今季はこれまでで最もこの両者の差が縮まっているシーズンである。それも、キングズベリーが落ちた結果ではなく、堀島が伸びた結果だ。従来の堀島は「苦手な斜面では失敗する」という弱点があったが、今季はモーグルの全大会で表彰台に上がっているのだ。12点差なので、自分が優勝さえすれば打倒キングズベリーを果たせる。もちろん、本人もそれを意識しているだろう。一方、杉本は過去最高の好位置におり、もう1ランク上げられる可能性もある。そのほか、今季はこれまでノーマークだった選手がスーパーファイナルに進出する例が目立つが、そうした選手も安定した活躍は出来ておらず、総合ランキングでも上位に名前がない。ただし、五輪の結果で自信を付けて一気に格上げに成功するということはあり得るだろう。
W杯の結果から大予想!北京五輪では何が起こるのか?
最後に、北京五輪の展望をまとめよう。まず、日本代表内定者として発表されたのは下記のメンバーだ。
●男子
堀島行真(トヨタ自動車スキー部)
杉本幸祐(デイリーはやしや)
原 大智(日本スキー場開発スキークラブ)
松田 颯(しまだ病院SnowTeam)
●女子
川村あんり(日本体育大学桜華高校)
冨高日向子(多摩大学)
住吉輝紗良(日本大学)
星野純子(チームリステル)
男子はシーズン開幕当初は枠が2つしかなかったが、原がモーグル第4戦で2位に入ることで枠を増やし、さらに松田が第8戦での戦績でもう1枠を掴んだ。女子は柳本が北京へのチケットを掴みかけていたが、星野がモーグル第7戦、8戦で連続してスーパーファイナルに進むことで逆転し、2大会ぶりとなる五輪出場を決めた。ここで気になるのは、W杯総合ランキングでは柳本(7位)より下の冨高(8位)、星野(11位)がどうして、五輪に出場できるのか?…という点である。これは、柳本はW杯の順位は上でも、FISランキングとは異なる「オリンピック・クオータ・アロケーション・リスト」ランキングでは、冨高、星野より下位だったからだ。当初から、規定をクリアした選手が枠の人数(最大4名)を超えた場合は、同ランキングの上位者から選ぶということが決まっていたのだ。ちなみに、そこでの星野と柳本との点差はわずか3点。それだけ、日本の女子チーム全体のレベルが高いということなのである。4年後、今よりさらに逞しく成長した柳本の姿を、ミラノ/コルティナ・ダンペッツォ五輪で見てみたいものである。
女子の金メダルを争うのは、やはり川村、ラフォン、アンソニーという顔ぶれだろう。ただ、何が起こるかわからないのが五輪の醍醐味だ。そうした意味で、大舞台を引っ掻き回す存在になりそうなのが、オリビア・ジアッシオ、カイ・オーエンズ、テス・ジョンソン、そしてエリザベス・レムリーとアメリカの若い選手だ。特にジアッシオはコーク10をケロッと披露し毎回高いエア点を獲得している。他にもエア技術の高い若い選手が目立っている。北京五輪女子はエアがキーとなりそうな予感に満ちている。
もちろん、住吉、冨高、星野と、川村以外の日本勢にも期待したい。今季は誰も表彰台に上がっていないのが気になるが、過去の実績を踏まえると川村とのダブルメダル獲得の可能性も十分にあるだろう。
男子の焦点は、「キングズベリーと堀島はどちらが金で、どちらが銀か?」という一点に尽きる。堀島は確実に滑りの質を上げており、弱点克服に成功した様子。ただし、キングズベリーも今季は進化のあとが伺える。つまり、両者が最高の状態の頂上対決となりそうだ。どちらが勝ってもモーグルファンなら満足できるだろう。
金メダル争い以外にもうひとつ、「銅メダルを誰が獲るか?」というテーマに注目すると五輪モーグルは一層楽しめる。過去の五輪を振り返ると、男子銅メダリストは意外な選手が掴んでいる場合が多い。長野五輪:サミ・ムストネン(FIN)、ソルトレークシティー五輪:リチャード・ゲイ(FRA)、トリノ五輪:トビー・ドーソン(USA)、バンクーバー五輪:ブライオン・ウィルソン(USA)、ソチ五輪:アレキサンドル・シュミシュリヤエフ(RUS)、平昌五輪:原大智といった具合だ。すべての選手がその時点で、W杯総合優勝を狙えるポジションにはいなかった。いわば銅メダルはダークホース枠ともいえるのだ。順当に行けばウォルバーグや杉本が銅メダル候補といえるが、予想外のサプライズが今回もあるのだろうか?
絶対に見逃すことができない北京五輪モーグルは、2月3日(木)が男女の予選、2月5日(土)が男子の予選2と決勝、2月6日(日)が女子の予選2と決勝というスケジュールだ。
文:STEEP
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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