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臨機応変に対応するパラアリーナの今| 町田樹のスポーツアカデミア 【Repotage:東京に誕生したレガシーの今】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹 × 信氏建人さん
昨年開催された東京オリンピック・パラリンピック。開催都市東京に生み出された数々のレガシーを調査するべく町田樹が潜入取材。各施設の現在の姿と、それぞれが示した未来を解き明かします。
日本財団パラアリーナ
今回は東京臨海副都心地区にある船の科学館の敷地内に建設された日本財団パラアリーナに潜入。障がいのある人が利用できるスポーツ施設のモデルケースとして高く注目を浴びているパラアリーナは、東京パラリンピックに向けた選手育成を目的として2018年に設置されました。東京大会が終わった今もなお、パラスポーツの強化拠点として運営され続けており、レガシーの1つと言える場所です。
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町田樹のスポーツアカデミア 【Reportage:東京に誕生したレガシーの今①】 #10
配信期間 : 2022年9月20日午後9:00 ~ 2022年11月30日午後11:59
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町田樹のスポーツアカデミア 【Reportage:東京に誕生したレガシーの今②】 #10
配信期間 : 2022年10月25日午後8:00 ~ 2022年10月25日午後9:00
前回のおさらい
M:本日は、よろしくお願いします。
信氏(以下N):こんにちは日本財団パラスポーツサポートセンターの信氏建人と言います。よろしくお願いします。
M:当たり前と言えば当たり前なのかもしれないですけれども、フルでバリアフリーが入っているというエントランスなんですね。
駐車場から入口に続くスロープ
N:そうですね。やはり、駐車場からのアクセスもかなり大事なポイントになります。傾斜の緩い長めのスロープを含め3つほどスロープを用意し、なおかつ点字ブロック。車椅子ユーザーにとっては、この点字ブロックが逆に障害となりうるといったこともありますので。
M:車輪が引っかかっちゃう。
N:そうなんですよ。しかも、車椅子のパラアスリートは、日常使いの車椅子と競技用の車椅子を所持しており、自分が乗って、もう1つは押し格好になりますので1つの点字ブロックが2つの障害になりうるので点字ブロックは入口までの設置にしています。そして、エントランスは、玄関のところから段差を設けず、フルフラットです。館内にも段差が全くないような状況なので、車椅子ユーザーの皆さんもどこにでも自由にアクセスできる作りになっていますね。
M:なるほど。早速、アリーナに行きたいと思ったんですけれど、まず、このヴィヴィットな絵が目に飛び込んできました。インパクトがありますが、これは何でしょうか。
レゴブロック壁画
N:こちらは2015年、我々のオフィスが港区赤坂に開設した時に、香取慎吾さんが大きな壁面を描いてくださいました。こちらの作品は、香取さんの壁画をもとにレゴブロックで作られたものなんです。
M:なるほど。レゴなんですね。
N:そうなんですよ。日本にいらっしゃるレゴ認定のプロビルダー・三井淳平さんが作ってくださったレゴブロックの作品(実物大)になります。
Band Sofa
N:こちら中央にソファーがあるんですけれども、実はこれはこのパラアリーナ唯一の特注品です。経緯としては、新国立競技場が作られる際に、職人の皆さんがペットボトルや缶などで飲料をたくさん飲まれました。そのリサイクルで上がった代金をパラアスリートに活用したいと寄付をいただき、それを活用して作ったソファーです。
視覚障害者に配慮した白いラインと黒い床
M:アリーナ内ですが、目を引くのは廊下ですよね。白いラインがしっかりと引かれています。
N:視覚障がいは全盲の方もいれば、弱視の方もいます。そういった方々の空間認知をサポートするために、あえて床面は黒。そして壁面は白と、はっきりしたコントラストをつけることで空間認知しやすくしており、なおかつ床にもコートラインを模したような白いラインも引いております。そうすることで壁にぶつかったりしづらい工夫になっています。
M:なるほど。
ロッカールーム
N:各部屋の案内は、床面と扉面、全てを統一しています。車椅子ユーザーに関して言うと、特に目線が低くなりがちなので、床面に案内があると分かりやすいですし、弱視の方は見えづらいので、しっかりと扉に表示があると分かりやすい。また、スライドドアにも工夫があります。一般的なスライドドアだと、下にレールがあって、それに沿わせるような形ですが、ここは上から吊るタイプになっています。単純に上から吊るタイプの方が軽いので開閉しやすいというのもありますし、レールがあると車椅子ユーザーにとっては、それも1つの障害になってしまいます。なので、このタイプのものを採用しました。扉の取手も車椅子ユーザーもつかみやすい長めのデザインを採用しています。
N:ロッカーも車椅子ユーザーが使いやすいような工夫を行っています。例えばシンク手前の部分。あえて削られているタイプを採用することで、車椅子ユーザーの方でも手を洗ったり、顔を洗ったりしやすい工夫です。そして、下の部分。車椅子ユーザーにとって膝が当たってしまいます。もともと切り込みないがないままアリーナはオープンしたんですけれども「ここが当たってしまう」といった声を受けて、対応しました。続いて、アリーナに行きましょう。今日は車いすバスケットボール。そして左側でボッチャの練習が行われています。
アリーナ
M:なるほど。広いですね。バスケットボールだけとか、ボッチャだけではなく、2面を使って、いろいろな競技ができるようなエリアになっているということですよね。
N:車椅子ユーザーが使われるとタイヤのゴムの後が付くことがあります。また、車椅子ラグビーの選手は手に滑り止めのため、松ヤニを塗ったりするんです。この松ヤニがアリーナについてしまうので、アリーナの床材に関しては汚れや傷がつきづらいものを採用しています。
M:ここまで施設を丁寧に説明いただき、本当にありがとうございました。今までの私の頭の中に思い描くユニバーサルデザインという認識が、まだまだ甘いんだなということを施設紹介で痛感しました。そういう意味で、新のユニバーサルデザインがどういうものなのかを、パラアリーナを紹介する中で学ばせていただいた気がします。ここからは、ユニバーサルデザインのパラアリーナがどのような形で運営されているのかをお聞きしたいと思います。まず、施設を管理している日本財団パラスポーツサポートセンターと施設の関係を教えてください。
N:はい。もともと我々は2015年にできた組織です。赤坂に各競技団体さんも一緒に入った共同オフィスを作ったのですが、密にコミュニケーションを取っていると「アスリートの練習する機会がない」といった声たくさん受けました。それが2017年6月頃です。我々で「自前のアリーナを作るしかない」といったことになり、建設が決まりました。2017年12月から着工し、翌18年6月にオープンしたのが、このパラアリーナです。
M:ちょっと待ってください。2017年6月くらいに意思決定をして、その年末に着工して半年で作った。ものすごいスピーディな作業でしたね。
N:もともと東京パラリンピックが2020年に控えていたので、それから逆算すると2〜3年ぐらいしかありませんでした。とにかく早く作るしかないと。そういった思いで皆さんと臨みました。
M:そのスピードで、このクオリティーを作った。パラスポーツの各競技連盟との密な連携のもとに、協働した結果ですよね。
N:近しいところにいると、より生の声が聞こえますしアリーナの設計にあたっても「こうした方がいいんじゃないか」など、生のアドバイスをいただきました。そういった意味でもかなり期間は短縮できたんじゃないかなと思います。
M:この施設は2018年に設立されて、4年が経ちます。一時は、この施設は解体されるという報道もなされました。しかし皆さんの努力もあって継続しています。つまりレガシー化をしていこうということになったわけですけども、その辺りの経緯もお話しいただけたらと思います。
N:もともとここは船の科学館の土地を借りる形で運営しています。この土地は博物館事業=船の科学館の事業を行うために固定資産税的にも優遇されているような側面があります。東京都さんとも協議をして、2021年をもって解体することは既定路線でしたが、オープンして多くのパラアスリートの方に利用していただきました。「ぜひ存続を」という非常に強い多くの声があり、それをもとに関係者と再協議をしたところ、1年ごとに延長を認めるといった形で認められて、無事に運営ができている状況です。
M:実際に選手がこれだけ活躍すれば、長く存続していくのではないかと確信していますし、育ってほしいと願うばかりなんですけれども、先ほどの施設紹介の中で、例えば洗面所の下を削るといったように、オープンしてから分かった改善点も迅速に反映されています。ほかにもオープンした後に選手の声を取り入れた部分はあるのでしょうか。
N:例えばで、このエントランスにはもともとソファーがなかったんです。休憩や選手間同士のコミュニケーションを取る場がなかったこともありまして、2019年に設置に至りました。
M:オープンした当時は、ここはガラーンとしたスペースだったんですね。
N:はい。別競技や別チーム同士の交流が生まれづらかったんですけど、ソファーが1つあると、ここを起点にしてコミュニケーションが生まれることもあります。アスリート同士の交流も生まれている形ですね。
M:おそらくこれからも、そういう場所が見つかったり、新たな問題だったりが出ると思いますが、都度、柔軟に施設を使いやすいように改善しながら運営していくということですよね。
N:そうですね。我々も作って終わりというわけではなく、運営してみて、あるいは利用していただいて、その上で気づくことも多々ありますので、可能な限り修正、改善していきたいと思います。
M:なるほど。私たちがやっぱ知り得ないことや分かり得ないことってたくさんあります。それを整理して、この施設に全て反映させていくことをサポートセンターの方々ができるから、こうやって柔軟に動けるんだなって思うんですよね。
パラアリーナを使う選手たちの声
選手の様々なニーズに応えパラスポーツに特化した最適な施設。そんなパラアリーナを利用する選手の声を聞いてみました。
香西宏昭選手
M:車いすバスケットは東京パラリンピックで銀メダルを獲得しましたが、この施設の存在意義が大きかったですか?
香西宏昭選手:そうですね。東京パラリンピックに向かう中で、クラブチームの練習場所として存在してくれていました。代表の強化指定選手たちが集まって練習会を開くのもパラアリーナが中心で、トレーニングを積んできましたし、本当にパラアリーナがなかったら銀メダルはなかったんじゃないかな、と思います。このアリーナが残るのは本当にありがたいです。
佐藤駿選手
M:週に何回くらい、こちらの施設で練習されているんですか。
佐藤駿選手:週に2〜3回くらいです。
M:半分くらい、練習されているんですね。
佐藤選手:自宅から近から近いのもありますし、練習環境の中で1番、利用しやすい場所です。ボッチャのコートのラインも引かれているので準備の時間も短縮できますし、ボッチャをやったことがない人も利用ができるので、いい環境だと思います。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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