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ピックアップ コラム 2021年3月31日

注目は五輪日本代表5人、阿部一二三とウルフアロンが国際舞台に復帰/グランドスラム・アンタルヤ2021

柔×コラム by 古田 英毅
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今年のIJFワールドツアー4つ目の「グランドスラム」、アンタルヤ大会が1日にトルコで開幕する。この模様はJ SPORTSで生中継される。

グランドスラム・トビリシに続く2週連続のビッグイベント、終了から中1日空けてアジア・オセアニア選手権が控えるという超繁忙期に行われるこの大会の目玉は、なんといっても日本代表選手5人の参戦。66kg級の阿部一二三(パーク24)、90kg級の向翔一郎(ALSOK)、100kg級のウルフアロン(了徳寺大職)、100kg超級の原沢久喜(百五銀行)、そして女子78kg級の濱田尚里(自衛隊体育学校)、全員がきたる東京五輪の代表である。

五輪本番の開幕まであと100日あまり。実戦感覚の維持と現在地の確認のためには大会出場は欠かせないファクターだが、技術・作戦の秘匿という戦略面や「鍛錬期」の確保というコンディショニング上の観点からは、そうそう頻繁に試合に出るわけにもいかない。まして現在はコロナ禍のさなか。海外大会への出場はそのまま帰国後の2週間を事実上棒に振る(隔離期間)ことになるわけで、スケジューリングの難しさは常とは比べものにならない。今回が五輪前の「みおさめ」となる選手も多いはず。ファンならば絶対に見逃してはならない大会である。

阿部一二三選手

わけても注目は阿部とウルフ。ともに五輪代表内定後これが初の実戦、久々の国際大会出場である。

阿部は昨年12月に行われた異例のワンマッチ「東京五輪66kg級日本代表決定戦」以来の実戦、昨年2月のグランドスラム・デュッセルドルフ以来1年2か月ぶりの国際大会出場。コンディションは本人いわく「あの試合の時と同じくらい良い」とのこと。1次エントリーリストを見渡す限り、今大会に阿部の敵役が務まるレベルの選手は皆無。豪快な技で投げまくる阿部らしい柔道、圧倒的な内容で五輪に弾みをつけてくれるはずだ。加えて注目したいのはその戦いぶりの進化。足技や寝技を上積みして来たという技術的な幅の広がりはもちろんだが、あの丸山城志郎と繰り広げた24分間の激戦の経験、そしてただ1試合、たった1人の相手に勝つためにすべてを捧げたという異常な数か月が阿部の柔道にどんな影響をもたらしてくれるのか。ここにフォーカスして見守りたい大会だ。競った場面、うまくいかない時こそ注目である。

ウルフアロン選手

ウルフは実に、2019年12月のワールドマスターズ青島以来の実戦。この大会の直後に右膝半月板の手術を受けており、まずは五輪に向けてこの「新しい体」のフィット感を確かめるのが今回の課題。手術からは既に1年以上が経過、入念なリハビリとトレーニングを積んで準備は万全とのことだが、「五輪に向けて仕上りは85パーセント」と自信を見せる一方で、「練習と試合は違うはず」と本人の分析はドライ。ウルフ持ち前の頭脳的な柔道と豪快な一発が復活しているかどうかはもちろん、膝の手術を経て、課題の1つであった「受け」がしっかり機能するか、ここにひときわ注目して見守りたい大会だ。おそらく準決勝で戦うことになるであろう怪力選手、アルマン・アダミアン(ロシア)戦が最大の山場。膝手術後のフィット感、受け、ウルフが「増やした」と語る技の幅、全てが確認出来るであろう大一番である。

原沢は1月のワールドマスターズで久々実戦の場を踏んだが、フィットし切れず初戦で思わぬ敗退。今大会、そして続くアジア・オセアニア選手権と組んだ連戦で出直しを図る。今大会には2019年東京世界選手権で決勝を戦った世界王者ルカシュ・クルパレク(チェコ)が出場の見込み。原沢がこのシリーズのテーマに掲げる「海外選手と組み合う経験、自分の現在地の確認」にはまさにうってつけの選手。ぜひ再戦に期待したい。

向は1月のワールドマスターズでは絶不調、「気乗りしない」という風情のままあっさり早期敗退を喫している。この選手に関しては前後の文脈がない、そして見えない「まっさら」状態。昨今珍しい「勢い」や「流れ」に極端にパラメーターを振ったタイプの選手であり、五輪に向けてここでぜひ上昇機運を掴んでおきたい。

濱田は試合をこなすこと自体で調子を上げていくタイプ。本人も出来得る限り試合に出たいとの意向を強化サイドに伝えており、他選手と違って以後まだまだ大会に姿を見せる可能性も高い。ということは向とは逆に、単なる勝ち負けではない文脈、課題の消化率にフォーカスして観察するのが面白い。1月のワールドマスターズ・ドーハ決勝では宿敵マドレーヌ・マロンガを抑え込みながら逃がして苦杯。「ワンチャンス」を「たくさんの機会」に変える立ち勝負から得意の寝勝負に持ち込む移行技術の幅の広がり、そして取り切る精度の向上。ここに注目である。

文:古田 英毅(柔道サイト eJudo)
※3月30日時点のエントリー情報に基づいて作成しています

古田 英毅

「eJudo」編集長。国内の主要大会はほぼ全てを直接取材、レポートを執筆する。自身も柔道六段でインターハイ出場歴あり。2019年東京世界選手権から、全日本柔道連盟の場内解説者も務める。J SPORTSワールドツアー中継ではデータマンを担当。

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