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'19シーズンプレイバック「平昌五輪を経てW杯の風景はどう変わったのか?」
前人未到の8連覇を達成、さらにエア技術を新次元に押し上げたキングズベリー
'19季のW杯は第9戦のシムブラク大会をもって、全日程が終了。このコラムも今回が最終回である。最後は、シーズンの締めくくりとして、昨季とは様変わりしたシーンを中心に3つのテーマに絞って振り返ってみたい。
W杯総合ランキング
●女子
1:LAFFONT Perrine (FRA)
2:KAUF Jaelin(USA)
3:ANTHONY Jakara(AUS)
4:GALYSHEVA Yulia(KAZ)
5:JOHNSON Tess(USA)
6:DUFOUR-LAPOINTE Justine(CAN)
7:DUFOUR-LAPOINTE Chloe(CAN)
8:HOSHINO Junko(JPN)
9:TOMITAKA Hinako(JPN)
10:GRASEMANN Laura(GER)
●男子
1:KINGSBURY Mikael(CAN)
2:HORISHIMA Ikuma(JPN)
3:CAVET Benjamin(FRA)
4:WALLBERG Walter(SWE)
5:GRAHAM Matt(AUS)
6:HARA Daichi(JPN)
7:WILSON Bradley(USA)
8:REIKHERD Dmitriy(KAZ)
9:ANDRINGA Casey(USA)
10:SALONEN Jimi(FIN)
【テーマ1】2022年北京五輪までの最重要キーワードは“エアの進化”だ
ギャリシェバは、グラブを加えることでエアをバージョンアップさせた
五輪競技の多くは、4年周期で選手の顔ぶれや技術の傾向が様変わりする。モーグル界にもこれが当てはまる。そして、技術面での北京五輪までの重要なキーワードとなるのが“エアの進化”だろう。
女子は、2000年代の上村愛子以降、決め技とする選手がいなかったコークを繰り出す選手が今季になって目立ってきた。これは、大会ごとに優勝者が変わる昨季の大激戦を経て、上位選手たちがライバルに差を付ける手段として取り組んだ結果といえる。
ペリーヌ・ラフォン(FRA)が総合2連覇を果たしたのも、コークの導入によるところが大きい。 また負傷欠場以降、なかなか元のポジションに戻ることができなかった星野純子(JPN)が今季、欠場前以上のリザルトを残したのも、彼女がエアの進化に取り組んだ成果だろう。
この女子のエアの進化は、コークに限った話ではない。第一エアのヘリにグラブをプラスする工夫をみせたユリア・ギャリシェバ(KAZ)は、W杯優勝2回、世界選手権MO優勝という好成績を残した。
逆に、ターン技術は相変わらず高いものの、以前と比べエアに変化がないクロエとジャスティン、さらにデュフォー・ラポイント姉妹が総合優勝争いに加われなかったのも象徴的な出来事といえる。
一方、開幕戦で堀島行真が失敗はしたものの初めて1440に挑んだことで、“今季はいよいよ2回転時代の到来”と思われた。ところが、以後堀島はW杯序盤戦、中盤戦、世界選手権と、この新次元トリックにチャレンジすることはなく、他に続く選手も現れなかった。
しかし流れが変わったのが、第6戦の秋田たざわ湖大会MOだ。そのスーパーファイナルで、ミカエル・キングズベリー(CAN)がこれにトライし成功、またもや失敗に終わったが、堀島も挑戦した。
そして、カザフスタンのシムブラク大会第9戦(実質の最終戦)では堀島が再チャレンジし見事に成功。シーズン初優勝を飾った。
総合1位、2位の選手が1440を成功させた以上、今後、総合優勝を狙うには1440のマスターが必須条件になることは確実。他の有力男子選手は、オフシーズンに特訓をするだろう。
また、男女ともオリジナルのグラブを取り入れ、加点を狙う選手の増加も予想され。またオリビア・ジアッシオ(USA)のようにフルツイストを特化させる女子選手も増えるのではないだろうか?
【テーマ2】黄金時代再び!? 日本チーム全体のランクアップ
W杯では堀島の後塵を拝したが、世界選手権ではMO、DMで3位と大舞台での強さを見せた原
今季はまた、日本勢の健闘もひとつのトピックだった。
シーズン前に予想されたように、男子は'17世界選手権二冠の堀島、平昌五輪銅メダリストの原という2大エース時代が本格到来した印象だ。
堀島はW杯で優勝1回、2位3回で総合2位。原はW杯で3位1回、4位2回で総合6位に加え、世界選手権でMO、DMともに3位。どちらも、過去の日本の男子選手が未踏の領域に達したといるだろう。
興味深いのは、両者が技術面もメンタル面もまったくタイプが異なるということ。たとえば、堀島はエアの難度を追求し、原はオリジナリティを求めている。大舞台に際しては、堀島が緊張感を高めレースに集中するタイプなのに対し、原は周囲の雰囲気も含め全体を楽しみながら自らをノセて滑る。ある局面では、堀島の特性が力を発揮し、別の局面では、原の持ち味が大きくプラスに作用するということなのだろう。そのことが関係しているのか、今のところ世界大会で両者が並んで表彰台に立ったことは1度もない。
他のW杯レギュラー組では、四方元幾が21位、藤木豪心が総合25位という結果に。この2名とも複数回の決勝進出を経験し、昨季より成長した姿を見せた。一方で、スポット出場した他の若手選手は、大きな爪跡を残すに至らず。来季は、そこから抜け出してくる選手が現れるだろうか? 注目したい。
女子は予想を上回る頑張りだった。総合ランキングで星野純子が8位、冨高日向子が9位、住吉輝紗良が13位。全員がスーパーファイナルを経験。星野は4位1回、冨高は全戦予選突破、住吉は第5戦でファイナル1を1位通過と大健闘。3名ともあと1歩で表彰台を狙える実力があることを示した。
また、伊藤みきの秋田たざわ湖大会での復活劇(MOで決勝進出)も、特筆に値する。昨季は五輪出場を逃し、今季は強化指定選手を外れたこのベテランの奮起は、若い選手にも大いに刺激になるだろう。
【テーマ3】北京五輪のメダル候補が続々!? 出揃った各国のニューカマーたち
アンソニー(左)は、最終戦に不出場も総合3位。'98年生まれの20歳だ
'19季は、新陳代謝が大きく進んだシーズンともいえた。平昌五輪後にベテラン選手の引退が目立ち、その一方で、各国の若手選手が上々の結果を残したのである。
女子総合3位のジャカラ・アンソニー(AUS)、男子総合4位のウォルター・ウォルバーグ(SWE)がその筆頭格。両者とも昨季のランキング(アンソニー17位、ウォルバーグ12位)を大きく上げ、表彰台に度々上がる飛躍を見せた。
女子ではほかに、2000年代生まれの選手として初の優勝者('18第9戦)であるテス・ジョンソン(USA)は確実に上位に入る選手に成長。また、まだまだ未知数ながら、オリビア・ジアッシオ(USA)、ソフィアン・ギャニョン(CAN)、アナスタシア・スミルノワ(RUS)が要注目選手だ。ジアッシオはすでに2シーズン前に2000年代生まれの選手として初のW杯表彰台を経験。'99年生まれのギャニョンは怪我で途中離脱したが、複数の一桁順位を記録し、世界選手権ではMO、DMともに10位と次期カナダチームのエース候補に急浮上。21世紀生まれ('02年)のスミルノワは、世界選手権MOで4位というリザルトが光る。ジョンソン、冨高、住吉も含め、今の女子モーグル界は過去に例がないレベルで、ティーンエイジャーが席巻しているのである。
男子で存在感を増したのがスウェーデンチームだ。ウォルバーグだけではなく、今季W杯本格デビューのオスカー・エロフソンが第3戦でスーパーファイナル進出し、2位表彰台をゲットしている。
アメリカ勢では、ケイシー・アンドリンガがユニークな存在だ。いかにもアメリカ流のフリースタイルスピリッツを持った選手で、ターン、エアともに一か八かのアタックをかける姿勢が魅力。エースのブラッドリー・ウィルソンがそうだったように、シーズンを通した戦績にはムラが出がちだが、順位争いを引っ掻き回すジョーカー的な存在として注目に値する。
カナダの一強時代はすでに遠い過去の話となり、今のモーグル界は、カナダ、アメリカ、フランス、日本、カザフスタン、オーストラリア、スウェーデンにそれぞれ上位選手が存在する戦国時代である。ここに名前を挙げたような若手の成長が、さらにシーンをエキサイティングにしてくれるだろう。
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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