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「ありがとう、愛子! お疲れさまでした」
まずは、この言葉しか浮かばない。ついに引退してしまった、モーグル界のヒロイン、上村愛子。今季のコラムの最終回は、彼女の話しかないだろう。
一般に多く報道されている内容は、
「どうして一段一段なんだろう……」
「長野7位→ソルトレーク6位→トリノ5位→バンクーバー4位→ソチ4位」
という五輪に関することばかりだ。
しかし、実際”上村愛子”を語るには、五輪が本質ではない。W杯や世界選手権で、長きに渡って築き上げてきた偉業の数々を振り返ってみよう。
――W杯初出場初表彰台――
まずは、W杯デビュー戦からすごかった。
‘96季、ノーアム(北米杯)で優勝し、W杯最終戦スイス・マイリンゲン大会のメンバーに急遽抜擢。そして、3位表彰台を獲得する。ここからヒストリーは始まった。
その大会では、優勝キャンディス・ギルグ(フランス)、2位タチアナ・ミッターマイヤー(ドイツ)、4位カーリー・トゥロー(ノルウェー)、5位エリザベータ・コジェフニコワ(ロシア)。世界選手権王者や五輪メダリストなど女王たち”に、”16歳の新人”が割って入った格好だった。
翌‘97季は、長野で世界選手権があった。17歳で挑んだ愛子は、決勝進出し、結果は16位。すでに多くのメディアに注目されることになる。
そして‘98季は五輪前にPC会社のTVCMに起用。
「モーグルって知ってますか?」
と視聴者に語りかけ一躍アイドル的存在となり、いざ五輪本番でも見事7位入賞という活躍を見せたのである。
――世界選手権日本勢初表彰台&W杯総合2位――
決勝進出の常連になり、世界トップレベルの選手となったのは、長野五輪翌季からと言えよう。
‘99季は、3年ぶりのW杯3位表彰台ゲット。
マイリンゲンで行われた世界選手権デュアルで、トーナメント準決勝進出。4位という、日本勢史上最高成績をあげる。
‘00季は、表彰台を3度(内デュアル種目1度)。W杯最高位は2位となった。
そして愛子にとって、最初のピークと言えるのが‘01季である。
カナダ・ウィスラーで行われた世界選手権で、日本勢としてシングルで史上初めて3位表彰台。デュアルでも4位まで勝ち上がった。
さらにW杯後半戦も好調は続き表彰台を連発する。ハンナ・ハーダウェー(アメリカ)、のちに女王となるジェニファー・ハイル(カナダ)と最終戦まで大接戦の上、W杯総合2位でフィニッシュ。シーズンを通じた世界ランキングで、当時の絶対女王カーリーに次ぐ存在となったのだ。これももちろん日本初の快挙であり、以後自身が更新したのみで、今も並ぶものはいない。
――コーク720――
‘02ソルトレークk五輪翌シーズンからの戦いは、しばらくやや厳しいものだったと言わざるを得ない。
‘03季、アメリカ・レイクプラシッド大会で、W杯初優勝。里谷多英、附田雄剛に次ぐ3人目の成功を果たす。しかし、女子でも必要になったスピン系のエアをうまく自分のものにできない。さらにルール改正で解禁になったフリップ系のエアにも、トライするのが怖かった。そんな遅れもあり、‘04季は‘98季以来の表彰台なしに終わった。
そんな状態だった‘05季前、愛子は思い切った作戦に出る。当時男子でも最高峰のエアだった「コークスクリュー720」(以下コーク7)へのトライだ。
カーリーも導入したが、毎試合使用するのは愛子だけだった。どうしても安定感に欠けたが、‘05季最終戦、ノルウェー・ヴォスで自身2度目の優勝。女子でコーク7を使用した初の優勝者となった。
その直後に挑んだ世界選手権フィンランド・ルカ大会では、シングル4位、デュアル3位表彰台と完全復活。ビッグイベント2度目のメダル獲得となった。
[写真]‘08季W杯総合優勝。このシーズンは他のスキー種目も合同の表彰式が行われた。アルペンも含めたそうそうたるメンバーの中に、愛子も並んだのだった。となりは、トリノ五輪金メダル&W杯総合優勝4度のデイル・ベッグ-スミス(オーストラリア)だ。
――‘08季W杯総合優勝――
それまで避けていたバックフリップを導入した‘08季、自身最高のひとつである快挙が達成される。
コーク7を封印した猪苗代大会で久々に優勝。そしてその後6連勝! W杯総合優勝に輝いたのだ。
これはシーズン通じて強くなければ勝ち取れない、まさに世界最強選手で証である。
「五輪金メダルよりも価値がある」
とは、よく選手の口から語られる言葉である。
――世界選手権ダブル優勝――
W杯総合女王になり新たに臨んだ‘09季W杯は、大ブレイクしたハナ・カーニー(アメリカ)と復活を目指すジェニファーの熾烈なマッチレースとなったシーズンだった。そんな中、愛子は後半に調子を上げ、世界選手権猪苗代大会にばっちりピークを持っていった。
結果は、ハナもジェニファーもまったく寄せ付けない内容で、シングルもデュアルも優勝。‘01季のカーリー以来、2人目の2種目女王となった。
――バンクーバー五輪後――
30歳で4位となったバンクーバー五輪の翌季は休養。復活した‘12季には、W杯苗場大会デュアルで2位表彰台と復活した。その後も、‘13季に2度、‘14季も1度表彰台に立っている。
ソチ五輪でもメダル寸前だったということも含め、30歳以降の戦いも世界の第一線だった。
――通算成績――
16歳で世界デビュー以来、
W杯出場144戦、優勝10回、表彰台34回。総合優勝1度、総合2位1度。
世界選手権15レース出場表彰台4回、優勝2回。
そして五輪出場5度、入賞回数5回。
以上が、ざっと振り返った戦歴の数々だ。
これでも上村愛子は、
「メダリストになれなかった選手」
だろうか? むしろ、
「モーグルシーンにおいて価値ある成績を残した選手」
として多くの人の記憶に残るアスリートなのだ。
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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