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#3 ISU技術委員 岡部由起子さんによる「ルール改正」について(2) | 町田樹のスポーツアカデミア 【Forum:フィギュアスケートが求める理想のルール】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部町田樹
北京五輪の後、国際スケート連盟は大幅なルール改正を発表しました。つまりフィギュアスケート競技は、来シーズンから新しい競技規則のもとで運営されます。
ですが、新しいルールに順応しようと必死になるばかりで、ルールそのものの在り方についてじっくりと考える機会は、これまであまりなかったように思うのです。そこで今回は「フィギュアスケートが求める理想のルール」と題して、業界内外から専門家をお招きし、これからのフィギュアスケートのルールがいかにあるべきかを建設的かつ学術的に討論していきたいと思います。
今回お迎えしたのは、元フィディアスケート選手で日本スケート連盟フィギュア部渉外部長 ISU技術委員の岡部由起子さんです。2016年からは国際スケート連盟フィギュアスケートの男女ペア部門の技術員に就任されおり、国内外でジャッジやテクニカル・コントローラーを務めています。Jスポーツでもフィギュアスケートの解説でおなじみです。
今回のルール改正によって具体的にどのようなことが変更されるのかを分かりやすく、ご説明いただく後半です。
町田(以下M):今回のルール改正に関して、【5】ジュニアにおけるシングルのフリースケーティングのステップ要素についてです。ステップシークエンスから、コレオシークエンスに変更されました。
岡部(以下O):当然、レベルはありますが、素晴らしい選手になってくるとコレオシークエンスがあると、ものすごくプログラムが盛り上がったり、ハイライトになったり、素晴らしいプログラムになりえますよね。
M:自由度が高いですよね。
O:ですので、ステップに縛られることなく、自由なことを選手たちが表現の中に組み込むことをしてもらいたいなというのが一つにあります。また、コレオシークエンスにすることによって、そこからプラス何を表現するか。何か面白いことをすることによって、プラスGOEが入ると差がつきます。
M:そうですね。
O:選手たちがステップシークエンスで、レベル4を取るのに一生懸命になるよりは、素晴らしいコレオシークエンスを組み入れることによって、見ている皆さんがもっと楽しめるのではないかという意図もあります。そういった意味ではコレオシークエンスに対してジャッジも厳しくなっています。もう音楽を反映するものでないとか、全然合っていないとなると、マイナスをつけてしまう。大きな失敗をしなくてもマイナスをつけていいとなっていますので、選手自身、コーチの皆さん、ジャッジを見ている皆さん、みんながもっともっと楽しめるものであったり、選手が自分の個性を出しやすくなったりすることを狙っての改正でもあります。
M:振付師も選手のオリジナリティ、クリエイティビティなど、やることがいっぱいある。その中で、どうやって投影をしたらいいかと悩んでいたけれど、コレオシークエンスは、それが許される。そういうことを、もっと増やしていこうということですね。よく、分かりました。選手の演技に影響するであろう主な改正ポイントは、これまで見てきた5項目かなと思います。
保留事項:ジャッジの役割を細分化
M:そして最後。気になるポイントが可決されませんでした。ジャッジを二つのパネルに分けようということですが、一つ目のパネルは技の出来栄え点。つまりGOEを評価する人たち。それから二つ目のパネルはPCS、演技構成点を評価する人たち。これに分けて、二つのパネルで採点をしていこうということが、今回、否決も可決もされずに保留となりました。「今後二年間をかけてやってみようじゃないか」とテストをして、もう一回、二年後の2024年に再び審議をしてみようということですが、この意図はどういったものでしょうか。
O:まず、役割分担が出きてきました。ジャッジには仕事がたくさんあります。GOEもして、コンポーネンツも同時に見ていかないといけない。コンポーネンツは、終わった後に思い出してというわけにはいかないんですね。メモをとって何が行われていたか、ここは曲に合っていたか、合っていなかったのか、ここは表現ができていたが、ここは表現ができていなかった、空間をどういう風に利用していたかということも含めて、ものすごくいろいろな情報を覚えておかなくてはいけません。それを点数に表していましたが、そういったことをするのは、とても大変なのは確かなことです。それなので、ジャンプがどうだったのか、スピンがどうだったのかということだけをするジャッジとコンポーネンツのジャッジを分けることによって、それぞれがもっと集中して、担当する部分を見ればいいのではないかという案から出てきています。
これに関しては、演技構成点も3つに減ってしまいました。見るものは同じですが、点数的に3つ出せばいいということになります。そのため、今回、可決できませんでした。それがあるのが一つ。それから、テストイベントをする前に決めてしまうのは大変危険ではないかということ。そして、ジャッジを分けてしまうことによって、一つの試合におけるジャッジの人数も増やさないといけません。簡単に分ければいいだろうということと、実際に試合で実施をする運営側にとってみると、それだけジャッジを多く招かなくてはいけないので、経費もかかる。そういったことも含めて、全てを考えないと現実的にはならないため、二年間かけて、実際にどうであるかをテストしてみないと、ということですね。
M:その他に岡部さんが注目されている改正ポイントはありますか? 例えば今、ここには反映されていないけれど、ISUでこんなことが議論されている。未来に向かって議論されているなど、気になるポイントがあれば、教えてください。
O:可決されたことの中に予選会をするというものがあります。以前、予選会はありましたよね。そこからなくなり、また予選が復活という形です。それがどのようになっていくのかなというのは、私も楽しみにしたいところでもあります。それから技術的なことで言いますと、スピンでレベル4を取るために「これがなくてはいけません」というものが、新しくできました。それに関しても「どうなっていくかな」と思いますし、選手たちがスピンをどのように工夫してくるのかなというのは、楽しみの一つです。多分、しばらく経って、「これをすれば絶対にレベル4がもらえる」となってくると、こちら側も違う提案をしていくということになっていくとは思いますが、一番大切なのは、フィギュアスケートが皆さんに愛されるスポーツであること。そのためにはどうしたらいいかというルール改正はされていると思います。
M:よくルール解説の理念も分かりました。最後に質問です。AI採点については、ISUでは、どのように捉えられているのでしょうぁ。
O:これに関しては、ISUでも今、ワーキンググループがあり、研究も行われています。実際に私はワーキンググループに入っていませんが、行われています。ISUとしても、少しでも早く取り入れることによって皆さんが疑問を持たれることがないように、そういうスポーツであるために前向きに進んでおります。
M:なるほど。今日はお忙しい中、本当に貴重なお話を聞かせていただいてありがとうございました。
O:ありがとうございました。
町田樹のスポーツアカデミア
赤平:今回印象的だったのは、ルール改正など、すべて意思決定やガバナンスは、ISUとして、より広く、より長くフィギュアスケートを多くの人に楽しんでもらいたいという大前提があります。その上で、いろいろな変革をしていて、例えば年齢を変えていく部分でも、表現力が高まっていけば、より長くファンも楽しめます。そうした考え方には、「なるほど」と思いましたし、いろいろな視点が加わっていたことも、よく分かりました。
M:実はISUの総会が開かれてから、様々な報道がなされています。ISUが公式的に出している情報は、そんなに多くはないんですよね。ですから、ルールの全貌はまだまだおぼろげなところもありますが、その中でISUの総会に実際に参加されていて、長年技術役員としてフィギュアスケートに携わっておられる岡部さんから話を聞けたというのは非常に貴重でした。確かなソースになりますよね。
M:その上で、今回のルール改正ですが、ここまで要点を絞ってお話しました。大きな改正だと言われていますけれども、報道されているよりも、そこまで大きくはないのではないかという風にも思います。選手のパフォーマンスを根底から変えていくような大きなルール改正では、とりあえずはありませんと思っていいのではと思うわけです。ただ、演技構成点の係数は男子の方が多く、その他のカテゴリーが少ないということはあります。SDGsやジェンダー平等ということが社会でも叫ばれている世の中ですので、技術点と演技構成点を50/50にするという理念は分かりますし、なるべく同じ方がいいのではないかと私も思います。
視聴者からTwitterで届いたご意見
「技術を取得するのに時間がかかり、かつ練習環境の確保が選手により全く異なる競技であるのに、ルール変更が頻繁で翌シーズン適応などは厳しいと思います。もっと早く決定するのが望ましいのではないでしょうか」
M :全く同感です。私も選手時代、これに関して申したことが一度だけあります。ルール改正の審議が行われて決まったとしても、実際に選手は、次のシーズンのプログラムがすでに制作し終わっている傾向があるんです。ですので、ルール改正に基づいてプログラムを手直ししなければいけないとなると、二度手間になる。理想的にはルール改正から1年くらいの猶予があって、そこから施行されるというのが道理なのかなと思います。考えてほしいですね。
「ジャッジの負担を減らすことには賛成なのですが、あまり評価がざっくりしすぎても、選手はどこを改善すればいいのか分からないと思います。ISU総会で出た技術点と演技構成点のジャッジを分ける案はいいと思いました」
M :そうですね。これも、ご説明があったように二年間のテスト期間を経て再審議されます。確かにプログラムコンポーネンツスコアが細分化されている方が、自分の点数が低いところが分かりやすくなります。ここが弱いから、もっと伸ばそうという気づきが得られるわけです。3項目でガツっと総括的に評価すると分かりづらいという意見が出るのも、最もなことかと思います。ジャッジの評価をいかにフィードバックするのかということにつきましても、後ほど、高岸直樹先生との対談でお話していきたいと思います。
「ジャンプに比べてスピンやステップの点数が低い印象があります。高難度ジャンプが少なくてもスピンステップで魅せられる選手も評価して欲しいです」
M :やはりジャンプの得点が一番高いために、そればかりに労力を割いているんですよね。私も選手時代、練習が100パーセントだとすると80パーセントくらいジャンプの練習をせざるを得ない状況だったので、この点数配分を変えるとパフォーマンスの性質も変わっていくことが見込めるのではないかというのも分かります。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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