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#4【対談】町田樹 × 高岸直樹さんー「演技構成点」についてー(1) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部【対談】町田樹 × 高岸直樹さん
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
今回お迎えしたのは、高岸直樹先生です。東京バレエ団に所属していたプリンシパル・バレエダンサー。ミラノ・スカラ座など、歴史ある劇場でも客演。海外でも活躍されています。ダンスアトリエ主催ダンスコンクール審査員でもいらっしゃいます。
今回の対談ですが、演技構成点が5項目から3項目になります。【1】スケーティングスキル、【2】コンポジション、【3】プレゼンテーションに関して、どのように評価していくのかということを考えていきたいと思います。
テーマは、芸術性というものをいかに評価するか。それは、フィギュアスケート界のみならずバレエ界でも同様です。アートのコンクールもありますし、コンテストもある。そうしたコンペティションやコンクールにとっては、芸術点を評価しなければならないことは、永遠の課題になるわけです。この芸術点の評価法方について、バレエコンクールの審査システムを参考にしながら考えていこうというのが、今回のテーマの一つです。
二つ目に、フィギュアスケートの採点基準は、例えば他のダンススポーツに応用されることがあります。フィギュアスケートの芸術点は、他の芸術的なスポーツから参照される側ですが、今回は逆に、他の競技を参照しながら、自分たちの芸術点のあり方について考えていくことも必要だろうと考えました。
そこで今回は、バレエコンクールの審査基準とフィギュアスケートの審査基準を比較してみるということがテーマの二つ目です。そして、最終的に芸術点の理想的な評価方法とはどういうことなのだろうかということを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
ダンスコンクール審査員 高岸直樹さん
バレエコンクールの審査制度
町田(以下M):早速ですがバレエコンクールの審査制度についてお伺いします。どのような審査方法でしょうか?
高岸(以下T):ローザンヌ国際バレエコンクール。これと同じようなシステムで、クラスからしっかり見ていきます。コンテンポラリー、クラシックもいくつか踊るという形なんですよね。大概は、ソロを一つ踊って終了。それで点数をつけていくというのが普通のことですが、(ローザンヌは)5日間の中でどれだけ点数を過点していくか。5日間というのも、生徒の成長を促している部分もあるんですね。そこはすごくいいシステムだと思っています。
M:なるほど。最初の5日間を通して本番のパフォーマンスだけじゃなく、その前段階のレッスンから見る。そのようなコンクールの場合には、ダンサーを評価するということに加えて、ダンサーを教育する場でもあるということですよね。
T:そうですね。それはすごく感じますね。
M:例えばフィギュアスケートや新体操、一般的なアーティスティックスポーツに関しては、練習してきたことを競技会という会場での一発勝負。そうすると、その一発勝負のパフォーマンスで評価・結果が決まるというスタイルを取っています。確立されたバレエコンクールというのはローザンヌもそうですけれども、必ずしも本番一発勝負の場だけを見ていないということですよね。
T:そうですね。
M:言ってみれば、その前の練習も見ている。本番の実力じゃないところ。いかに作品を解釈したり、飲み込んでいたりするか。そして、そこにオリジナリティーを加えているかというクリエイティビティが評価されているのですね。面白いですね。実際にコンクールの評価方法についてお伺いします。バレエの場合はどうやって採点をしていくのでしょうか。
具体的な採点方法
T:部門に分けると芸術性、音楽性、技術性。先程お話したバレエコンクールですと50点満点になります。50点満点の中で芸術性、音楽性、技術性にそれぞれ何点を与えていくか。加えて自分の思う総合点を加味して、4部門ぐらいですね。
M:芸術性、音楽性、技術性、それからそれぞれの評価者の独自の感性を含めて50点満点。上限を決めて、その中で点数をつける。
T:大抵は平均レベルというのを審査員で決めちゃいますね。半分の25点からを平均レベルにして、そこからプラスにするかマイナスするかというのを決めるんです。そうしないと得点差が出てきてしまうので。
M:コンクールの平均レベル、ダンサーの平均レベルはこんな感じだろうと予測・推測する。その平均を25点くらいとした上で評価していく形ですね。独自にそういう項目で評価していくということに加えて、平均値からどれだけ上なのか、下なのかという相対評価でもある。フィギュアスケートも項目に応じて得点を出していきますが、バレエコンクールも似ているということですね。ただ、その項目が少し違い、それぞれの芸術性、音楽性、技術性、それから先生の感性、この4項目について、具体的にはどのようなことを意識しながら採点されているのでしょうか。まずは、簡単そうな技術性についてお伺いします。技術で大事なことはどのようなことでしょうか。
採点時に重視すること 【1】 技術性
アンディオール
T:バレエでよく言われるアンディオール。脚を外向きに使っていくのは、美しさを見せるのもそうですし、体を安定させるのもそう。やはりテクニックをスムーズに行っていくために、すごく考えられた動きです。それは、なかなか若い子はできていません。でも、それは、それぞれの骨格によってできないこともあるので、例えばアドバイスシートのようなものがあれば、アドバイスしながら審査しています。
M:バレエで最低限守らなければいけない作法ができているかどうか。
ピルエット
T:そうでうね。技術性でいうと一つの重要な項目になってきます。本当は全体を通して、私は全ての動きに対して技術にしても感情がこもっているか、機械的にならないかというのは見ていますが、テクニックはピルエットでいくら回れても、人の気持ちを揺さぶるようなものじゃないと。そこもバレエはすごく芸術で、表現が大切なんです。ピルエットをしながらでも表情が見えるようなところ、そういうことも私は加味しています。
M:フィギュアスケートですと、技術点はそうした感情などを一切なくしていて、機械的に何回転できたのかなどで評価していきます。でも高岸先生個人的には、機械的に回ることは大事だけれど、いかに表現が乗っているかということも技術点の中に加味している。バレエやダンスはスポーツではなく表現媒体であるということですよね。芸術の一つのカテゴリーで、高さや回転数を競い合うのではなく、いかに見せられるか。いかに伝えられるかということに重きを置いている文化だということですよね。
T:そうです。
M:ですから、技術と芸術性というものが綺麗に明確に分けて捉えられるものではなく、分かちがたく癒着して、離れられない関係であるということですよね。よく分かりました。続いて、音楽性はどうでしょうか。フィギュアスケートでも、音楽の解釈という項目が明確にあって、そこは通じる部分があると思います。
採点時に重視すること 【2】 音楽性
T:私的には、見ていて、まるで歌っているかのような場合、音楽を引っ張っていく。体が音楽になっていっているようなものを個人的にも目指しているんです。そういう子たちを見るとすごく嬉しくもなりますし、点数も高く持っていきたくなるんですけど、リズムはやはり、きっちり刻んでほしい。リズムはしっかり合わせる。下半身はリズムだと思っているので下半身は的確に、上半身で歌う。上半身がメロディーになる感じですね。下半身が的確に刻んで上半身はメロディーで引っ張ったり、抑揚があったり、中に出したり入れたりと感じています。
M:リズムとメロディ。
T:そうですね。リズムは外さない。でも、メロディーは伸ばす。そういう場合もありますね。
M:音楽のリズムとメロディーをいかに捉えているか。2つの要素が重要だということですね。
T:私はそう思っています。
M:ありがとうございます。次に、3つ目の項目である芸術性について。芸術性は何なのかということは、永遠の課題だと思いますが、高岸先生はどうお考えでしょうか。
採点時に重視すること 【3】 芸術性
T:先ほどの話にも通ずるところはあるんですけども、やはり、自分の心の中の豊かさ、想像力。例えば、手を出すだけでも思いがあれば、温かく深みが出てくるものがあると思います。それまでにいろいろな自然や美しいものを体験、経験して、豊かな気持ちになっていることがあれば、置き換えることができると思うんですよね。だから私は、そういう気持ちの中から出てくる創造性が豊かな芸術性を生むと思っています。
M:それは結構評価するのが難しいとも思います。やはり見て分かるものですか。
T:空気感が変わってくるんですよ。空気感がペタンとした平面的ではなく、何かに包まれたようなオーラ。立体的な空間が生まれてきて、その中に芸術性のある子は、香りが生まれてきます。体の中に香りが生まれてくるような感じです。
M:客観的に、良い悪いという価値判断をしなければ、やはりスポーツじゃないとは言われてしまいますけど、そういった価値基準が適用できないような項目ですよね。先生はたくさんのバレエダンスを見てきて、実際にいろいろな作品を踊られています。そのような分厚いご経歴があるからこそ、ミリ単位で醸し出されるものを捉えることができるのでしょうか。
T:いろいろなダンサーをたくさん見せていただいたのが、すごく勉強になっているかなと思います。
M:4つ目の項目は気になっていたのですが、評価者自身のセンス、感性も含まれる。トータルに見られているのがセンスなのか、別の評価の観点があるのでしょうか。
採点時に重視すること 【4】 感性
T:それをひっくるめた感じになりますね。芸術性のある人は音楽性もあったりしますし、音楽性、芸術性のある人はかなりの高いパーセンテージで、技術性もある。だから、トータルで必然的に高くなるというのが踊っているのを見てても感じることがありますね。
M:そうなんですよね。結局、音楽性、技術性、芸術性というのは、相関関係にあるわけですから。そして、ぜひ、フィギュアスケートも参考にしたいと思ったのが、高い確率でバレエコンクールには批評制度があるということです。
T:そうですね。2〜3年ぐらい前から、そういうコンクールが出始めました。ソロが終わったけれど、そのまま引っ込まずに舞台に残り、審査員の一人が、その人に対してアドバイスを送る。私も数回、参加させていただいていますが、まず私は、その踊った人のいいところを見て素晴らしかったということを伝えます。それを長所として伸ばしていきましょうということを話し、その後に、これからの改善点や目指していくレッスン、トレーニングというのを伝えますね。
M:バレエコンクールがダンサーの優劣を決めるだけのものではないということですよね。教育ということと密接にリンクしているからこそ、そういう制度があるということで間違いないでしょうか。
T:そういうことだと思います。
M:スポーツの世界になってしまうと弱肉強食で勝ったものが全てという世界になってしまいますが、フィギュアスケートのみならず多くのスポーツ界でも取り入れていきたい要素だなと、お話を聞いて感じていました。
T:そうなったら素晴らしいですね。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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