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2012-2013シーズン(以下'13季)のW杯モーグルも、21日のスペイン・シエラネバダ大会が最終戦となる。そして情熱の国でのラストバトルには、まだ熱い勝負がかかっている。
最終戦前までのW杯ランキング上位は以下の通りだ。
女子 | ||
---|---|---|
1位 | ハナ・カーニー(アメリカ) | 631点 |
2位 | ジャスティン・デュフォー-ラポイント(カナダ) | 595点 |
3位 | ヘザー・マクフィー(アメリカ) | 567点 |
4位 | エリザ・アウトリム(アメリカ) | 485点 |
5位 | クロエ・デュフォー-ラポイント(カナダ) | 452点 |
6位 | 伊藤みき | 382点 |
8位 | 上村愛子 | 370点 |
15位 | 村田愛里咲 | 240点 |
男子 | ||
---|---|---|
1位 | ミカエル・キングスベリー(カナダ) | 890点 |
2位 | アレキサンダー・ビロドウ(カナダ) | 793点 |
3位 | パトリック・デニーン(アメリカ) | 597点 |
4位 | ブラッドレイ・ウィルソン(アメリカ) | 464点 |
5位 | マーク-アントワン・ギャニオン(カナダ) | 344点 |
6位 | 遠藤尚 | 332点 |
W杯は各戦1位100点、2位80点、3位60点……、30位1点といった順位ごとのポイントが与えられ、獲得ポイントでシーズンの総合優勝が決まる。男子はミカエルが29位以下でないと、アレキサンダーの逆転はなく、その可能性は極めて低い。ミカエルの2年連続総合優勝はほぼ決まっていると言える。
それに対し女子は、1位と2位の差が36点差なので、例えばハナ3位、ジャスティン優勝なら順位は入れ替わる。ジャスティンの逆転総合優勝となるわけだ。
第7戦以降第11戦まで毎回、ランク1位が着るイエロービブはこの2人が交互に獲得してきた。最後はどちらが勝ちとるか、注目の戦いになる。
ハナが勝てば、3年連続4度目の総合V。決して他に譲りたくないビッグタイトルだ。ジャスティンが勝てば、19歳直前でW杯女王になるという大チャンス。歴史に残るタイトルとなる。両者とも引けない、意地の勝負なのだ。
デュアル戦だけに、もし直接対決になったら、観る者としては最高に面白い展開だ。
そして、今回は今季最後のコラムである。まだ最終戦は残るが、今季の戦いから見る来季ソチ五輪に向けた展望について触れてみよう。
今季男子は予想通り、「'12季新王者ミカエル」と「帰ってきた'10五輪王者アレキサンダー」の一騎打ちだった。今のところ6勝の後輩と3勝の先輩。特に前半戦を見た感じでは、後輩が先輩を完全に追い越したように見えた。
ダブルフルとコーク1080の最高難度のエアを安定して操れ、状況次第で使い分けられる。課題と思われたスピードも、先輩と引けを取らないくらいになった。そんなミカエルは、全員がフルに実力を発揮すれば、一番高い点数が出るというイメージは完全に付いている。アレキサンダーが完璧に滑っても、ミカエルに惜敗する試合がいくつもあった。来季、五輪に向けても、このアドバンテージは生き続けると思われる。
アレキサンダー側の勝機としては、ターンとスピードで負けず、いかに相手にプレッシャーをかけられるかということだろう。自身の力をフルに発揮すれば、世界選手権のデュアルからスウェーデンの第10戦&第11戦を連勝したように、ミカエルの安定感も揺らぐ展開は必ず出てくる。
[写真1]先輩アレキサンダーに競り勝ち、改めて№1を示したシーズンとなったミカエル。五輪金メダルにも自信を深めた。
[写真2]五輪金メダル獲得時より安定度は増したアレキサンダー。改めてチャレンジャーとなり、五輪連覇を狙う。
[写真3]勝負所でコーク1080を使用するようになった遠藤尚。2強を打ち破る可能性を十分に見せた。
2強に並んでいく可能性があるのは、ランク3位のパトリックではなく、ランク4位のブラッドレイ、ランク9位のディラン・ヴァルチックの若いアメリカ勢、ランク8位のアレクサンドル・シュミシャエヤエフ(ロシア)、そしてランク6位の遠藤尚らが挙げられる。最高難度のエアトリックを持っていたり、2強とは違うターンテクニックがあったり、個性があり伸びしろを感じる。特に遠藤は、五輪でも採用されるスーパーファイナルの常連になったことは、間違いなく大きな自信になっているはずだ。
また、意外なところでは、韓国のチョ・ジウも今後要チェックだ。世界選手権シングルのファイナル1を2位で突破した19歳。トリノ五輪銀メダリストのトビー・ドーソンがコーチをする新星だ。
来季に向けた夏のトレーニングにおける、彼らの成長具合によっては、五輪のメダリストも今の予想とは大きく変わる可能性がある。'06年トリノ五輪金メダルのデイル・ベグスミス(オーストラリア)が、五輪イヤーに急成長して頂点を掴んだのがいい例だ。
女子の今季は、総合タイトルこそ現時点では未定だが、女王ハナが女王候補ジャスティンを寄せ付けなかったイメージだ。9戦5勝の女王に対して、11戦出場している女王候補は1勝のみ。その差はまだまだ大きく、ソチ五輪に向けても女王の最強ぶりは揺るぐことが想像できない。「史上初の2大会連続金メダルも確実」とまで思える。
「勢いのある奴が金メダルを獲る」ことが多い男子に反して、女子五輪金メダリストは怪我や挫折などの苦労を経ている場合が多い。'02ソルトレークシティ五輪金のカーリー・トゥロー(ノルウェー)、'06トリノ五輪金のジェニファー・ハイル(カナダ)がそうだ。現女王のハナにしたって、W杯総合Vや五輪金に輝くまでには怪我で苦労した時期があった。今回のジャスティンも、歴代女王たちがくぐりぬけてきた試練を、同様に与えられているようにも見える。さて、今回の女王候補はどうなるか?ソチ五輪は、彼女にとってまだ時期尚早なのか…?
[写真4]史上初の五輪連覇へ向け、隙はなし。ハナは今季、ソチW杯、世界選手権シングルと抑えるべきところは確実に勝った。
[写真5]好不調の波はありながら総合V争いをしているのもジャスティンの底力。五輪に向け女王との差を埋められるか?。
[写真6]持ち前の安定度に加え、スピードやパワーも付けた伊藤みき。世界選手権での銀メダルは、五輪へもつながる!。
女子の五輪メダル候補は前述の2人に加え、W杯ランク3~5位のヘザー、エリーザ、クロエと思われ、今季のベスト5はしっかりと実力を表しているように思える。特に3勝を挙げているヘザーは、女子ではただ一人Dスピンを常用するようになり、アドバンテージを持っている。基本的に女子は、アメリカ対カナダのメダルの奪い合いになるだろう。
そして、その上位5選手に割って入る最有力候補は、日本勢と言える。W杯優勝を経験し、世界選手権シングル&デュアル銀メダルの伊藤みきは、表彰台を獲るための戦い方を知った。上村愛子は2度表彰台を獲得。しかし、この'08季W杯&'09世界選手権女王は、この程度の活躍ではまだ眠りから覚めていない。現役最後となる来季の“本気度”が楽しみだ。W杯ランクこそ15位だった村田愛里咲は、女子ただひとりのバックフルの使い手であり、しばしば女王をもぶっちぎるスピードを見せる。前回8位入賞に続く、来季は五輪メダルもサプライズではない存在になった。男子の遠藤を含め、ソチ五輪は史上最も日本勢メダル候補を多く期待できる大会となるだろう。
[写真7]女子では高難度のバックフルとスピードを手にする村田愛里咲。“勝てる”武器を持つのは大きな魅力だ。
[写真8]上村愛子のターンの評価は下がっていない。調整次第で表彰台に立つ能力のあることを今季改めて証明した。
さて、ソチ五輪は誰が笑って誰が泣くか?男子も女子も展望は見えたようで、意外な流れも予期させる。今季のW杯は、そんな興味をそそる前フリ的内容が、大いに詰まっていた。
STEEP
スキー・スノーボードの本質を追いかけるWEBメディア。90年代からフリースタイルスキーを追う編集部による、モーグルW杯の見どころを紹介。サイトでは様々な情報を更新中。https://steep.jp/
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