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最終戦のキャンセルで総合優勝の夢が途絶えた堀島。来シーズンはお互いがフルスペックな状態でキングスベリーとの頂上対決となるだろう
異例の事態が続いた'21シーズンもフィニッシュ。ここでは、男子のモーグルW杯シーンを総括しよう。
まずは、世界選手権の余韻が残る3月14日(現地時間)に、同じカザフスタンのアルマティで開催が予定されていたW杯最終戦について触れておこう。
ペリーヌ・ラフォン(FRA)が独走の女子と異なり、ポイント200点台に5選手が拮抗していた男子は、総合優勝争いの行方がこのレースの結果にかかっていた。第5戦の時点で総合4位だった堀島行真にも数字の上では逆転優勝のチャンスが残されていたのだ。なお、日本男子勢は世界選手権と同じメンバー、つまり堀島のほかに、杉本幸祐、藤木豪心、小山貴史の4名がエントリーしていた。
ところが、予選の途中でコースを濃霧が覆い、中断時間を経てもそれが晴れなかったためにレース不成立のキャンセルとなってしまったのだ。そのため、第5戦までのランキングが今季の総合順位となった。平昌五輪の銀メダリストで、長い間、2番手、3番手のポジションが定位置だったマット・グラハム(AUS)が嬉しい初総合優勝を掴んだ。
グラハムは、第3戦DMでルドヴィク・フィヤルストロム(SWE)とともに同率1位になったほか(悪天候による)、2位1回、3位1回など安定して上位に入り続けた。総合2位のベンジャミン・カベットは優勝、2位、3位をそれぞれ1回ずつ記録したものの、予選落ちがあったことがグラハムとの差となった。3位のフィヤルストロムは27歳の選手で、遅咲きの花を咲かせた印象だ。5戦中3戦が北欧開催のスケジュールがコンディション作りの面で有利に働いたのかもしれない。
●'21季ワールドカップ男子総合順位
1 マット・グラハム(AUS)289
2 ベンジャミン・カベット(FRA)271
3 ルドヴィク・フィヤルストロム(SWE)258
4 堀島行真(JPN)246
5 ブロディ・サマーズ(AUS)210
6 ミカエル・キングスベリー 200
7 マルコ・タデ(SUI)179
8 ブラッドレイ・ウィルソン(USA)165
9 ニック・ペイジ(USA)134
10 ディラン・ウォルチック(USA)119
序盤戦欠場も早期復帰のキングスベリーが2連勝。堀島は弱点克服ならずも、五輪への期待をつなぐ
高いターン技術を誇り、ジャッジからの評価の高いグラハムだが、これまではキングスベリーの存在があり、優勝の機会にほとんど恵まれなかった
ここからは、シーズン全体の流れを再確認しよう。今季のW杯は、2020年内に北欧で3戦、年が明けて1月下旬以降に北米ラウンドが4戦、世界選手権を挟み、田沢湖で2戦、カザフスタンで最終戦という全10戦の開催が発表されていた。ところが、早々と中国での世界選手権開催がキャンセルとなり、また、田沢湖でのW杯開催も中止に。のちに世界選手権はカザフスタンでの代替開催が決まったものの、1月末に予定されていたカルガリーでの2戦もキャンセルとなってしまう。つまり、2020年内の3戦から、2月上旬のディアバレーでの2戦まで、2ヶ月近いブランクが開くという断続的なスケジュールとなった。
開幕前、今季のW杯男子モーグルは「キングスベリーが10連覇を果たすか?堀島がそれを阻むか?」というのが大きなテーマだった。ところが、ルカ(フィンランド)での開幕戦で、それがいきなり消滅してしまう。キングスベリーが練習中の転倒により骨折し、まさかの負傷欠場となったのだ。これで、キングスベリーの10連覇の可能性は著しく低くなり、堀島の総合優勝がグッと近づいた……と思われた。そして、開幕戦では下馬評通りに堀島が優勝している。
ところが、堀島はイドレ(スウェーデン)での2戦では今ひとつ噛み合わないまま表彰台から遠ざかってしまう。そして、ブランク期間を経て第4戦ディアバレー大会を迎える。そこには、短期間で驚異的な回復を果たしたキングスベリーの姿があった。予選の段階では本調子には見えなかったものの、結局、第4戦MOで優勝し、続く第5戦DMでもまた優勝。負傷明けが嘘のような復調ぶりを見せたのだった。一方、堀島はやはり噛み合わないまま第4戦が5位、第5戦が9位で自力優勝がなくなる。
そこから、堀島はカザフスタンでの世界選手権に向けて気持ちを切り替えた。この大舞台では秘策を用意していた。優勝するための武器として、コーク1440のトレーニングを強化し、飛びやすいように板の長さを182cmから172cmに変更したのだ。ところが、世界選手権MOではアルマティの固い難斜面に苦しみ予選落ち。DMではなんとか3位に入るが、秘策は不発に終わる。かたやキングスベリーは二冠を達成し完全復活を世界にアピールした。
ターン、エア、スピードとすべてが世界のトップレベルにいる堀島の唯一最大の弱点といえるのが、「相性の悪い斜面だと失敗する」ということだ。これは、世界中のどんなバーンでも同じように……実際は異なる技術を用いながら、パーフェクトな滑りを見せるキングスベリーとの大きな差である。コロナ禍によりオフシーズンの雪上トレーニングを積めなかったハンデもあった今季、堀島はその差を埋められなかった。
ただし、世界選手権DM3位など明るい材料がなかった訳ではない。何より本人のモチベーションは落ちていない。エアの難度アップも順調に進んでいるようだ。
北京五輪シーズン、1440を完璧マスターしつつ、ワンランク上の斜面対応力を身につけたニューバージョンの堀島行真の登場に期待したい。
W杯自己最高位を記録した杉本が2番手の立場を堅守。待たれる“銅メダリスト”原大智のカムバック
無敵の絶対王者は欠場前と同じ状態に戻る。W杯2戦、世界選手権2戦と今季出場した全レースで優勝したのだ
最後に堀島以外の日本勢男子についても確認しておこう。誇れる結果を残したのが杉本幸祐だ。ディアバレー大会MOで決勝進出(11位)を果たした杉本は、DMでは自己最高位の4位を記録した。これは大きな自信につながっただろう。だが、W杯での総合順位は15位であり、堀島に追いつくには超えなければならない壁はいくつもある。
また、昨季のW杯で最高位6位というリザルトを残した新鋭・松田颯は、今季はいいところナシ。開幕戦の21位が最高で、総合43位だった。負傷明けの藤木豪心は、年明けからの出場となったが決勝進出はゼロの総合40位。不調の松田に代わり、世界選手権代表に選出された小山貴史は、イドレでの第3戦DMでファイナル進出もあったが総合33位。小山にとっては2度の海外遠征は経験値アップにつながっただろう。
もうひとり、日本チームに気になる人物がいる。平昌五輪の銅メダリストで、競輪選手との二刀流で活動を続ける原大智だ。原は強化指定選手ではあるものの、今季のW杯に出場するにはFISポイントを獲得する必要があった。そのため、2020年11月に行われたFISのオープンレースに2戦出場し、8位と4位になっている。結局、いろいろと制約が多い中でW杯復帰が実現しなかった原だが、3月20日に富山県のたいらスキー場で開催された全日本選手権MOに出場し、4位に入った。女子に比べると男子は選手層が厚いとは言い難く、実績のある原が本格的に戦列復帰となれば大変に心強いところが、果たしてどうなるか? 彼がどんな選択をするのか?
杉本は着実に力を着けている。W杯4位という自己最高位を、さらなる飛躍のきっかけとしたい
2022シーズンのW杯は通例通りなら2021年12月の開幕だ。その時に世の中の状況がどのようになっているかはまったく予想できないが、次のスキーシーズンへのカウントダウンはすでに始まっているのは確かである。
文:Bravoski(ブラボースキー)
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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