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早くも復帰したキングズベリー(左)と、それを誰よりも待っていた堀島(中央)。両者の対決がディアバレーで実現
パンデミックが続くなかで、'21季のモーグルW杯は2020年12月中旬以来の長いブランクを経て、2月4~5日のディアバレー(アメリカ)での連戦で再開となった。
この空白期間は、選手たちにとって、“ハイシーズンに約2ヶ月近くも集中的に雪上トレーニングができる”という異例のチャンスであったものの、しばらくレースがないことでモチベーション維持が難しいシチュエーションともいえた。
また、すでに中止が発表されていた3月の秋田たざわ湖大会2戦に加え、2月中にカルガリー(カナダ)で予定されていた2戦もキャンセルとなってしまったことを確認しておきたい。そのため、今季のW杯は2020年内に北欧で行われた3戦、ディアバレーでの2戦に加え、3月14日のアルマティ(カザフスタン)で行われる最終戦DMの計6戦という、例年の半分程度となる少ない大会数となった。
一方で、明るいニュースもある。中国で予定されていたフリースタイルスキーの世界選手権は、一旦キャンセルが発表されたが、アルマトイが代替地として名乗りを挙げ、3月8~11日に開催されることになったのだ。
MOは3月8日、DMは9日に行われる。つまり、W杯最終戦と併せてアルマティでの3連戦が、今シーズンのクライマックスとなる。
住吉が嬉しい初表彰台。キングズベリーは復活即優勝
ディアバレーは、毎回シーズン中もっとも多くの観客が集まる会場だが、今回は残念ながら無観客での開催となった。
初日、MOでは女子で日本のモーグルファンには嬉しい結果が待っていた。スーパーファイナルに進出したのは、ユリア・ギャリシェバ(KAZ)、住吉輝紗良(JPN)、カイ・オーエンス(USA)、ジャカラ・アンソニー(AUS)、川村あんり(JPN)、ペリーヌ・ラフォン(FRA)の6名。2番目に滑った住吉は、第1エアのランディングからミドルセクションのつなぎもスムースにこなし、大きなミスのない滑りで79.55の好得点を出し暫定首位となる。続くオーエンス、アンソンニーは住吉に追いつけずで、住吉の初表彰台が決定。次の川村は80.94点で住吉を凌駕し、最後に滑ったラフォンが川村を上回る83.23点で今季4度目の優勝を決めた。川村が2位で住吉は3位。日本の女子選手2名が表彰台に上がるという喜ばしい結果となったのだ。
これまでスーパーファイナルは何度か経験していたが表彰台は初めてとなった住吉。世界選手権でも大仕事をやってくれそうな予感も
男子MOは、まさかの負傷により北欧ラウンドを欠場していた“絶対王者”ミカエル・キングズベリーが復帰。まだまだ本調子とはいえないパフォーマンスだったが、ファイナル1で2位と難なくスーパーファイナルに進出した。なお、トップは総合優勝を狙う堀島行真(JPN)であり、2強の頂上決戦が今季、初めて実現することに。スーパーファイナルで、ルドヴィグ・ジャルストロム(SWE)、ドミトリー・ライヘル(KAZ)、マット・グラハム(AUS)、ベンジャミン・カベット(FRA)と4選手が滑り終わった時点で、トップは86.25点のキャヴェだった。そして、39番という重い番号のビブを着けたキングズベリーが登場し、欠場前と変わらない、ハイスピードながら上半身がブレず両膝がビタッと揃ったいつもの滑りを見せた。88.10点とトップに躍り出た。そして、最後に滑ったのはイエロービブを着けた堀島は、勝負をかけてミドルセクションでひたすら攻め、第2エアで1440に挑む。ところが、ランディングでバランスを崩し、失速……。80.50で5位に終わった。この時点で堀島は総合2位に。ジャルストロムが総合トップとなった。
川村の好敵手・オーエンスが16歳で初優勝。堀島は痛恨のミスで9位
2日目のDMでは、女子でサプライズがあった。川村あんりと同じ2004年生まであるカイ・オーエンスが初優勝を果たしたのだ。オーエンスは、セミファイナルでテス・ジョンソン(クォーターファイナルでラフォンに勝利)と対戦。ほぼ互角の展開だったが、1ポイント差でオーエンスが勝った。反対側のブロックを勝ち抜いてきたチームメイトのハンナ・ソアーとのビッグファイナルでは、ソアーのミドルセクションで失敗もあり、16歳での初優勝となった。なお、スモールファイナル(3位決定戦)でジョンソンが勝ったことで、表彰台をアメリカ勢が独占することになる。日本同様、アメリカ女子も全体のレベルを上げている。
男子DMでは、堀島が苦杯をなめた……。エイトファイナル(ベスト16)において、第2エアの手前でミスをしてブランデン・ケリー(CAN)に負けてしまったのである。総合優勝を狙う堀島にとって、W杯1戦ごとの価値が例年の倍近くなった状況下でこの敗戦は痛い。一方、杉本幸祐(JPN)はクォーターファイナルで、総合2位のジャムストロムに勝利する快挙もあり自己最高の4位となった。
本来、世界選手権が行われるはずだった中国の張家口(タイウー)の斜面。北京五輪はここで行われる予定だ
ビッグファイナルでは総合1位のグラハムと、当たり前のように勝ち進んだキングズベリーとの対戦となり、キングズベリーが制した。キングズベリーは負傷欠場が嘘だったかのように2連勝。あっという間に定位置に復帰した。
カザフスタンでの世界選手権には日本から8選手が出場
ここで、世界選手権の日本代表選手について触れておこう。オフシャルで発表された顔ぶれは下記のとおりである(名前のあとの順位は世界選手権直前のW杯総合順位)。2大会連続で表彰台に選手を送り込んでいる日本チームは今回も大きな結果を残してくれそうな陣容を揃えている。特に女子の選手層の厚さは特筆に値するものだ。
堀島行真:W杯総合4位
杉本幸祐:W杯総合15位
藤木豪心:W杯総合40位
小山貴史:W杯総合33位
星野純子:W杯総合11位
住吉輝紗良:W杯総合9位
冨高日向子:W杯総合7位
川村あんり:W杯総合2位
2年に1度のビッグイベントは、本来ならば、北京五輪のプレ大会として五輪と同会場で行われる予定だった。舞台が変わってしまったことで、“五輪の前哨戦”というニュアンスは薄まったかもしれない。しかし、この状況下で開催地として名乗りを挙げたアルマティの地元関係者、カザフスタンのスキー連盟に敬意を示すとともに、無事に大会が行われることを心より祈りたい。
ラフォンの4連覇が決定。男子の総合優勝は最終戦DMで決まる!
圧倒的強さで4連覇を決めたラフォン。世界選手権MO、DMともに大本命となる
さて、最後にラスト1戦を残した段階での、W杯総合優勝順位争いについてまとめよう。まず、第5戦終了時点で、女子の総合順位、ポイントは下記のようになっている。
1 ペリーヌ・ラフォン(FRA) 445
2 川村あんり(JPN)270
3 ハンナ・ソアー(USA)250
4 カイ・オーエンス(USA)234
5 ジャエリン・カウフ(USA)233
6 テス・ジョンソン(USA)197
7 冨高日向子(JPN)155
8 住吉輝紗良(JPN)154
9 ジャスティン・デュフォア ラポイン(CAN)154
10 ジャカラ・アンソニー(AUS)154
W杯1戦でつけられる最大のポイント差は100点である。つまり、すでに2位の川村と100点差以上が開いているラフォンは今季も総合優勝が決定している。これで4シーズン連続となる。そして、270点の川村以下、197点で6位のテス・ジョンソンまでに総合2位の可能性がある。ただし、それはあくまで数字の上での話で、総合2位にもっとも近いのは川村であることは間違いない。
続いて、男子の総合順位とポイントはこうだ。
1 マット・グラハム(AUS)289
2 ベンジャミン・カベット(FRA)271
3 ルドヴィグ・ジャルストロム(SWE)258
4 堀島行真(JPN)246
5 ブロディ・サマーズ(AUS)210
6 ミカエル・キングズベリー(CAN)200
7 マルコ・タデ(SUI)179
8 ブラッドレイ・ウィルソン(USA)165
9 ニック・ペイジ(USA) 134
10 ディラン・ウォルチック(USA)119
男子の優勝争いは実に混沌としている。2位以下で自力優勝の可能性があるのはカべットのみだが、数字上では6位のキングズベリーまでにチャンスがある。もちろん、第5戦でつまずいた堀島も優勝圏内に残っている。まして、最終戦はDMである。何がどうなるか分からないのだ。
ここで、堀島が総合優勝するための条件を確認しよう。最終戦で堀島が獲得できるポイントのマックスは優勝で得られる100点で、その場合は総合点が346点となる。現在1位のマット・グラハムが最終戦で2位の場合は369点、3位の場合は349点で、346点を上回る。つまり、カベット以下の選手のスコアを問わず、グラハムが3位以内に入らないことが堀島にとって総合優勝のための絶対条件ということである。しかし、DMならそれは大いに有り得る展開だろう。カザフスタンでの最終決戦に注目だ!
文:Bravoski(ブラボースキー)
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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