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「白鳥の湖ヒップホップバージョン」解説 |町田樹のスポーツアカデミア【Archive:フィギュアスケート・ザ・マスターピース】フィギュアスケートにおけるフュージョンの可能性
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部「白鳥の湖 ヒップホップバージョン」を踊る高橋大輔さん
今回のアカデミアはフィギュアスケートザマスターピースと題して、珠玉のプログラムが持つ奥深き魅力をじっくりと解説していきたいと思います。
現在、フィギュアスケートのシーズン真っ盛りで、白熱した競技会が至るところで開催されています。そうした競技会を見ていると、改めてスケーターたちが披露する演技のスタイルが実に色とりどりであることがわかります。あるスケーターはバレエのスタイル。あるスケーターはタンゴのスタイルで演技をしています。それ以外にもフラメンコやジャズ、ミュージカル、ヒップホップなどなど、様々なジャンルのスタイルがフィギュアスケートでは見られますよね。
この場合、スケーターはフィギュアスケートと何らかの舞踊ジャンルを掛け合わせてプログラムを創作し、演技をしているわけですが、こうしてジャンルとジャンルを融合させることをフュージョンと言います。今回はこのフィギュア界で多く見られるフュージョンという創作技法の可能性について探求していきたいと思います。
腕の動かし方が大事
ポール・ド・プラ(腕の動かし方)
ここからは私が4つのポイントについてデモンストレーションしながら解説していきます。
主にバレエには4つのアームスポジションがあります。まず、アームスを輪にして、たおやかな曲線を作って下に置くのがアン・バーのポジションです。クラシックバレエの用語というのは全てフランス語になっていますので、アン・バーも下にという意味があります。
このデモンストレーションでは、フランス語と日本語もうまく補足で入れながら説明をしていきたいと思います。
首を長いままアームをみぞおちのあたりまで前に持っていくのがアン・ナ・ヴァンのポジションです。これが前へという意味ですね。そして、そこから上に持っていく。これがアン・オーのポジション。上にという意味ですね。
そこからたおやかにアームスを開いて真横に置いてあげるのがア・ラ・スゴンドというポジションです。日本語で訳すとセカンドポジションという意味なんですけれども、横に置くポジションです。このように、バレエでは下、前、上、横。この4点を基本に腕を動かしていきます。
バレエにはいろんな腕の動かし方がありますけれども、必ずこの4点を通っていくわけです。例えば、アン・バー、アン・ナ・ヴァン、ア・ラ・スゴンドからアン・オーを通して、また前。そして遠くに送り届けていく。そういうふうにこの点を必ず通ってアームスを動かしていくわけですね。この点を通らずに適当に動かしていると、どんなに優雅であってもあまりバレエ的ではないということになるわけですから、腕の動かし方が非常に大事になるわけです。
股関節を外旋させて整える基本姿勢
関節の外旋
バレエは基本的に全ての関節を外側に動かしていく。足も全部外。外にひねってポジションを取ったり、踊っていったりします。窮屈な動きはクラシックバレエの中にはありません。
全部外に向けて動いていきます。例えば股関節。極めて大事ですけれども、ジャンプ、ランディングをした時、足を前に出す時。全て股関節の球体関節を外にひねっていく。そうするとターンアウトポジションができます。これが内股とかはありえないわけです。
このターンアウトはフィギュアスケートのフリーレッグ。つまり氷から浮いている方の足を美しくする上で重要なポイントになるわけです。例えば、ジャンプを飛んでターンアウトをしてなかったらこんな感じになるわけです。内に関節を回すとこのような感じです。フィギュアスケートの靴は固いので、足首が90度に曲がったままです。まっすぐにはなりません。
バレエは、ポワントと言いますけれども、つま先まで伸びますよね。なので、よりターンアウトが必要。ここからすっとラインが伸びているのに、足首で途端にカクって曲がってラインが途切れます。これは美しくないわけです。この状態から股関節を外旋させると、ラインがスッと通る。股関節を外に回していくことで下半身のターンアウトが実現するわけですが、それをすることで、フィギュアスケートでもフリーレッグがとても伸びやかに美しく形作ることができるのです。
バレエ特有のステップについて
まず、クラシックバレエでとてもメジャーで基本的なポジションがいくつかあります。膝を曲げてつま先を膝にくっつけるパッセのポジションというのがありますけれども、これをドン・キホーテの中にはたくさん取り入れました。
フィギュアスケーターもよくやりますけれども、スパイラルは足を高く上げるものですが、そこまで上げずに45度くらいの高さで足を上げる。頭からつま先まで、後ろのアーチを綺麗に整えるポジションをアラベスクと言います。こうしたアラベスクポジションでも滑っていたりする。
それからもうひとつ。わりと女性スケーターが多く取り入れますけれども、足を90度に曲げるポジション。バレエでアティテュードと言いますが、こうしたポジションも入っています。さらに、もっと動くようなステップもあるわけですね。
パ(バレエのステップ)
例えば回転技。フィギュアスケートの回転は、ツイズルとかスピンとかいっぱいありますけれども、バレエにもたくさん回転技があるんです。そのうちのひとつがシェネという回転技。スケート靴のつま先で立ってくるくるくると滑っていくような振り付けも入れています。残念ながら映像には足元が映っていないところなんですけれども、タン・ド・フレッシュというダイナミックな技も取り入れており、ジャンプして足を伸ばすダイナミックな技も入っています。
それからドン・キホーテはスペインが舞台なので、踊りのスタイルがスパニッシュ。闘牛士のようなポーズがたくさん入っています。スパニッシュの象徴的なポジションですけれども、足の配置はイナバウアーです。
私のプログラムでも、イナバウアーをやっている時に、足の形がさっきのポジションに似ているので、イナバウアーとスパニッシュポジションのフュージョン。そういう場面もあるわけです。バレエのパとスパニッシュのポジション、スタイルがフィギュアスケートの中で融合しているところを見ていただきたいと思います。
バレエの作品形式、振り付けの構造について
これはバレエのドン・キホーテという作品。大体グランドバレエといって、2時間くらいかけてバジルとキトリの恋物語が描かれているわけです。長いですよね。ですから、場面、場面で幕があります。第1幕、第2幕、第3幕という形でパートを分けて物語をバレエでも展開していく。そうした幕の構造。物語を分けて表現する構造そのものをフィギュアスケートで取り入れたのが私の作品です。
フィギュアスケートは普通、スタートポジションに立って、音楽が鳴ったら最後までノンストップで演技をします。そういうフィギュアスケートの演技のスタイルを覆して、幕で割っていく。私のドン・キホーテも三幕構成になっていて、それぞれテイストが異なるので、それも注目してほしいです。
そして、バレエには2時間の中でいろいろな登場人物がいろいろな踊りをやっていくわけですけれども、最も注目される見どころが、ところどころ入っているわけです。特にハイライトとなるところ。ドン・キホーテという作品においては、主人公であるバジルとキトリがひとりで、それぞれ思いきり踊る場面があります。
1番の見どころとなる踊りをバレエではバリエーションと言います。例えば、バジルという役柄がひとりで思いきり踊るところはバジルのバリエーションと呼ばれますし、キトリが1人で踊るところはキトリのバリエーションと言われます。
グランドバレエにはバジルのバリエーションというめちゃくちゃかっこいい振り付けがあるんですけれども、その音楽と振り付けをそのまま抽出して、第1幕の技のバジルに応用しているわけです。第2幕、第3幕は、私のオリジナルの振り付けなんですけれども、第1幕に関しては、バレエのバジルのバリエーションの振り付けをそのままフィギュアスケート化するような趣向を凝らしています。
では、こうしたポールドブラ=腕の動かし方。ターンアウト=体を外旋させて動かす体の使い方。バレエのステップであるパ。そして最後が幕の構成。バジルのバリエーションを踏襲した第1幕の振り付け。こういったところを特に注目してご覧いただけたらと思います。
演技を解説
実際の演技の様子は番組でご覧ください
演技冒頭、無音の状態でバジルが登場です。そこからトリプルルッツを決めてポーズ。こうして登場のシーンを演出しています。第1幕は技のバジル。古典バレエにおけるバジルのバリエーションの振り付けをフィギュアスケート化して、技術力をこれでもかと見せつけ、かっこいいバジル像を表現しています。
スピンをして勢いをつけて2回連続でジャンプを入れていくのですが、バレエの振り付けもフィルエットという回転技から勢いをつけて2回跳躍。そしてフィニッシュへと至っていく構造を取っています。この作品では、全く同じような振り付けでフィニッシュです。
第2幕は夢見るバジル。ひたむきに夢を追い求める青年バジルの内面を表現していきます。とりわけ第2幕はポールドブラ。バレエ特有の腕の動きを意識して振り付けが創作されています。足元が映っていないんですけれども、バレエのタンドフレッシュという技が入っています。
アン・オーから開いて丁寧にたおやかに腕を動かしていきます。そして、イナバウアーでスパニッシュポジションを合わせている。パッセからスパニッシュポジションと、ここもバレエのパが踏襲されています。音楽が滑らかなので、スケートのターンやステップを思う存分使いながら、伸びやかな音楽をエッジワークで表現していきます。
音楽の盛り上がりとともに、ダブルアクセル。バレエのアティチュードポジションからアロンジェといって開いた動きでスパイラル。そして最後。コンビネーションスピンで第2幕を締めくくっていきます。
音楽が流れていて、幕の中では早着替えして衣装チェンジをしています。赤いベストに着替えて登場しました。第3幕は祝祭のバジル。夢や恋が実って歓気あふれるバジルの心情を表現しています。
ここからクライマックスです。この部分は、バレエのバジルのバリエーションの特徴的なふりを引用しています。フロアの動きをそのまま氷上に落とし込んでいるということです。そして、サーペンタイン・ステップで会場を盛り上げた後にフィニッシュです。
さて、「ドン・キホーテ、バジルの輝き」はいかがでしたでしょうか。私自身、フィギュアスケーターでしたが、同時に、2015年から本格的にクラシックバレエも習っておりました。東京バレエ団の元プリンシパルダンサーである高岸直樹さんに師事をして、今でも日々バレエのトレーニングに励んでいます。そうして、私自身も一生懸命フィギュアスケートとバレエのバイリンガルを目指してトレーニングをして、ようやくバレエのノウハウも身についてきたので、2017年にフィギュアスケートとバレエで培ったノウハウを融合させてドン・キホーテを作ってみました。
これは本当にバレエ作品のドン・キホーテからたくさん振りだとか振り付けの構造を引用しているので、気になった方はバレエのドン・キホーテも鑑賞してみてください。そのバレエのドンキ・ホーテとこのフィギュアのドン・キホーテを見比べてみるといろいろな発見があると思います。
「白鳥の湖ヒップホップバージョン」
ケーススタティー2:高橋大輔《白鳥の湖 ヒップホップバージョン》
続いて取り上げるフュージョンプログラムは、高橋大輔さんが2007年に演じた「白鳥の湖ヒップホップバージョン」です。この名の通り、この作品はフィギュアスケートとヒップホップをフュージョンさせた作品です。振り付けはニコライ・モロゾフさん。2007、2008シーズンのショートプログラムとして振り付けられました。
私は当時このプログラムを見て度肝を抜かれました。今でも思うんですけれども、この作品はフィギュアスケート史上、最も巧みにフィギュアスケートとヒップホップを融合させた演技だと確信しています。高橋大輔さんは、当時インタビューに答えていて、「本当はプログラムにヒップホップを取り入れることは嫌だった」と話しているんですよね。なぜならば、「プロのヒップホップダンサーからなんちゃってダンサーだよね」って言われるのが嫌だったかららしいです。
だけど、一念発起して、ニューヨークを拠点に当時の高橋さんは競技活動されていましたから、ニューヨークでヒップホップスクールに通ってダンスをマスターしたようです。それだけ、フロアの踊り。ヒップホップもちゃんとトレーニングして高橋さんはスケートとヒップホップのバイリンガルとして、プログラムを完成させたということです。
このプログラムにおいて、ヒップホップの何が最も取り入れられているかというと、やっぱりストリートダンス特有のリズム感やノリがスケートに取り入れられているわけですけれども、ここからは私がデモンストレーションをします。どのようにヒップホップのリズムやノリというものがスケートに応用されているのかということをご説明していきたいと思います。
ヒップホップのノリ、リズム感について
ヒップホップとのフュージョン:重要ポイント
高橋大輔さんの「白鳥の湖 ヒップホップバージョン」を解説するために、その前提としてヒップホップのノリ、リズム感についてお話をしていきたいと思います。ヒップホップはビートのある音楽です。ビートに動きを合わせていくということですが、そのリズムにどう動きを乗せていくかというと、音楽は基本的に8カウントで展開していきます。
8拍のリズムの中で、どの拍を取っていくのか。ビートが変わっていくわけですね。オーソドックスなノリ方としては、この8カウントのうち、2拍を取る2ビート。4拍=奇数を取っていく4ビート。それから全部取っていく8ビート。さらに、拍と拍の間にはエンカウントというのがあります。そして8カウントの間のエンカウントも全部取っていきましょうというのが16ビートですね。このように、バイ・バイゲームで取るリズムを増やしていくのです。
ちなみに、ヒップホップのメジャーなリズムの取り方としては、アップとダウンというものがあります。アップというのは上の動きでリズムを取っていく。ダウンというのが下の動きでリズムを取っていく。16ビートまで行くと、アップで取っているのかダウンで取っているのか、よくわからなくなるほど難しくなってきます。オーソドックスなのはこの辺かな。音楽のビートをそのまま表現すると、8ビートになるわけです。
音楽のビートをデモンストレーション
ヒップホップとのフュージョンは、ヒップホップのリズムのノリ方をフィギュアスケートに応用しなければいけないわけです。どんなにヒップホップの音楽を使ってフィギュアスケートをしたとしても、リズム感がなければ、それはヒップホップとは言えません。
高橋さんのスワンレイクヒップホップバージョンも、このリズムをしっかり使い分けています。このリズム、ビートをどういうふうにフィギュアスケートに応用させていくのかというと、基本的にはこのビートをステップしながらどうやって取るかというと、例えばフィギュアスケートはクロスオールと言って足を交差させたり、ジャンプの前にクロスしたりして勢いをつけていきます。その時に、足踏みだと捉えて、クロスロールも同じようにリズムを表現することができます。
また、ひとつのターンの中で工夫を凝らせばリズムが取れるわけです。めちゃくちゃ簡単な、初歩的なスリーターン。ターンというのは、前から後ろ向きになる。あるいは後ろ向きから前向きになる。体を前から後ろ、後ろから前と切り替えるのがいわゆるターンですね。
その中でどうやって取るかというと、基本的にターンというのは曲げた状態からターンする時にアップしてまた曲げる。スリーターンであれば数字の3みたいにくるんと変わるわけですけれども、膝を曲げて伸ばして、くるんとターンして、また曲げて抑えていくわけです。だからそのまま膝の動きがアップダウンしています。ダウン、アップ、ダウン。ダウンで取る場合には、膝の曲げているところでリズムを取ればいいわけです。これはブラケットもそうです。
ロッカー、カウンターはひとつの円からカーブを切り替えていくターンですけど、これも一緒ですね。ダウン、アップ、ダウンで滑っていける。それからツイズルも。これはもう単純に、体が反転するごとにビートが打ち付けられていけば、ちょうどリズムが合います。モホークなども足を変えて滑る。足が変わるタイミングでリズムを取っていくことができれば、ヒップホップのリズムがうまくスケートに乗っていくわけですね。
フィギュアスケートと縦ノリ&アップテンポは相性が悪い
ところが、こうしたターンやステップは、本来バイオリンの伸びやかな音楽やオペラ、ミュージカル、クラシック音楽などのたおやかな音楽。一音がすって伸びるような音楽を表現することに長けているわけです。
本来的にはヒップホップの速いノリ。縦ノリはスケートに合わないわけです。スケートはスーっと滑っていくわけですから、なかなか難しい。ヒップホップはフィギュアスケートでは表現しづらいジャンルですね。しかしながら、高橋大輔さんと振付師のニコライ・モロゾフさんは、このフィギュアスケートの縦ノリがしづらいという弱点を、音楽編集とプログラム構成に工夫を凝らすことで克服しているのです。
高橋大輔さんのスワンレイクヒップホップバージョンは、BPM100以上のリズム感ですね。BPMというのは「beatperminute」の略。1分間に何回ビートが打たれるかという指標です。BPM100だったら、1分間に100ビート=100拍あるということですね。
このヒップホップのプログラムは3パートに分かれています。パート1は大体BPM100前後の音楽です。ビートが鳴っているんですが、白鳥の湖のメロディーが前面に打ち出されていて、ビートが後ろに行って、メロディーが前。ビートを無視しても大丈夫なようになっているわけです。
そこで、すごく伸びやかなジャンプが3本入っているのですが、ジャンプを飛ぶためには思いきり勢いをつけたり、長く滑っていったりしなければいけません。まさに白鳥の湖はメロディアスだから、そういう滑らかで伸びやかなスケーティングに合うわけです。
まず冒頭のパート1では、そういう伸びやかなリズム、メロディーに合わせてジャンプを3本、飛んでしまう。そして、パート2。スピンがあるんですけれども、そこからDJがスクラッチを鳴らして、よりヒップホップ的な音楽になっていきます。BPM100前後で変わらないのですが、今度は白鳥の湖のメロディーが一切消えてビートが前面に打ち出されます。このリズム、ビートに合わせてサーキュラー・ステップを踏んでいく。
当時はステップシークエンスで統一される前ですから、円を描くサーキュラー・ステップか、まっすぐのストレートライン・ステップか。あるいは蛇のように蛇行するサーペンタイン・ステップ。この3種類のどれかでなければならないというルールでした。まずはそのビートに合わせてサーキュラー・ステップが踏まれます。
サーキュラー・ステップが終わってスピンをやったら最後。クライマックスで1番盛り上がるところが来るわけです。ここでパート3になるのですが、BPMがそれまでのパートよりも約10増えます。ですから、1分間110のリズム。若干のテンポアップが見られるわけです。
ここでもまだリズムが前景化していて、めちゃくちゃかっこいいビートの中でストレートラインステップを踏んで、会場全体を熱狂させるみたいな形になっていくわけです。ニコライ・モロゾフさんは高橋大輔さんのために新しく白鳥の湖をヒップホップバージョンに仕立て上げたと思うんですけれども、最初はメロディアスに。そして後半はリズミカルにという形で音楽を巧みに編集して、伸びやかなスケートとリズミカルなスケート。両方を見せられる。そして後半ではヒップホップのノリがうまく入るようにステップを振り付けるというモロゾフさんの工夫によってうまくビートにノセているのです。
演技を解説
実際の演技の様子は番組でご覧ください
では、それを踏まえた上で、高橋大輔さんの「白鳥の湖ヒップホップバージョン」をご覧ください。2008年の4大陸選手権大会での演技です。
バレエ「白鳥の湖」の象徴的な動きから演技がスタートします。トリプルフリップ、トリプルトウループ。軽やかです。トリプルアクセルを飛びますが、この部分の音楽は後ろにビートが入っているものの、白鳥の湖のメロディーが前に出ています。このメロディアスな音楽に乗せて、冒頭、勢いのあるスケーティングとジャンプを繰り出していきます。
スクラッチをするような動きを入れてスピン。ここからよりヒップホップへと入っていきます。音楽が変わって、サーキュラー・ステップ。前半は8ビートでステップを踏んでいきます。ただ、途中から16ビートで細かくステップを刻む。このようにひとつのステップの中でも8ビートから16ビートへとノリ方が変わっていくわけですね。再びスピン。さらに音楽のテンポが上がります。ヒップホップ特有のアイソレーションという関節を動かす動きから、ストレートライン・ステップ。
ヒップホップのランニングマンを彷彿とさせるステップが入ります。サーキュラー・ステップの時のビートよりも若干BPMが早いんですね。110くらいです。最後にまたスピン。ここで白鳥の湖のメロディーが入ってきて、スワンレイクの振り付けで終わっていく。
高橋さんの「白鳥の湖ヒップホップバージョン」。今、見ても興奮しますね。そもそも、フィギュアスケート界では、2014年からボーカル入りの音楽が解禁されました。それまでは、クラシック音楽、ミュージカル、オペラ。そういう古典的なジャンルが多く表現されていたんですけれども、ボーカルが解禁された2014年以降は、ポップスやヒップホップ、エレクトロダンスミュージックのような現代的な音楽もたくさん使われるようになりました。
これはまだボーカル入り音楽が解禁される前の演技です。今は、たくさんの選手がヒップホップやストリート系の演技をしていますが、高橋さんのスワンレイクヒップホップバージョンの右に出るようなストリート系のフィギュアスケートプログラムを僕はまだ知りません。
さあ、ここからいろいろな選手がストリート系の演技に挑戦していくと思いますけれども、これがひとつの基準になると思います。今でも多くのスケーターが見て勉強になる。そういう価値のある演技だと私は思います。
最後に……
さて、いかがでしたでしょうか。今シーズンも多くの選手がフュージョンプログラムを演技しています。こうした演技を鑑賞する際、フィギュアスケートはもちろんのこと、掛け合わされている舞踊ジャンルのスタイルについても知っておくと、振付師がどのように創意工夫を凝らしてジャンルを融合させているのか。あるいはそのフュージョンプログラムの醍醐味はどこにあるのかが見えてきます。
皆さんも気になるフュージョンプログラムに出会ったら、ぜひそこに取り入れられているジャンルのスタイルについても調べてみてください。より深くそのプログラムを鑑賞することができるようになるはずです。
それでは、今回のアカデミアはこの辺りで締めくくりとさせていただきたいと思います。また次回お会いしましょう。ありがとうございました。
文:JSPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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